第12話 エピローグ
月曜日。
週末を挟んだので、久々の出社だ。
上司を含め、会社の人には随分と迷惑をかけてしまったな。
「あっ!お……おはよ……」
玄関を出ると、偶然にも千秋とバッタリ。
俺の顔を見て、どこか気恥ずかしそうにしている。
(……俺たち、本当に付き合い始めたんだよな)
改めて、実感が湧いてくる。
それにしても、こうして恋人とお隣さんとして暮らせるなんて、すごい幸運だよな。
「おはよう、千秋」
千秋は、本当に俺にとっての運命の相手だったのかもしれない。
俺の知らない間に男性への苦手意識が強くなってしまったようだが、これからはずっと傍で、彼女を大切にしていこう。
彼女は魅力的なので、悪い虫がつかないように、俺ももっと視野を広くしなければいけないな。
そんなことを思って、ふと隣を見る。そこでは、大きな荷物を抱えた業者の人が荷物を運びこんでいた。
まさか、引っ越しか?
偶然にも、俺のもう隣の住人も出て行ってしまうとは。
……というか、もう荷物を運び入れているということは、実は俺の知らぬ間に、元の住人は結構前に出ていっていたのかもしれない。
それにしても驚きなのは、すぐに入居者が決まったことだ。
この場所は、駅からは微妙に距離があるし、そこまで良い物件とは思えないのだが……
まあ、こればっかりは考えても仕方のないことなので、名残惜しいが俺は千秋と別れ、会社へと向かった。
♢♢♢
「おお、皆月!元気になったか!」
オフィスに着くなり挨拶を口にすると、上司が席を立って近づいてきた。
「おかげさまで。急に休んでしまいすみませんでした」
「いや、いいんだ。体調不良はどうしようもないしな。宮崎も心配してたぞ」
「宮崎先輩ですか?」
「ああ。……とは言っても、今日は彼女の方が休暇みたいだがな」
「え、そうなんですか?」
先輩が休みとは珍しい。
心配させてしまったようだし、俺が休んだことで仕事上迷惑をかけてしまったことだろう。
できれば直接お礼を伝えたかったのだが……
いないのであれば仕方ない。罪滅ぼしと言ったら大げさだが、今日は先輩の分まで仕事を頑張ろう。
それにしても、俺は建前上病欠となっていたが、実際に風邪を引いていたわけではない。なので、先輩にうつしてしまったということはないはずなのだが……
「宮崎先輩も、風邪ですか?」
「いや。私用と言ってたな。なんでも、引っ越しがあるとかで急遽休みが欲しいと言われてな。本人は申し訳なさそうにしていたが、部下の幸せを願うのも上司の仕事だと俺は思ってるし」
たかが休暇で部下の幸せとは、何だか急に話が大きくなっているが……
それにしても、また『引っ越し』?
いったい俺の周りはどうなっているんだ。
今時期は全然引っ越しシーズンじゃないぞ。
「え?今時期引っ越しですか?」
「ああ。俺としては、『告白してから同棲した方がいいんじゃないか?』って伝えたんだが、あいつは『いえ。待ってるだけじゃダメだと思ったので。これは勝負の引っ越しなんです』なんて言って、張り切ってたな。意識してもうかれこれ1年くらい経つだろうし、そろそろ……」
「宮崎先輩って、好きな人いたんですか?」
「え?」
「え?」
……え?
初耳である。
宮崎先輩は素敵な女性だが、男の気配は全くといっていいほど感じていなかったので驚きだ。
飲み会の後はよく彼女の愚痴を聞かされていたが、その内容のほとんどは学生時代の元カレの話だった。
なんでも元カレは酷い男だったらしく、俺と比較しては彼のことをボロクソに言っていたっけ。
「褒めても何も出ませんよ」といつも言っていたが……
しかし、俺と一緒で、ようやく先輩も一歩前に踏み出せたのなら、嬉しいことだな。
一方で、そんなことを考えている俺をよそに、上司はといえばニヤニヤと怪しげな笑みを浮かべながら俺の肩をポンと叩く。
「ま、あれだ。お前も頑張れよ」
……これは、アレだろう。
日頃からモテないと嘆いていた俺への励ましだ。
だから俺は、明るく返事をする。
「はい。もうすぐ……きっと良い報告ができそうです!」
今はまだ気持ちの整理がついていないが、彼女いない歴 = 年齢の俺を心配してくれていた上司には、恋人ができたことをなるべく早く伝えよう。
場合によってはからかわれるかもしれないが、それも良いかもしれない。なんて思う日が来るとは、一週間前の俺には想像もできなかったな。
上司は俺の言葉を聞いて、「そうか!」と笑顔をくれた。
「……ん?なら、なぜ宮崎の引っ越しの件を皆月は知らなかったんだ……?」
俺が席に着いた後、上司は何かぶつぶつと呟いていたようだが、よく聞こえなかった。
それにしても、恋人ができただけでこんなに仕事のやる気が上がるとは不思議なものだ。
帰ったら千秋と一緒に夕飯。楽しみだな……
よし、今日は先輩の分も頑張るつもりだが、効率的に仕事を進めるぞ!
俺は、幸せ者だ。
紆余曲折あったが、ずっと好きだった、忘れられない初恋の女性とこうして恋人になれたのだから。
恋愛沙汰になんて縁がない人生だと思っていても、ふとした何気ない日常の中に、思わぬきっかけが転がっていることを俺は学んだ。
これからも、そんな小さなきっかけを見落とすことがないように、人生を歩みたい。
街を歩くカップルを見るたびに、心がぎゅっと締め付けられることはもうないだろう。
これまでは興味のなかったイベントや新しい趣味も、隣に千秋がいてくれたら。
きっと世界は色づき、俺たちの未来は晴れ晴れとしたものとなることだろう!
♢完♢
【完結】忘れられない初恋の女性と数年ぶりに再会した俺には、ラブコメ展開が待っているはずだったのだが……!? よこづなパンダ @mrn0309
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