第3章ー4 カメとヘビの旋盤
1
ベイ=ジンがだいじにしていた枕が人格を持った。
だいじにしてくれたベイ=ジンの役に立ちたくて。
京都の家具屋敷も埼玉のそれと概ね同じ構造だった。
設計した建築士が同じなのだろう。
2階の応接室に元少年Aと一緒に入った。
俺が富寿野カグヤを追い詰めているはずなのに、勝手に追い詰められた元少年Aは気分を悪くして退室した。秘書が追いかけて行った。
いまここに、白いヴェールの下に、死んだはずの
椅子となって。
そういう幻覚を、元少年Aは見た。
「本当はどこにいるんだ」
「
「待て。死んだんじゃなくて?」
「生きてはります。名前と存在は変わらはったんやけど」
サダというのは、富寿野カグヤの夫のような立場で、ベイ=ジンの後継者の育ての親。
攫ってきた少年を調教する役割もしている。
「あいつが」
「サダに会いたいん?」
「いや」
あいつはニンゲンを家具にはしない。
ニンゲンを奴隷にする。
思っていなかったニンゲンの名前が出てきたので多少動揺しただけだ。落ち着け。
「そんならそもそも誰も死んでないわけだな?」
「お話ちゃんと聞いてはってよ」富寿野カグヤが薄っすらと笑みを浮かべる。「サダが乃楽祝を壊したゆうて。乃楽祝はどこにもいてへんのよ。どこにもいてへんことを死んでるてゆわへんかな」
消えていた炎が再び灯された。
全部で三つ。
富寿野カグヤの姿がよく見える。
ベイ=ジンの若い頃によく似ている。
「椅子を増やしてどうする」
「椅子でのうても、ドアでもテーブルでもなんでも」富寿野カグヤが紅茶に口を付ける。「屋敷はウチの実家やさかいに。実家が賑やかんなるんは、嬉しいわ」
まさか。
それだけの理由で家具をコレクションしている?
「ベイ=ジンの命令じゃなくてか」
富寿野カグヤは薄っすら笑ったまま返事をしない。
元少年Aこと妃潟は、秘書から真実を聞かされてベイ=ジンを取り囲む末端に取り込まれた。
この渦から出るときは死ぬとき。
俺は、
生きて出られるだろうか。
ホテルで鬼立が待っていた。「どこに行って何をしていたのかきちんと説明してもらうからな」
鬼立を巻き込みたくないが今更か。
「おい、探偵」鬼立が俺の肩を掴む。
「俺を探偵と呼ぶな」
俺は探偵になった覚えはないし呼べと言った覚えもない。
「探偵だろ」鬼立が真面目な顔で言う。
ベッドに座る。
脚の力が抜けた。
「探偵?」鬼立が正面に座った。
「ベイ=ジンはこれからも捕まらないし、裏で人体蒐集を続ける。陣内千尋はそれを黙認している。黙認どころかベイ=ジンその他一派が動きやすいように眼を光らせている。誰も知らない。俺しか知らない」
「つまり、お前が見張られてるんだな?」
なんて鋭さ。
背筋に電撃と冷気が同時に走った。
「お前一人で背負うことはない。俺もいる」鬼立が力強く頷く。
「お前どの口でそうゆうことを言うんだ」
聞いてあきれる。
俺のモノになる気なんかないくせに。
「俺が陣内千尋に会うわけにいかないのか」鬼立が言う。
「やめとけ。てめえの生い立ちに絶望するだけだ」
「どういうことだ?」
「わかってるんだろ? あいつは、お前の」
「俺に父親はいない。俺の親は母親だけだ」
「そう思ってんならそれでいい」
昼過ぎ。
そうか。もうそんな時間か。
「飯食いに行かねえ? 腹減ってんだろ?」立ち上がりながら言う。
「誤魔化してないか」鬼立が訝しそうな顔をする。
「続きはあとでな」
明日の朝帰ることにしよう。
長いようで短い京都旅行は終わった。
昼飯食ったら適当に観光でもしようか。
デートみたいに。
2
翌日の朝。埼玉に帰ってきた。
鬼立は報告があるからと本部に向かった。
その報告の先が陣内千尋なんだが。
いまいち真相に迫れていないのがあいつの詰めの甘さだ。
昼過ぎまで昼寝をしていた。
疲れた。
俺は姉貴を助けたいだけなのに。
実家のごたごたになんか巻き込まれたくないんだ。
望みもしないのに実家の関係者がごろごろ接触してくる。
出掛けると死体に遭遇するのは、実家の関係者の通った轍に転がったなれの果てだ。
俺が後始末をさせられているだけ。
夕方になって、鬼立が家に来た。
仕事帰りのような顔をしていた。
「俺は何を信じればいい?」鬼立が血迷ったことを言いながら缶コーヒーをちゃぶ台に置いた。
自分の分だけ。
「少なくともお前が信じられるような正義なんてもんはそこにはねえよ」
「知らなかった」鬼立が顔を伏せる。
「何があった」
「京都の話を誰も信じてくれなかった」
「お前の説明が下手だからじゃねえの?」
「お前に言われたときに調べたら、確かにいじめを苦にして死んでたはずなのに、もう一度調べ直したらいじめで死者は出てなかった」
「隠蔽されたんだろ」
「そうじゃない。お前の動きに合わせて捜査資料がすり変わっている」
「誰がそんな面倒なこと」
一人しかいない。
レンズに覆われた鬼立の眼がそう言っている。
「俺はお前を見張っていていいのか」鬼立が言う。
「そういう命令で動いてんだろ?」
肩に触れようと思った手を引っ込めた。
鬼立は、
思いのほかショックを受けているようだった。
「お前が事件を起こしているんじゃないよな?」鬼立が言う。「俺に追いかけてほしいがためにやっている、自作自演なんじゃないよな?」
「そう言われたのか?」
陣内千尋に。
「そうじゃない」鬼立が首を振る。「俺がそう思った」
「じゃあそうなんじゃないのか?」
「違うだろ?」
「どっちでも変わんねえよ」
鬼立が沈黙する。
缶コーヒーの淵を指で撫でている。
「俺は学生のころ痴漢に間違われたことがある」鬼立がおもむろに話し出した。「でもそれを冤罪だと言って、犯人を連れてきてくれた人がいた。その人がいなかったら俺はいま警察官になっていない」
「正義ってのを見つけたんだな?」
「少なくとも俺はそう思ってる。そう思わせてほしい」
「俺にか? 無理な話だ」
「なんでそうやって俺の理想を折る?」
「理想? 誰がだよ」
「お前じゃないのか」鬼立が真っ直ぐ俺を見る。「あのとき本当の犯人を突き出して俺を解放してくれたのは」
時計の秒針の音。
冷蔵庫の駆動音。
「さて、どうだったかな」
「はぐらかすな。あのとき名前を聞きそびれたが、やけに身長が高かったことを憶えている」
「俺みたいなのは他にもいるだろ」
「日本人には珍しい」
「俺は日本人じゃない。ハーフだ」
「論点をずらすな」鬼立が苛々している。「とにかく、俺の正義はお前が原点なんだ。そのお前が俺に会いたいただそれだけの理由で事件を起こしているなんて」
ああ、そこまで至ってくれたのか。
まだ俺の口から言ってないのに。
陣内千尋が余計なことを言ったのか。
余計なヒントで思い至ってしまったのか。
「お前の目的はなんだ」鬼立が言う。
「言ったろ? 姉貴のことだって」
「他にはないのか」
「姉貴のことにかこつけて、お前がそばにいてくれるように裏工作してる」
虚を突かれた鬼立を座布団に押し倒す。
「騙してたのか」鬼立が俺を見上げる。
「騙すも何も。騙されるほうが悪いだろ」
顔を近づけても鬼立は瞬き一つしない。
眼鏡を外してちゃぶ台に置いた。
口を吸った。
口を離した。
「こうゆうことがしたくて、ずっと耐えてた」
「すればいい」鬼立が言う。「というか、しただろ」
「無理矢理はしたくない」
「俺はいまフリーだ」
「何の理由にも免罪符にもならねえよ。やめだやめ。悪かったな」
「別に事件を起こさなくても、俺がそばにいる方法はある」
「ねえだろ。お前、女のほうが好きなんだから」
鬼立がゆっくりと上体を起こす。
俺はちょっと恥ずかしくなって距離を取った。
「友だちじゃ駄目なんだな?」鬼立が言う。
「言ったろ。そうゆうんじゃねえって」
「好きかどうかはわからないが、一緒にいて苦痛じゃない」
「だから、そうゆう話をしてんじゃねえって」
「恋人じゃなきゃ、一緒にいちゃいけないのか」
なんでそうゆう真理めいたことを。
大真面目な顔で突き付けるのか。
「一緒にいるのに理由が要るのか」鬼立が言う。
「いるだろ」
「兄弟とか家族とかじゃ」
「血はつながってねえし、そうゆう話じゃねえって何度言ったら」
「わざわざ事件を起こさなくても、何の関係もなくても、お前と一緒にいるよ」
意味不明すぎて笑いが出た。
「なんで笑う」
「莫迦だろ」
莫迦すぎて。
そうゆうところが好きなんだが。
「彼女ができたらそっち優先すんだろ?」
「彼女は当分作らない」鬼立が言う。
「なんだよ、当分て」
「作ってる場合じゃない」
「やっと気づいたのか」
「だから、お前と一緒にいることにするよ」鬼立が手を出した。
ので、
その手を引っ張って額にキスした。
「なにする」鬼立が焦った様子で額を撫でる。
「油断してっからそういう眼に遭う」
鬼立のわけわからない理論は嫌いじゃない。
むしろ好ましい。
N
いい加減まともに話をしてくれ。そちらが何も云わないから、悪いのは僕のほう。一方的に犯罪者に仕立て上げられてしまう。
「ですから、冤罪だと云っているんです。僕はその方と相当離れた位置で、尚且つぎゅうぎゅうのすし詰め状態にいたのですから。絶対にあり得ません」
なんて、正当性を主張するのも疲れてきた。
相手が駅員では埒が明かない。警察官ならば、と思って耐えていたのに、期待外れ甚だしかった。なおいっそう酷い。
奴らは僕の話など一切聞いていない。耳から耳に抜ける段階にすら。僕イコール痴漢現行犯。奴らの頭ではその等式がすでに強固なものとなっている。
「きみ、高校生だろう。まったく最近の若者は」
腕をつかまれそうになったので振り払う。断じて公務執行妨害ではない。僕はやっていないのだから、公務も執行も妨害もない。
嵌められたのだ。この女に。泣き脅しに決まってる。涙なんか出てないじゃないか。声だけ。顔を覆う両手の合間から薄っすらと笑みが零れてるのに。何故それに気づかない。警察はこんなに無能なのか。僕が順序立てて客観的に説明しても、奴らは真っ白は黒く塗りつぶす。かといって真っ黒は見落とす。
これが警察? 情けない。
こんな輩の集団に、国民の平和と安全を託していいのだろうか。何も任せられない。何もしていない。余計なことしかしていない。冤罪を取り締まることに躍起になって。
「もう一度だけ云います。これは冤罪です」
「きみねえ、ここで言い訳したって何の意味もないんだよ。わかるだろ? 賢そうな顔してるのになあ。社会のルールなんだ。そのくらい」
机に張り付いても無駄だ。こいつは机ごと担いでいく。いま応援を呼んでいる。こんなのに寄ってたかって尋問されたら、屈してしまう。それが狙いなのだ。取調室でこそ犯罪は作られる。精神的苦痛に耐えかねて、はい、と認めさせるのが。
どうせ強制連行されるなら、女を怒鳴りつけてからにしよう。
ぎっと睨みつける。ずっと考えていた。どう云ったら女の鼻を明かしてやれるか。その嘘泣きをやめろ。そしてその憎らしい顔を曝け出せ。さあ、第一声は。
「災難だったな」
僕じゃない。いまのは。能なし警察でも、況してや犯罪女であるわけがない。
戸が開いて、大きなシルエット。
巨人?
「お届けモンだ。おーらよ」
凄みのある低い声。や、の付く人か、そうでなくても不良の部類。
巨人に蹴られて、ひょろい男が躓く。その勢いのまま地面に手をついてひたすら土下座。謝っているのか。声が上擦っていてよく聞き取れない。
「なんだねきみたちは」
「んなイイトコのぼっちゃんに、そこの露出ヤローのでっけえ尻まさぐる勇気はねえよ。節穴どこっか眼球入ってねんじゃねえの?」
無能がつかみ掛かろうとしたところに、ひょろ男がしがみ付く。おかげでドアはばたんと閉まる。女も立ち上がっていた。顔を覆うのも忘れ、赤い顔でドアを凝視。男が女に眼線を遣るが、完全無視。やはりグルだ。そうゆう雰囲気。
駅員に案内されて、無能の応援が申し訳なさそうに入ってくる。僕に頭を下げる。駅員もぺこぺこと頭を下げる。無能筆頭のあの男も、部下あたりに耳打ちされて、電撃が走ったように態度をひっくり返す。いまさらそんなことをされても。車で送るとかとんでもない。無能と同じ空気なんか吸いたくない。
溜息すら出ない時刻。いまから行っても意味がない。遅刻は0点。欠席と同義。全国模試だったのに。これからどうしよう。家に帰っても仕方ない。世間的には夏休みでも、誰もいない家もある。かといって、その辺をふらふらしても怪しいだけ。同学年の連中は模試の会場。
警察になんかなりたくない。今日改めてそう思った。犯人を逮捕したのは、無能極まりない警察どもじゃない。一般市民だ。せめてお礼を云いたかった。助けてくれたのに。逆光のせいで顔すらよく見えなかった。悔やまれる。どうして僕は、すぐに追いかけなかったのだろう。
もう一度会いたい。手掛かりは、平均を著しく逸脱した身長。凄みのある重低音声。あの路線を利用している。年齢は二十代から三十代。や、の付く人だろうが不良だろうが、僕を助けてくれたことには変わりない。いくら感謝してもし足りない。
これからすることもないから、駅で張ろうか。それこそ警察の張り込みだ。やめやめ。すぐに警察と結び付けてしまう。ああゆうことは、初めてだろうか。そうか。前にも似たような状況で助けられた人がいるなら。
駅員に訊いてみる。僕の顔を見るなり反射的に頭を下げて何度も何度も謝ってくれた。この人には正義があるのかもしれない。
「いや、長いことここにいるけど、初めて見るね。たいてい現行犯だったらそのまま」
署に連行。冤罪だった人は、僕以外にもいるのだ。絶対に、そう。
他の駅員にも尋ねてみたが、僕を助けてくれた人の手掛かりは何も得られなかった。もし見掛けたら渡してください、と手紙をお願いした。手紙といってもノートの切れ端に、僕の氏名とケータイ番号。あの時のお礼がしたいのでご連絡下さい。と書いて折り畳んだだけ。
次の日、模試二日目だが受ける意味はない。担任にはすでに話が通っていた。
駅に、昨日より早めに着く。どうしても会いたくて、ちっとも眠れていない。何故夜中張ってなかったのかと夢で後悔したくらい。
しかし一日中ここにいたとしても、見逃す可能性だってある。来ないかもしれない。たまたま昨日、この路線を利用しただけとか。駅員に訊いてみたがまだ見掛けていない、とのこと。期待するだけ無駄だった。
夏休み。好きでサボったわけではないが、模試をサボったのと同義。図書館か塾で自主学習したほうが有意義のような気がしてきた。受験だって控えてる。楽勝とは思っていない。試験当日は何が起こるかわからない。
眠くなってきた。ぼんやりする。緊張が解けたら途端眠気が。
「寝んなら」
一気に眠気が吹っ飛ぶ。この重低音は。昨日の。
「ここはやめとけな」
胸元の大きく開いたシャツ。暑いからだろう。だらしないズボンの履き方だが、そもそも相当脚が長いため奇異に映らない。なまじ一般の日本人男性より長く見えるところがすごい。彼は億劫そうに腰を屈め、僕の顔を覗き込む。鼻が接触しそうな距離で。
「なんで、んなことんなったんか、わかるか」
電車がホームに入ってくる。
アナウンス。方面。行き先。
彼は車両を顎でしゃくる。
「あれんにゃ、乗んな」
「どうしてですか」
発車。乗り遅れた人が数名。
電車に乗るな、なんて。意味がわからない。
「なんか用あったんじゃねぇの?」
「あ、昨日は、ありがとうございました。おかげで」
正義を完全に否定しなくて済んだ。
「お礼をしようと思って」
「カネ? モノ?」
「何がいいですか」
「お前、正真正銘イイトコのぼっちゃんだな」
莫迦にされたような口調だったが、別になんとも思わない。
彼は僕の恩人。それにこれが素。悪気も何もない。
「有り金ぜんぶ寄越せったらくれんの?」
「欲しいんですか」
「生憎カネにゃ困っちゃねえよ。モノもおんなじ。お礼ったってなあ」
不良は棄却。正答。や、の付く人。
「じゃあ、僕が生きてる間は捕まえないことにします」
「んあ? なにお前、ポリなんの?」
「いまのところ」
鼻で嗤われる。僕だって鼻で哂いたかった。
所詮、その程度の決意だ。
「ま、付いてこいや」
3
思い出した。
あのあとどこに連れていかれて、何をされそうになったのかも。
間一髪で逃げてそれきり。
まさかあのときの男が?
ドアを開けると暗闇。
自分の存在だけが生々しく鬱陶しいように思える空間。
「報告を」乾いた声が言う。
「報告書をご覧ください」この部屋に入る前に提出したばかりだ。メールで。「いらしているなら直接お渡ししましたのに」
「家具屋敷には行っていないな?」
「なんのことですか」
沈黙。
「知らないのならそれでいい」
「椅子事件と関わりがありますね?」
「
「文字通りの意味ですか。それとも何かの比喩ですか」
「文字通りの意味だよ。家具屋敷に収容された」
「追跡はしないんですね?」
「向こうが望んでいない」
「向こうが望めばいいなりですか」
「私はそのためにいる」
やはり。
正義はここにはない。
「あなたの部下をやめると警察庁に戻ることになりますか」
「警察を辞めることになるね」
「私が辞めれば探偵の監視はあなたがするのですか」
「別の者を付けるしかなくなるね」
「あなたは監視をしないんですか」
「しているよ。君越しに」
話していると足元の砂をすべて波にさらわれる。
そんな嫌な感覚。
「探偵は何をしているんですか」
「探偵だね」
「事件の解決に助力をしていると?」
「しているだろう? 長野と京都と、今回の埼玉と」
「事件を煙に巻いているように見えるのですが」
「君がそう言うならそうなのだろうね」
そうする意味。
探偵は意味があることしかしない。
そうする利点。
「君の人事は私が決めたんじゃない。そうすると私に利があるからそうしただけだ」
上司も探偵も同じだ。
自分のためにしか動いていない。
利他行為ではない。
「これからもあれの監視を続けるように」
「それが私の仕事なんですね」
退室の合図代わりにドアが開いた。
「君には期待している」
それはまるで、私のことを息子か何かと勘違いしているような口ぶりだった。
清廉な椅子・再レース 登場人物
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