第4話 目的地へ
――――歩いて、歩いて、道を進む。
林道を、道なき道を、リアの背を見ながら、ただひたすらに。
目的地であるアーラス村へと、歩みを進めていた。
「…………本当に、絡繰りさんがやったんですか」
どこかおぼつかない足取りで、私の前を歩くリアは言った。
考えるまでもなく、その言葉の意味は理解できる。
「うん。あの盗賊達は一人残らず全員、私が狩った」
偽る必要性も、隠す必要性も無い。
もう何百と殺しの任務を遂行してきた私にとって、人を殺したというその事実はそういうものだ。
それに、盗賊団や蛮族と出くわし、襲われた際に魔法を用いて自らの事を守るというのは誰しもがやっていることだ。
例えその結果相手が死んでしまったとしても、被害者に罪はない。
所謂私刑というのがまかり通る世の中。
――だけど、それでもうろたえているのは……今まで平和に生きてきた、戦いとは無縁だった筈の一村娘であるが故のものなのだろう。
「そう、ですか……」
私のその返答を聞いたリアは、静かに相槌をすると――突然立ち止まり、私の前でその歩みを止めた。
そんな彼女の突然の行動に、私も思わず立ち止まる。
「どうし――」
『どうしたの』と私が問いかけ終わる前に。
彼女は、食い気味に告げる。
「ありがとうございました!!」
「え」
清々しい程に奇麗なお辞儀と、たどたどしさとは一変したハキハキとした声色を発しながら感謝の言葉を述べる彼女に、私の口からは驚きと困惑が混じった声が零れていた。
「私を助けてくださった事、そして――故郷の仇であるあの盗賊団を倒してくださった事。感謝してもしきれません」
率直な感想を述べるとするのなら、この子は一体何を言っているんだろう。だった。
確かに、彼女を檻から出したのは他でもないこの私だ。それは感謝されるような事柄だと容易に理解できる。
けれど、盗賊団を倒した件に至っては彼女の為にやったものではない。
全ては組織からの命令を遂行しただけの事。
私は私の仕事をこなしただけに過ぎない。
「何か勘違いしてるみたいだけど、私は暗殺の任務で盗賊団を殺しただけ。何も貴方の為じゃない。それに、檻から救出したのも気まぐれ、
「――それでも!!……偶然だったとしても、絡繰りさんが私を助けてくれた事に変わりありません」
木々の隙間から縫うように差し込む月光に照らされながら、どこか朗らかな笑みを浮かべる彼女は「それと!!」と前置きをして言葉を続ける。
「私は、絡繰りさんを優しい立派な人だと思ってます!!だって、今こうして私についてきてくださるのは……その任務っていうのとは関係無い、絡繰りさん自身の優しさ故の行動じゃないんですか?」
そういう彼女の真っ直ぐで誠実な瞳は、黒い天狐の仮面を貫通し、私の瞳を確かに捉えて、見ていた。
褒められる事はあれど、感謝をされた経験が乏しい私は、こういった時になんて言えばいいのか分からなかった。
「…………別に、そういうわけじゃない」
だから、こんな冷たい事しか言えなかった。
けれど、これもあながち間違いではない。
私は彼女を助け出した責任を取ろうとしているだけであり、それは彼女の言う優しさとはまた別のもののはずだから。
「あ、顔そらしましたね~。もしかして照れました?」
またしても「くすっ」と笑いながら、リアは悪戯に告げる。
「…………口じゃなくて足を動かして」
多分、彼女の言葉が図星だったのだろう。
私には、ぶっきらぼうにそんな言葉を告げる事しか出来なかった。
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