第2話 邪竜討つべし
マクダレーナは、壁画の一部に古代の言語で書かれた「封印の詩」を見つける。これは、封印する存在の名前などを唱えて、対象の力を抑えるための呪文だった。彼女はその詩を一部変えて、大いなる翼の力を取り戻すことを考えた。
「呪文に対象の名前を含める必要があるんだけど、あなたの呼び方は大いなる翼で合ってる?」
マクダレーナが問うと、大いなる翼は、彼女に別の名を考えて欲しいと言い出した。崇められ、勘違いから封じ込まれた過去を思い出したくないらしい。
「なんでもいい?後から文句言わないでね」
大いなる翼が頷いたので、マクダレーナは彼を「フリューゲル」と呼ぶことにした。
「フリューゲル、大地の守護者、豊穣を司る翼よ、汝に再び力を」
詩を唱えると、周囲の空気が変わり、微かな光が壁画から広間に広がり始めた。
しかし、弱められていた力は戻ったが、封印はまだ完全には解けていなかった。
「おお、力が漲るような心地がする。終わったのか?」
「まだ。フリューゲルの封印は呪文を唱えるだけで終わるような簡単な魔法ではないから、何段階か重なってる封印を解くことが必要」
「なるほど……確かに、飛ぶことはできないようだ」
マクダレーナの説明を聞いたフリューゲルは羽を伸ばそうとしたが、まだ翼は動かせないようで残念そうにそう言った。
「この空洞に封印を維持する要のようなものがあるはず」
マクダレーナはフリューゲルのいる空洞の中を探しまわって「封印の結び目」を見つけた。それは、古代の魔法使いたちが用いた封印を維持するための魔法陣だった。彼女は魔法陣に触れて魔力を注ぎ、結び目を解くとフリューゲルの方を向く。
封印は解けていないようで、彼は無言で首を横に振った。
最後の封印を解く鍵は占星魔法だった。封印が施された当時の星の配置を紐解き魔法を使う必要があった。
マクダレーナは、荷物の中から魔法書と星図を取り出し、壁画と照らし合わせ解読に取り組む。
マクダレーナがフリューゲルに出会って既に数時間が経過していたが、最後の封印はこれまでよりも難解な魔法のようで、彼女はしばしば地面に横になり休憩を取った。
その様子を見たフリューゲルはマクダレーナに労りの言葉をかける。
「世話をかける」
「いいよ。好きでやってるだけだから」
「物好きなのだな」
「そうでなければ魔法使いがひとり旅なんてしないよ」
「そういうものか」
時折言葉を交わしながら、フリューゲルは占星魔法に苦戦するマクダレーナを見守り続けた。
やがて、マクダレーナは封印を解く目処が立ったようで、長い時間齧り付いていた魔法書を地面に置き、杖を構える。
彼女が呪文を唱えると、空間に夜空が再現された。そして模倣された星々が勢いよく上へ向かって飛んでいく。
すると、不思議なことに洞窟の天井が音もなく取り払われ、マクダレーナたちのいる場所は空と繋がった。
こうして、ついにフリューゲルは解放された。彼の目は驚きに満ちており、解放された直後にフリューゲルはその巨大な翼を広げ喜びをあらわにした。
「まさか本当に封印を解くとはな。礼を言うぞ、マクダレーナ」
フリューゲルの声は感謝に満ち、彼の目には、封印から解き放たれた安堵が見えた。
「どういたしまして」
マクダレーナは優しく微笑み、恭しく頭を下げた。
彼女はフリューゲルの解放を心から喜んでいた。
「何かしてほしい事があれば言え」
フリューゲルの言葉には、彼女への深い感謝と恩を返したいという純粋な想いが込められていた。
「背中に乗って飛んでみたい」
マクダレーナの瞳は、子供のような無邪気な好奇心と期待で輝いていた。
「容易いことだ」
フリューゲルは短く答え、彼女を背中に乗せると、地底を抜け、外の世界へと飛び立った。
彼らは一瞬で地底から空へと昇り、風がマクダレーナの髪を撫でる。
鮮やかな青空を目に焼き付けながら、フリューゲルは悠々と風を切って飛んだ。
「久方ぶりに飛んだが、やはり空はいい」
フリューゲルの声は、自由への喜びと、再び空を飛べる感動に満ちていた。その言葉は、風と共にマクダレーナの耳に届き、彼女の心をも高揚させた。
地底から解放された喜びと、新たな友情に胸を膨らませながら、彼は恩人の名前を呼んだ。
「マクダレーナ」
「どうかした?」
彼女はフリューゲルの背中から広がる大地を見下ろしつつ、呼びかけに応じた。
「なぜ旅をしているのだ?」
フリューゲルの問いには、彼女への純粋な興味が込められていた。
マクダレーナは魔法使いであるが故に疎まれ、故郷を追われた経験を語る。
彼女の境遇はフリューゲルの心に深く響き、彼は彼女へのさらなる恩返しを決心した。
「邪竜を我が倒したならば、マクダレーナは邪竜退治の立役者となり、人々に受け入れられるだろう」
フリューゲルの提案は彼女への心からの感謝によるものだった。
「大丈夫。昔は居場所を求めたりもしたけど、今は純粋に旅を楽しんでるから」
マクダレーナはフリューゲルの想いに感謝すると共に、彼が人間に対して抱くであろう複雑な感情を想像し、そう答えた。
そしてフリューゲルもまた、彼女のそんな気遣いを察知して続ける。
「ではこうしよう。我の名誉挽回のため、共に邪竜を倒してくれ」
フリューゲルの目は、戦う意志と、彼女と共に歴史を刻む決意に燃えていた。
「仕方ないなあ」
マクダレーナも覚悟を決め、魔法の杖を握りしめた。
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