プロジェクト托卵

宮沢弘

プロジェクト托卵

 ちょっと体調が悪いなと思っただけだった。しかし、すでにステージ3とのことで、すぐに入院となった。早速妻にあれこれと用意し、持って来てもらうことにした。友人でもある医師から今後の予定は聞いたが、どうやら明るい見通しとは言えないようだった。

 ベッドに横になり、妻がなかなか来ないなと思っていた。もうそろそろ面会時間も終わろうとしていた頃、やっと妻がやって来た。驚いたのだが、来たのは妻だけではなかった。長男、次男、長女も一緒だった。看護師に頼み、面会室を時間を超えて利用させてもらうことにした。やけにあっさりと許可が出たことに首を傾げたが。

 「ごめんなさい」

 私がソファーに座ると、妻が突然頭を床に当てた。長男と次男もそれに続いた。長女だけは拳を握り震えていた。そうして見ている間に涙を零し始めた。

 「なにをしているんだ?」

 「ごめんなさい」

 妻と長男と次男は、そのまままたそう言った。

 「それじゃぁ、わからないよ。なにか謝ることがあるにしても、まずは座ろう」

 顔を挙げた妻も、長男も、次男も、涙を流していた。3人は鼻をすすり、涙を拭きながら向かいのソファーに座った。だが、長女は一歩も動かずに3人を睨んでいた。

 「どうした? お前も座ったらどうだ?」

 「こんな人たちと一緒に座るなんて嫌!」

 「そうか。それなら私の横に来なさい」

 すると長女は私の横へと来た。

 「それで、なにを謝っているんだ?」

 「ちゃんと説明しなさいよ!」

 長女の語気は強かった。

 その言葉に押されたのか、妻が話し始めた。

 「長男と次男はあなたの子ではないの……」

 ははぁと、ちょっとばかり見当がついた。面会室の利用許可も、まぁ、そのあたりが関係しているんだろうとも思った。しがない町医者ではあったが、戸籍に関する法律やDNA検査についた条件があった。そして法律に明るい友人から噂もあった。

 「そうだな…… なんとなくそんな気はしていた」

 「優秀な人の子を残すための国策なの…… 逆らえなかった……」

 そのあたりも噂としては聞いていた。冤罪をでっち上げ、どうにでもできると。

 「あなたが社会的に……」

 そうだろうなと思った。痴漢やらなにやら、妻をどうこうするよりはそっちの方が簡単だろう。

 「なぁ」私が声をかけた。「家族ってのは血縁なのか? それとも過ごした時間なのか?」

 「時間だよ、父さん」

 長男が鼻をすすりながら答えた。

 「決まってるじゃないか。突然、父さんが父さんじゃないなんて言われたって、納得できるものか」

 次男が続けた。

 「母さんも兄さん達も、よくそんなことが言えるわね! 何年父さんを騙してきたのよ!」

 長女は…… 良くも悪くも真っ直ぐな子だ。

 「なぁ、そうなると、私はお前も疑わないといけないんだが」

 長女は目を見開き、驚いた様子だった。

 「その子は、その子だけは間違いなくあなたの娘です」

 妻でないとわからないこともあるだろう。なら、それでいいじゃないか。

 「そうか。私達は家族だ。そうだろう?」

 「だけど、父さん。俺達の就職だってコネに違いない。俺達は父さんの子としてやってこれたわけじゃないかもしれない」

 「なに、使えるものは親でも使えだ」

 その言葉に長男と次男はビクリと体を震わせた。

 「すまない、言い方が悪かったな。この場合、どういう言い方が適切なんだろうな?」

 その時、ノックの音がし、看護師がドアを開けた。

 「あぁ、時間のようだ」

 私は妻から用意したものを受け取り、腰を上げた。どうしても気になってしまい、長女を見た。長女も涙を流していた。

 「すまない。変なことを言ってしまったな」

 私は長女の肩に手を置いた。

 「絶対…… 絶対許さないから」

 そこまで思わせてしまったか。

 「ごめんな」

 そう残し、私は面会室を出た。


 検査だの何だのという日々を半年ばかり過ごしていると、TVでニュースをやっていた。「優生学的優先法」と言っていた。なるほど、正式な名前なのかはわからないが、そう呼ばれていたのかもしれない。


 なんだか、周囲に家族がいる気がする。声が聞こえる。手も温かい。鋭い音がした。あぁ…… これが、

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プロジェクト托卵 宮沢弘 @psychohazard

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