第5話 猫? おまえは猫だろう?

 子猫のお世話が始まった金曜日、正確に日付を記そう、五月二十日だ。夫は子猫に関心がないのか、夫婦喧嘩を引きずっているのか、仕事場に子猫を見に来なかった。

 ※以前、火事場猫を預かったときも見に来なかったし、当初は「これ以上、猫を家に連れてくるならその猫をこ×す」とまで言われた。が、保護した猫はわずか二日で里親のもとへ行ってしまい、拍子抜けしていた。すごくかわいい猫だったし。


 子猫を養育するにあたって、猫の移動があった。

 いつも夜に仕事場ですごすキジトラは、いったん実家の両親に見てもらうことにした。以前からちょくちょく預かってもらっていたので、ここはすんなりいった。※兄嫁が猫嫌いなのはこの際スルーである。

 自宅のハチワレと三毛は子猫とは分離。ハチワレは子猫の鳴き声に吸い寄せられるように、扉の前にきたけれど、むろろん会わせるわけにはいかない。ちなみに三毛はガン無視である。


 みうみさんが灰色のもふもふと決めてから、二人して、一週間後の五月二十八日にはみうみさん宅へ届けるかと予定していた。しかし、もらってくれば、子猫はガチの「離乳前の乳飲み子」だったので、どう考えても無理となった。なんせこまめな授乳がひつようだ。家に誰かしらいないとお世話は無理だ。そのため、さらに一週間後の六月五日は……こんどはわたしのほうに予定が入っていた。なので、順調にいって、六月十二日かと打合わせしていて二人してふと気づく。文フリ岩手は六月十九日だということに。

 ※そのあたりの気持ちの焦りは、まあ、お互いそれぞれだった。


 子猫は三・四時間に一度ミルクを飲ませねばならない、ということだったが、実際は二・三時間おきにミルクタイムといった調子だった。

 なんせ四匹。元気がありあまるもふもふ組、おとなしいしましま組。しかし、しましまの一匹がなぜか他の猫のお尻に吸い付くという困った行動を繰り返した。吸われているほうは、もちろん痛いらしくミューミュー鳴きながら振り切ろうとするが、とにかくしつこく繰り返す。

 後の、しましまちゃん(いまの名前はテルちゃん)だった。

 吸い付かれて悲鳴を上げる猫を助け出したり、逆にしましまちゃんを抱っこしたりとなんだか目が離せない。すぐにケージの中は汚れるので始終シートを交換する、ミルクを飲ませればなぜかシリンジの筒の方を激しく引っかき、ミルクが飛び散らせるもふもふ組。しましま組は落ち着いた飲み方だが、一回一㏄とかだったりするので、こちらがハラハラする。

 金曜日の夜は、仕事場に毛布を持ち込んで寝ることにした。

 明かりを消せば、やっと静かになってわたしも仮眠。

 しかし、三時間しないうちにお腹が減ったと鳴きだす。一時くらいに起き出してミルクの準備をする。

 ミルクを温める、シリンジで吸い上げる、子猫に飲ませる……しかし眠い状態で授乳させると、どれにやったか飲んでいないのはどれなのか、さっぱり分からなくなる。似たような柄×2だ。

 アピール激しいもふもふ組、控えめなしましま組。

 なんだかよくわかないまま、とにかく二周くらい飲ませたら大丈夫だろうと、授乳終了。シリンジは後で消毒しよう。戻って様子を確認して、また仮眠。

 今度は三時に授乳。眠い頭で考えた。まず、もふもふにミルクを与える。つぎに今つかんでいないほうのもふもふに飲ませる。そしたら、しましまその1にミルクを。最後につかんでいないしましまに……これで正確に飲ませたと確証を得る。排泄のお世話をすると、子猫たちはまた思い思いに眠る。

 わたしは、大人猫のために一度は布団で寝ようと二階の寝室へと行った。

 我が家は常夜灯を点けない派なのだ。暗い中、布団へ横になると床にたたずむ者がいる。たぶん、拗ねてしまった三毛だろう。

「おいで、おいで」とわたしは声を掛けた。しかし影はピクリとも動かない。よほど腹を立てているのか。もういちど、今度は舌を鳴らして呼んだが来なかった。わたしはもう睡魔との戦いに敗れて、猫を呼ぶのを諦めて眠った。今度は五時には起きようとスマホにタイマーを設定するのは忘れなかった。


 タイマーの音で、五時に起きた。瞼がくっついてなかなか離れなかった。

 布団から起きると、昨夜猫だと思って一生懸命声をかけていたのは、防虫剤の大袋だった……。


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子猫と踊るはラプソディー たびー @tabinyan0701

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