もちもち異世界録
雪
〈プロローグ〉
白に染まった世界で『それ』は目覚める。
覚醒した『それ』には肉体も感情もない。魂だけが存在する。
審判の鐘がなる。
世界は滅びへと向かう。
今回で499回の滅び。
最後の終焉が迫っていた。
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その日の午前中は雪が降っていた。夕方に雪は止み、俺は19時に勤め先の食品開発部での仕事を終えてジムに向かい良質な汗を流した後、歩いて帰宅していた。いつもは自転車を使うが、積もった雪に足を取られるため今日は自転車を控え徒歩を選択した。いつもより時間をかけて切り替わる風景を眺めていたから、普段はあまり気にしない空を見上げて夜空に星空が煌めいていることに気づく。田舎には電灯も家庭の光も少なく、その輝きが目の裏にまでその存在を訴えていた。
雪が止んでも分厚い雲が幕を張っていたはずなのに、星空が煌めいているこの現状に違和感を覚えた。そんなにすぐに曇天が晴れることがあるのだろうか。気象に関して詳しい知識があるわけでもないため、そういうこともあるよなと軽くとらえたが、家と会社の中間地点の辺りで空の異変を確実に捉えた。
隕石が降ってきていた。
あるいは彗星かもしれない。詳細は分からないが、空では綺麗な線を描きながら飛来物がその姿を現していた。
ニュースをあまり見ない俺だから、地球に何かしらの物体が近づいていることを知らなかっただけかもしれない。純粋に、その洗練された奇跡のような光景を疲れた眼で捉え足を止めた。
その時は、それが地球に落ちることなど想像もしなかった。
最初はひとつの飛来物に見えたそれは次第に量を増やし、家に着く頃には流星群となって夜空を覆った。スマホで情報を集めようと画面に目を落とした時、遠くの山にそれがひとつ落ちた。地響きと音が自分の立っている場所にも伝わり、もう一度空を見上げて先程よりも間近に迫ったそれらを見て悟る。世界は滅ぶと。
直後、地響きと轟音を轟かせそれらが地球に落ち始め、俺の元へも平等に滅びがやってきた。
眼前に迫るそれを見て、滅びとはこんなに綺麗で残酷なものなのかと心を揺らした。
そして思わず口に出た。
「ああ、またか」
自分の口から出た言葉なのか疑ったが、その声は明らかに俺が発していた。世界の滅亡を経験した人間など居ないだろうに。
自分の頭がおかしくなったのか考える時間は残されていなかった。発した言葉が脳内から消える前に俺の人生は世界と共に幕を閉じた。
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死んだはずの俺の意識が再び目覚めるまでどれだけの時間が経ったのかは分からないが、目を開けると目の前にはサングラスをかけたいかついおじさんが座っていた。
「おはよう鈴木亜紀。気分はどうだ?」
「あなたは?」
「神だ」
これが神との最初の会話で、これから起こる運命への反逆の出発点だった。
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