第3話 いまは昔、深層に翼ありけり
マクダレーナとフリューゲルは空を飛び続け、邪竜が潜む山脈へと辿り着いた。山々は邪竜の吐く炎で黒く焦げ付き、空には暗雲が立ち込めていた。
フリューゲルは高く舞い上がって停止すると、翼をゆっくりと持ち上げて勢いよく振り下ろす。すると彼の力によって形成された数多の光が凄まじい速さで邪竜に向かっていった。
光の矢は邪竜の鱗に傷を刻み、邪竜は突然の痛みに身をよじって咆哮を上げた。
フリューゲルは隙を逃さずに再び光を集めて連続で矢を放った。邪竜の体や翼に新たな傷が刻まれる。
フリューゲルに気付いた邪竜は反撃のために空へ向かって口を開く。そこから吐き出された緑色の毒炎は、山肌を腐らせ、空気まで澱ませたが、フリューゲルは巧みに旋回し炎を避けた。
マクダレーナも杖を掲げ魔法を唱えた。彼女から放たれた魔法が邪竜に直撃してその視界を奪うと、邪竜は混乱して頭を振る。
フリューゲルはその隙を利用して高空から急降下し、光の矢を邪竜の頭部に撃ち込んだ。矢は邪竜の角を砕き、邪竜は苦痛にのたうち回った。
怒った邪竜は翼を羽ばたかせて空へ昇ると、フリューゲルに向かって毒炎を吐いた。
フリューゲルは回避しようとするが、先程より広範囲の炎を前に避け切ることができない。
マクダレーナが慌てて魔法で盾を作るが、邪竜の強力な炎は即席の盾を破りフリューゲルの右翼に火傷を負わせた。
彼は痛みに耐えながらも、マクダレーナを落とさないために飛び続ける。
「フリューゲル!」
マクダレーナが即座に治癒魔法を唱えると青白い光がフリューゲルの傷付いた翼を包む。
治療をする彼女には、邪竜が再び炎を吐こうと口を大きく開くのが見えたが、フリューゲルの傷はまだ完全に回復しておらず避け切るのは困難に思えた。
彼女は必死で前回よりも強固な防御の魔法を唱える。
完成した魔法の盾は今度こそ邪竜の炎を防ぎきり、フリューゲルを守ってみせた。
「邪竜の気をそらす。止めは任せた!」
マクダレーナはフリューゲルを治療しながらも、連続で魔法の弾を放った。光球は次々と邪竜の翼へぶつかっていく。
邪竜の鱗は硬く、マクダレーナの魔法では傷ひとつつかなかったが、狙い通りに邪竜を苛立たせ、集中力を散らすことに成功した。
フリューゲルはその間に力を集め、巨大な光の矢を形成する。
「我らの勝ちだ。さらば、邪竜よ」
フリューゲルはそう言うと光の矢を邪竜へ目掛けて放つ。
邪竜は旋回しようとするが、矢の速度は邪竜の動きを上回りその体を貫く。
心臓を穿たれた邪竜は最後の力を振り絞って咆哮したが、力を失い地へと墜ちていった。
邪竜が死ぬと、山の上空に立ち込めていた暗雲が晴れ、青空が戻った。
フリューゲルは、邪竜に荒らされた国へ向かうと、空を旋回しながら大地に光を降り注がせた。
大いなる翼の再来と、その神々しい純白の翼から降り注ぐ光を目にした人々は、国の再興を予感し涙する。
そしてフリューゲルとマクダレーナは、勝利の余韻に浸りながら共に空を飛び続けた。
晴れ渡る青空の下で、マクダレーナは問いかける。
「フリューゲルはまたこの国の守護者として過ごすの?」
彼は悠々と空を舞いながら答えた。
「我は様々な土地を巡り、より広い世界を見てみたいと思う」
「そうなんだ。私はもう少しこの国の様子を見てから旅に戻ろうかな」
フリューゲルは、マクダレーナに秘められた情け深さを誇らしく思い、彼女の懸念を払拭するように言葉を続けた。
「我を甘く見るな。後ろを見るが良い」
マクダレーナが振り返ると、先程フリューゲルが飛んでいた大地は、早くも奇跡的な回復を見せていた。
枯れていた草木が生命力を取り戻し、葉が芽吹き始め、濁っていた水や空気は見違えるほど澄み渡っていた。彼女はその劇的な変化に驚嘆し呟いた。
「大地の守護者ってすごい」
彼女の率直な称賛に気をよくしたフリューゲルは、大きく羽ばたいてさらに上空へと昇った。太陽の光が彼の白い翼を輝かせている。
「我は世界を旅して、この国だけでなくより多くの土地を見守り、豊かさをもたらそうと考えている。過去に囚われず、より良い未来を得るために生きたいのだ」
フリューゲルは彼方を眺めながら、自らの決意をマクダレーナに伝えた。
「共に来てくれ。我が友よ」
青空の下、太陽が彼らの未来を祝福するかのようにフリューゲルの翼を照らし、風がマクダレーナの髪を靡かせた。
彼女は友の言葉に感じ入り、その願いに共感した。
「喜んで。一緒に行こう、翼(フリューゲル)」
こうして、フリューゲルとマクダレーナは邪竜を倒して国を救い、世界に豊穣をもたらした英雄として、さらに、悠久の時を超えて結ばれた友情の象徴として、人々の心に残り続けるのだった。
深層のフリューゲル 入谷慶 @iriyakei028
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