虚飾悪女のウェンデッタ ~断罪で死に戻ったら元凶皇子の【甘々溺愛ルート】で破滅確定なのですが……性悪聖女とも手を組んで暗躍しまくってるのに、なんで婚約破棄してくれないの⁉~
第2話「愛は憎しみへ、少女は悪女へ(2)」
第2話「愛は憎しみへ、少女は悪女へ(2)」
「貴様は、我が父をッ――皇帝陛下を殺したのだぞッ!」
かつての婚約者アルスによる、身に覚えのない
クラッと
――すぐさま、気を取り直す。
皇太子アルスは、皇帝亡き我が国で最大級の権力を持つ。
その
後ろには大勢の騎士たちだって控えている。
彼らが疑っているのは――私。
ここで言い返さなきゃ
「ありえませんわッ!!
「この期に及んで言い逃れだとッ⁉
「目撃者ァ? いったい誰がッ――」
「こちらの騎士様です!」
「はッ」
アルスの後ろに隠れつつも、すかさず言葉を挟んでくるクロエ。
「確かに見ました。ウェンデッタ様が陛下を刺し、急いで逃げるその瞬間を」
「嘘よッ! あなた
「ならば、貴様の持つ
「ッ⁉」
――
先ほど何気なく拾った“凶器”を、私は握りしめたままだったのだ!
慌てて手を離す。
床へ転がるナイフの音が、
「わ、
「黙れ悪女めッ! かくなる上はッ――」
「――お待ちくださいッ!!!」
慌てて室内へ飛び込んできたのは、執事服姿の青年。
どうして
戸惑う私より、アルスの質問が早かった。
「貴様、何者だ?」
「ウェンデッタ様に長らくお仕えしている、
「この期に及んで言い逃れだとッ⁉」
「俺はお嬢の専属執事として、ずっとおそばで見守っていました。お嬢は何よりも、この国のためを思ってこられた御方です! 皇帝陛下を暗殺などするはずがッ――」
「――うるさいッ!! 使用人風情がッ!」
アルスが剣を振るう。
怒りのままに。
丸腰のダニエルは
「嘘っ……」
目の前が、
ダンは最も身近で私を支えてくれた従者だ。
私は貴族で、彼は平民。
身分の違いこそあったけど、なぜか不思議と馬が合い……お互い心を開いて軽口をたたいては、日々を笑い合える唯一無二の親友でもあった。
――大切な
私の心を折るには、十分すぎるほどの衝撃だった。
**
皇帝の暗殺は重罪だ。
民も貴族も皇族も、決して許しはしない。
“実行犯”の私のみならず、父母や弟まで一家全員が投獄された。
取り調べと称して行われるのは――
「さっさと吐けッ!!」
「信じてよ! 私は何も――」
「おらァッッ!」
「くッ……」
――殴る蹴るの過剰な
何が“騎士道精神”よ!!
あいつらは代わる代わるやってきては、加減もせずに拷問していく。
必死に訴える私の言葉なんか、誰も聞こうとしやしない。
打開の一手などあるはずもなく――
**
時は再び、皇宮前の広場。
刻一刻と近づいてくる。
逃げ場もなく縛られた私たち親子が最期を迎える瞬間が。
「おい悪女、言い残すことはあるか?」
かつての婚約者、皇太子アルスが冷たく言い放つ。
優しいあなたはもういない。
もっと早く気づいていれば何か変わっていたかしら?
「…………」
わざとらしく彼に寄り添い、無言で“慈愛の笑み”を浮かべるクロエ。
どこが“聖女”よ。いつも人の揚げ足ばかりとるくせに!
私にとっちゃイヤな
――事態は、崖っぷち。
だけど全てを投げ出すにはまだ早い。
父も母も弟も、かろうじて息があるのだから。
どうせこのまま黙っていても時間稼ぎにすらならないもの。
なら……
痛みで回らぬ頭をフル回転し、私は必死に策を練る。
そして導いたのは――わずかな
恐る恐ると話しかける。
「…………アルス様。1つだけ
「ほう、何だ?」
あ、ちゃんと聞いてくれるんだ。
皮肉なものね。
この数日で私の言葉に耳を傾けてくれたのが、よりにもよってアルス――私を殺そうとする張本人だけ、だなんて。
心なしか、彼の表情も、ほんの少しだけ柔らかい。
もしかしたら……
絶望の淵で見えた一筋の光。
ここで間違えるわけにはいかない。
慎重に、慎重に、私は言葉を選んでいく。
「
私は諦めた。
疑いを晴らし、元の暮らしへ戻る道を。
かわりに決めた。
自身を犠牲に、大切な家族を救おうと。
「なっ……!」
アルスは意外そうな顔をすると、何やら考え込み始めた。
――お願い。
――どうかどうか、うなずいてッ……!
永遠にも思える沈黙の中。
私は、ただひたすらに祈ることしかできなかった。
それからアルスはにこりと笑った。
初めて会った日の、まぶしい笑顔そのままに。
「了承しよう――」
「本当に⁉」
私がパッと明るくなった、その瞬間――
「とでも言うと思ったかッ!」
彼の顔は、
「……え?」
一転、吐き捨てられた言葉に困惑していると。
アルスの腕をぎゅっと抱きしめ、クロエが憐みの視線を向けてきた。
「可哀そうに。自らの罪の重さを理解すらしていないのですね……」
「違ッ――私は無実よ!」
「まだ言うかッ! こんな悪女に結婚寸前まで騙され、更にはみすみす父上を殺されてしまうとは……我が皇家、末代までの恥だッ」
「ですから私は何もッ」
「――
皇太子アルスの無慈悲な号令。
魔術師たちが【炎魔法】を同時に放った。
瞬く間に、
「お父様……お母様……リヴィオ……!」
――厳格だけど優しい父が。いつも民を第一に考える、良き領主だったのに。
――にこやかだった母が。いつまでも可憐で素敵で、私の密かな憧れだったのに。
――成人すらしてない弟が。将来のためにって、剣術を学び始めたばかりなのに。
何の罪もない家族が。
私の大好きな人たちが。
苦しみながらに炎で焼かれ――
――そして
「……
命を落とすその瞬間まで。
私の瞳は
**
「……………うぅ……――ひゃァッ!」
突然目覚める私。そこは――
「え? なんで?? 私、さっき殺されたはずよッ?」
永遠に終わらない拷問。
無数につけられた傷の痛み。
熱く激しく燃え盛る炎。
生きながら焼かれる地獄の苦しみ。
「あれは夢なんかじゃ――」
「――
私は気づいていなかった。
ベッドの横には、
「アルス!? な、なんで……?」
状況をつかめないでいる私の手を握り、アルスは穏やかな顔で答えた。
「決まってるさ! 俺の大切な婚約者が倒れてしまったんだ……こうやって付き添う以上に大事な予定なんか、あるわけないだろ?」
自分を殺すよう命じたはずの“
その爽やかな
「ひっ……」
混乱した私は、再び、気絶したのだった。
虚飾悪女のウェンデッタ ~断罪で死に戻ったら元凶皇子の【甘々溺愛ルート】で破滅確定なのですが……性悪聖女とも手を組んで暗躍しまくってるのに、なんで婚約破棄してくれないの⁉~ 鳴海なのか @nano73
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