お遊び日記
オオハル秋桜
短編小説 お遊び日記
「おい、そこのお前。ちょいと面白いものがあるんだがよっていかねぇかい?」
今日は12/31。こんな日に仕事にあたってしまった。あ~あ、世間は年末年始、除夜の鐘がどうとか、紅白に誰が出るとかで大盛り上がりだってのについてねえ。ちょいとじゃんけんで負けてしまったがために休みを返上して仕事なんて……しかも休日手当としてでるの、いくらか知ってるかい?5000円だとよ。そんなお金でめでたい日を仕事で過ごせっていうのかい。悪態をつきながら仕事をする。
「おい、あんた。よっぱらってこんなところで寝たら風邪ひいちまうぜ。後数時間で新年なのにそんなことになったら落ち着いて年も越せねえよ。」
酔っ払いに声をかける。
「あ~、ええぇ?おう兄ちゃん。こんな日まで仕事かい。これでもあげるから仕事頑張りな。」
飲みかけのカップ酒をもらう。
「(おいおい、俺は仕事中だってのに勘弁してくれよ。しかもかわいい子のものならまだしもおっさんのやつはな~)ありがとよ。ほら、帰った帰った。」
たくっ、めでてえやろうだ。こんな真っ昼間から酒なんて飲んで……。あ~あ、本当だったら俺も今頃ビール片手にテレビを見て、だらだら過ごしてたんだがな~
「おいお前、そこの酒片手にいっぱいやってるお前だよ。」
ん?誰だ?
「おい、そこのお前。ちょいと面白いものがあるんだがよっていかねぇかい?」
もしかしなくても呼ばれているのは一人しかいない。
「なんだよ爺さん。こんなところで露店なんて出していいのかい?」
「へへ、今日は12/31。こういう日は見逃してくれよ。」
「仕方ないな、で、面白いものってなんだい?」
「これだよ、これ。」
「なにこれ、日記帳か?」
「そうさ、この日記に書いたことはな~んでもかなう魔法の日記帳さ。」
「な~んでもかなうのかい。そりゃあいい。本当にそうだといいな。おい爺さん。こんな3ページしかない、しかも表紙もボロボロな日記帳。こんなもの誰が買うっていうんだい。」
「そりゃお前さんさ。どれ、お前さんの名前を表紙に書いてみな。」
佐藤太郎、と
「お前さん、字ぃきれいだな。でこのページになんか好きなことでも書いてみい。」
『突然仕事がなくなる』っと
ピロピロピロ
「はい、佐藤です。え、今日の仕事変わってくれ?そりゃまたどうして?あ、家で嫁さんがうるさい?別にいいけど家族サービスはどうしたんだ。まぁそういってくれるならありがたいけど。あぁ、来週の飲み会楽しみにしてるぜ。」
「で、お前さん。この日記帳買うかい?」
「あぁ、ぜひ買わせてくれ。で、いくらなんだ。」
「その酒をくれ。おりゃ~酒飲みでの。」
「おいおい、爺さん。こんな飲みかけのものでいいのか?」
「ああ、それがいい。それくらいがいいんだよ。」
知らないおっさんの酒と交換で日記帳を手に入れ、仕事もなくなり、言うことが何もねえ。後はちょっくらかわいい子でも来てくれると最高なんだが。
どれどれ、『かわいい子と年越しを過ごす』っと。
「あの~、もしよければ今日泊めていただけませんか?」
地雷系のかわいい女の子に声をかけられた。
その後のこと?そんな野暮なこと聞かないでくれよ。
「へぇ~、そんなことがあったのかい?」
「あぁ、びっくりしたよ。そんな魔法みたいなことが起きるはずないって思ってたんだけどな。」
「で、その日記帳はそれ以降使ってないのかい?」
「いや、それがな。気が付いたらどこにもなくて。」
「なんだ、残念だ。あ、そうだ。その爺さんとあった場所教えてくれよ。」
「あぁ、それなら向かいの通りだ。あそこのいかにもな通りだよ。」
さて、お酒を準備してっと。お、あの爺さんだな。
「おう爺さん、お店繁盛してるかい。」
「ぼちぼちだよ。」
「お、ボロボロの日記帳が売ってるじゃないか。ん?表紙に佐藤太郎って書いてるな。で2ページしかないじゃねいか。おい、爺さんこれくれないか?お代は酒でいいだろう?」
「おりぁ~いいが、お前さんはこんなものでいいのかい?」
「ああ、これがいい。これがいいんだ。」
どれどれ、さっそく書いてみるか。
『可愛い女の子と一夜を過ごす』、と
「で、結局何も起きなかったんだよ。」
「あぁ、どおりで。昨日はごちそうさま。」
お遊び日記 オオハル秋桜 @fair_kw
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