第5話 現実
――多分、かれこれ一時間くらいは歩いたと思う。
歩けども歩けども、村も、人っ子一人すらも見当たらない森の中、本当にリアの故郷にたどり着けるのかと甚だ疑問を浮かべていた道中だったけど……それは、ただの憂いで終わる事となった。
「……………………あった」
その時、前を歩いているリアの背中から小さな、重苦しいどんよりとした声が聞こえた。
「……そっか」
その言葉だけで、私は何となく理解できた。
村の仇などと言っていたが、きっと一縷の望みは持っていたのだろう。
もしかしたら、無事な人が居るのかもしれないと、荒らされていない家があると。
――だが、それらは全て現実という名の元に水泡に帰した。
「ひどいね、これは」
辺り一面の家には焼け
そしてその下には、下敷きになってしまった人間が作り上げた血だまりが作り上げられていた。
そうでなくても、辺りを見ればそこら中に死体が転がっていた。
家畜として飼われていた動物や、ペットとして愛でていたのであろう動物、そして私達よりも遥かに幼い少年少女とその両親。
「そう…………ですね」
俯きながら、ふらふらと安定しない足取りで、リアは奥へと進む。
その先に、彼女にとっての地獄が待ち受けていると知っているはずなのに。
「――――っ、」
一つの民家の前で、リアは足を止めた。
ここも周りの家と同様、悲惨な有様だが……彼女が見つめていたのは、そこじゃない。
その場に倒れ伏していた、手をつないだ男性と女性だった。
「パパ……ママ……あ、あ、ああ゛――――――――」
地面に膝をつきながら、顔を両手で覆い隠し
そんな彼女の背中を、私は黙って見ている事しか出来なかった。
言葉をかけようにも、きっと私の言葉は温かみの無い冷たい言葉だから。
「嫌、嫌だよ。こんなのっ……!!こんなの………………」
両親の握ったまま硬直している手を取り、両手で包む。
その間も、彼女の涙は留まることを知らず頬を伝い地に落ちる。
「せめて、埋めてあげよう。それが私達が出来るせめてもの手向けだと思う」
「嫌ですッッ!!離れたくない、離れたくっ………………」
首を思い切り振り、声を荒げるリア。
そんな彼女の様子を見て、私の体は――自然と動いていた。
「リア」
仮面を外し、地面へストンと落としながら、そっと彼女の後ろから手を回し体を密着させ抱き込む。
「――――――――!?」
私の突然の行動に、リアは驚き故か肩をビクッとさせ反応を示した。
昔、本当に昔……母親が私にハグをしてくれた時、確かな安心感と温かみを感じたから……あの人の子供である私ならきっと、同じ事が出来るはず。
「ごめん。私、会話苦手だから……こういう事しか出来ない」
「絡繰り、さん…………」
彼女の潤んだ瞳が、私を確かに捉える。
だから、私もしっかりとリアの瞳を見て――。
「両親の事、引きずるななんて言わない。実際、私だって色んなもの引きずってる。けど、せめて――せめて、そこで足踏みだけはしないでみてほしい」
「どうして、絡繰りさんはそこまで私に――――」
あのまま檻の中のリアを放置していたら、両親の死体を実際に見て絶望を知ってしまう今の彼女は居なかったかもしれない。
もし助けなかったら、ガリウスから口頭で両親の安否について告げられるだけだったというのに。
でも、私がリアを助けてしまった事で、彼女はこの場に辿り着いた。
そして、変わり果てた両親と再会してしまった。
だから――――。
「私にはリアを助けた責任があるから。キチンと、その責任は取る」
これくらいは、しないといけない。
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