第5話 また来る春に

放課後、図書室に向かうと、そこには美咲先輩の姿はなかった。

窓を開けると、春の風がそっと吹き込み、桜の香りを運んできた。


机の上には、いつの間にか一枚の桜の花びらが乗っていた。

その花びらをそっと摘み上げると、指先にかすかな温かさを感じた気がした。


「……時々ね、僕は誰にも気づかれないものが見えるんだ。」


自分に向けた言葉なのか、それとも風に乗った誰かへの言葉なのか、自分でもわからない。

けれど、その声は静かに空気に溶けていった。


「またいつか、ね。」

耳の奥に彼女の声が響いた気がした。


「……またね、美咲先輩。」


僕はそっと呟き、花びらを窓の外に放した。

それは風に乗り、空高く舞い上がっていった。

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春を待つ君に 結城律 @shibahunagi

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