〈1話〉転生の導


神という存在を否定する訳では無いが、生まれてこの方信仰心など持ち合わせていなかった俺は自称神に哀れみの目を向けた。死後にこんなくだらない妄想を生み出した自分に対しても。


「神だって言うんなら、隕石から地球を救ってくれれば良かったじゃないですか。それともなんですか、人類の味方じゃないってタイプですか」


自分の妄想だとは分かっているが、せっかくだから意識が消えるまでの間話していようと決めた。


「神にも色々ある。あの滅びは俺には止められなかった。だが間違いなく人類の味方だ」




「借りにも神だっていうなら、もっと神らしい格好をしていてくださいよ」


自称神は明らかに神からかけ離れた容姿で俺の前に立っている。白色の交じる髪をオールバックに整え、目には目元が見えない程の黒いサングラスをかけている。ライダースジャケットに古びたデニム、REDWINGのブーツを履いているその姿で神と名乗られても、神を本気で信仰している人間ですら認めないだろう。


「これは趣味だ。そんなことはどうでも良いんだよ鈴木亜紀。お前が俺を信じようが信じまいがどうでも良いが、やって貰いたいことがある」


「死んでから出来ることなんてあるんですか?」


「ある。しかもお前にしか出来ない。お前は選ばれたんだ鈴木亜紀」


「誰が、何に俺を選んだんですかねえ」


冗談半分で聞いていると、神は俺の態度が不満だったのか軽くため息をつき、30センチばかりの刃渡りのあるナイフを取り出して俺の腕に刺してきた。


い゛っっっったい!!


「何、するんですか!?」


ヤバすぎるこのおじさん無言でナイフ刺してきやがった。頭おかしい所の話じゃない。


腕から脳内にダイレクトに響く激痛に悶絶していると、行かれだ自称神は今度は俺の腕に向かってふわふわした光の塊を飛ばした。それが傷口に当たるとたちまち痛みが消え腕の傷があとも残らず完治した。


「痛みはお前がまだ生きている証拠で、ここが妄想ではなく現実である証明だ。神の力で腕も治したし別にいいだろ」


確かにここは現実のようだ。こんなにも痛いのに妄想であって良いわけが無い。それに俺の腕を治したあの力。明らかに人間の到達できる医療の範疇を超えている。


まさに神の力。


「じゃあ神が俺をあの滅びから救ってくれたんですか?」


「肉体は死んだが、魂だけ救えたと言うべきだな。どちらかと言うとさっきも言った通り選ばれたんだ」


そういえばそんなことを言ってたな。さっきの刺された痛みで全部忘れてた。


「お前にはこれから、世界を救ってもらう。あの滅びた世界を再び取り戻せ」


「は?」


あまりの突拍子もない発言に思わず口が開いた。


「世界を救うんだ」


聞こえてるよその言葉は。その意味が分からない。


普通こういうのって、異世界転生じゃないの?流行っていたアニメを見た程度の知識しかないけど、死んだ後のお決まりは異世界転生して別の世界で人生やり直しってことぐらい知ってる。


「もう滅んだ世界を救うなんてアベンジャーズでも無理じゃないですか?既に負けてるんだし」


「敗北と諦めることは一体ではない。悪いが、詳しい説明をしている時間はない」


「いやいや、流石に説明無しってのは無理がありますよ」


「お前は前居た世界を救いたいと思っているはずだ。選ばれるとはそういうことだ。だからとりあえず前とは違う世界で力と知識をつけろ。話はそれからだ」


結局異世界かよ。


それに、ユキのことも知ってるのか、、、


「最後に、お前の相棒を紹介する」


「相棒ですか?」


「そうだ。お前は何がなんでもその相棒を守れ。そいつもきっとお前を助けてくれる」


そう言って自称神のおじさんはジャケットのポケットから小さな白い球体を取り出して俺に渡した。


すごくもちもちしていた。


すっごくもちもちしていた。


「何ですかこれ」


そう聞き返した時、突如空感が揺れた。1面真っ白の空間の1部に亀裂が走り、そこから赤色の光が溢れんばかりに漏れ出た。


「あっちの世界に行けばそいつも目を覚ますだろう。お前は歳を取らないが、タイムリミットはある。どうか上手くやってくれ」


自称神のおじさんはそういうとフィクションでしか見たことの無い魔法陣なるものを展開した。


「いやちょっとまっ、、、」


俺の抗議の声も届かず魔法陣の光に全身が飲み込まれ、次に目を開けた時、そこは既に俺の知っている世界ではなかった。

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もちもち異世界録 @yuki_librar

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