第2話 【幕間。勇者の視点】


【幕間。勇者の視点】


「白米……。」



痴女ことタリア王女の申し出は、元々南に向かうつもりだった自分達の目的と完全に合致していた。


俺が探すべき「賢者」と「アーティファクト」はとにかく何もかも伝説扱いで情報が足りない。外国の神話をモチーフに脚色した荒唐無稽な絵本を読んで、さあ実物を見つけろと言われるようなものだった。


そうなればまず最初に求めるのは情報だ。当然の流れで学問の国の図書館をオススメされている。


断る理由が無いどころか内心大歓迎だ。あまりにも都合が良いから逆に迷ったほどだ。



だが、もう他の事が頭に入らない。



「勇者様、米の料理が好きだったんですか?」



会議後にそれぞれの宿に戻ってから、俺がただ椅子でボーッとしすぎたせいでまたアネモネが心配している。早く俺という枷と後悔から解放してあげたいが、今までは上手く行かず割とガッカリする事ばかりだった。


だが。



「アネモネ。もし俺が帰れたら、一番に食べたいのが白米なんだ。」

「……!? そんなに……ということはこの世界の米料理とは違う…?」

「いや。米に限らず食い物は割と似てるよ。」



考えてみたら当たり前の話で、似たような人類のいる別世界があるとしたら、食べ物だろうと生活だろうと歴史だろうと、全てにおいて差異よりも似てるものの方が多い筈なんだ。そうじゃなきゃ人類だって似てない筈だ。


「でも、異国の料理って似た素材の似た調理でも"異国の料理"だろ?」

「そうか……そうですね……」



だが。

だがあの痴女は「白米」と言った。



「アネモネは、白米を知ってるんだよね」

「一応、知識としては。馴染みのない他国の珍しい料理という認識ですが」

「長粒とか短粒って種別がこの世界にあるか分かる?」

「ごめんなさい不勉強で。やっぱり私なんて何も」

「いやもう全然あっても無くてもいいんだけど他の人にしづらい会話に付き合ってくれて本当に助かるなー!」




既にこの世界の米っぽいものを見つける度に炊いて食べてはいるのだ。だから期待しすぎるとダメなのは分かっているんだが。


大体俺の脳が言葉をどう認識しているのかも謎なんだ。自分が異世界の言葉を話し異世界の言葉で考えているのか、何らかの特別な力で自然に翻訳されているのか。言葉は絶対に違いそうなのに、何も生活に違和感を感じられないという違和感。


だからこそ簡単にはしゃいだり出来ないのだが……。



「白米。豆類の発酵食品。魚の塩焼き。野菜の漬物。」



偶然気候が似ていたとして。似た食物があったとして。似た言葉なだけかも知れないとしても。この並び。



「アネモネ、南の国の有名料理とか人気料理ってこんな地味なの?」

「いえさすがにそれは。もっと色々ありますよ」

「そうだよね。王女が他国の来賓に庶民の主食と保存食を自慢するのも珍しいと思って」

「……そういえば随分家庭的だなとは思いましたが、教会も割と質素大好き押し付け爺とかが多いので、不自然に感じませんでした」

「なるほどなぁ」



教会の話になるとたまに口が悪くて面白い。



「意図的な不自然だと、信じたくなっている」


もしも。もしこの不自然さに意味があったなら。

いや、正直に言って、意味があって欲しいと内心願っている。



偶然羅列されただけなら、まぁ期待値は良くて異国のちょっと似た何かくらいだろう。あくまで「自国にあるもの」を言っただけなのだから。


だが意図があるなら。俺が白米を求めていると分かった上で言ったなら。それは「俺が求めている白米」を認識した上で言った可能性がある。



あいつは、日本人を知っている……?

いやさすがにそれよりは心が読めるとかの方がありえるのか……?



どちらにしても。何が答えにしてもだ。


出来れば、賢くあって欲しい。あいつが賢く俺を誘導しようとしていればいるほど、俺が本当にあの白米と漬物を食べられる可能性が上がっていく。



帰りたいとかそんな感情が強かったわけじゃないし、別にパスタとかシリアルとかラーメンばっかりでも全然困らないタイプだと思っていたけど。


別にこの世界の料理も普通に美味しいし、元々そんな違いの分かる大層な舌を持ってるわけでも無いけど。



元の世界のものが二度と食べられないと思った時。

いつまでも慣れない水と食事が続いてずっとお腹が痛い時。

……もしも帰れたらどうするか考えた時。



真っ先に浮かんだのがやっぱり白米だったんだ。


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ジト目口悪ぶかぶかビキニアーマープリンセス戦士賢者に白衣とメガネが追加されてから 偽もの @nise_mono_e

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