第29話【俺とヒロインと、ラブコメ】
楽しみにしていたGWもあっという間に終わり。
やって来た登校日。
俺は朝も早くからサツキのマンションの前にいた。
だがこれは、いつものように待ち伏せをしているわけではない。
GW最終日。
サツキのマンションに泊まり、夜が明けて今まさに出て来たところだった。
※
PPPでの一件があったあと。
俺はGW中、サツキを何度かデートには誘ったものの。
サツキはなんだかんだ理由をつけてきて、約束をとりつけることはできなかった。
だが決して、仲がきまずくなったわけではない。
むしろ逆だ。
サツキは電話ごしでもわかるほど、俺を意識しているような声色だった。
自意識過剰とは思いたくないが、時折サツキの声が上擦ったり、こちらが切ろうとすると何度も止めに来たりしているため、どんな鈍感主人公でもこれは気づく。
そして、そんなこんなを経たGW最終日、手料理を振る舞いたいとサツキが電話してきたので俺は意気揚々とマンションまで足を運んだ。
そこで出て来たのは、いつかの秘伝のオムライス。
形も味もかなり完璧に近く、俺は大絶賛したが。
サツキとしては完全再現とはいかなかったようで、若干納得いってない顔をしていたが。
サツキがGWのほとんどを、これの完成のために尽力したのであろうことは、すぐにわかった。
そして、誰の為にがんばったのかも当然伝わる訳で。
そのことがとても嬉しかった。
そして、そのままいい雰囲気になった俺とサツキは――
※
「ごめんごめん、リュウくん。カギが鞄の奥に入っちゃってて」
サツキがぱたぱたとこちらに駆けてくる。
昨日のサツキはすごく可愛かったが、やはり今日も可愛い。
「それじゃ、行こっか」
「ああ」
サツキは今までと変わらない笑顔を俺に向け、自然な動作で腕を組んでくる。
俺としても、今更恥ずかしがることも、隠すこともなかった。
そんな心境のまま、足を踏み出そうとしたが。
「うああああああああああ!」
突如、目の前から奇声が轟いた。
また新たな刺客かと身構えかけたが、そこにいたのは北田だった。
いつからそこにいたのか、なんでそこにいるのか。
それは知りようもなかったが、当人はなぜかわなわなと身体を震わせている。
「見たぞ。テメーら…………やりやがったな、鈴木よぉ」
「やりやがったって。なにがだよ」
「とぼけんな! てめぇ、とうとう一線越えやがったな!」
北田の叫びの意味を察した俺とサツキは、一瞬で頬を赤らめる。
それでいて、腕を組むことはやめないままで。
そんな俺達の反応に、北田はがっくりとうなだれたかと思うと、
「ちくしょー! リア充め! 爆発して跡形もなくバラバラになったあと突風に吹かれて骨も残さずこの世からいなくなりやがれー!」
そんな妙に具体的な捨て台詞を吐きながら、走り去ってしまった。
「言うだけ言って、なんだったんだアイツ」
「ねー」
嵐のような騒ぎに、俺たちは呆然としていたが。
そこにまた新たな人影が姿を現した。
「おはよう、ふたりとも」
そこにいたのは、五月女さんだった。
「はやくしないと、遅刻しますよ」
彼女は、いたって普通に、クラスメイトに話し掛ける口調で声をかけてくる。
しかしサツキのほうは、まだすこし挨拶を口にしにくいのか、いつになくもじもじしている。
なので、俺の方で口火を切ることにした。
「五月女さん、確かこっち通学路じゃないよな。どうしてここに?」
それを受けて五月女さんは、こちらも彼女らしくない冷笑じみた笑いをフッと浮かべて。
「別に? 北田くんと一緒に、お熱いおふたりのお邪魔をしに来ただけ」
「なにそれ。性格悪っ」
挑発的な五月女さんに、サツキもさすがに唇を尖らせて言葉を返すが。
五月女さんは、特に気にした様子もなく笑みを浮かべ続けて。
「そうよ。こう見えて、あんまり性格良くないの。気に障ったかしら?」
「べつにー。気にするほどのことじゃないわよ」
「あらそう。じゃ、そろそろ急がないと本当に遅刻するわよ」
そして、五月女さんはスタスタとこちらを振り返ることもせず、歩いていく。
サツキはそんな彼女の背に、べーと舌を出していた。
ふたりのそんな様子に、俺は思わず苦笑してしまった。
※
それから俺たちは、通学路も腕を組んだまま一緒に登校した。
鉢合わせたクラスメイトには騒がれたり、ひやかされたり、妬まれたりしたが。
それに対しても、もはや見せつける勢いで俺たちは堂々とふたりで歩いた。
そのことでとても心地よく、胸が高鳴る思いだった。
しかしそんななか、唐突に敵意のような視線を感じた。
「ん……?」
そちらを向くと、ギラギラした金髪をしたホスト風の男が、あからさまに舌打ちしながらこちらに近づいてきていた。
「よぉ。久しぶりだなあ。相変わらずお熱いねぇ、おふたりさんよぉ」
誰だ? と一瞬思ったが。
すぐに思い出した。
俺がサツキと再会を果たした日、絡んで来た金髪男だ。
そいつは今回は、後ろにやたたらガタイのイイ大男を控えさせていて。
その大男はこちらに目を向けるや否や、殺気を漂わせてはじめている。
そんな物騒な男を連れ添って、金髪男は道行く学生たちを押しのけながらこっちに近づいてきた。
「あれからお前のこと、ちぃっと調べさせたんだがよぉ。どうやらお前、なんか遺産をたんまり持ってて、倒した奴に全額くれるんだって?」
金髪男はサツキに目を向け、相変わらずの失礼極まりない台詞を吐いてくる。
なんというか、執念深いというか女々しいというか。
相手にしたくもない相手だが、ほっとくわけにもいかないか。
「それを聞いてテンションあがっちまってよー。店でも随一の最強ボディガード君を連れてきたって、ワ・ケ」
金髪男は、そう言って後ろの大男を指さす。
大男のほうは、無言でじっとこちらを見据えたまま動かない。
「てことで、後はもうわかるよな? 復讐アンド金儲けの為に、おとなしくボコられちまいな!」
「あー、えっと。金髪のお兄さん」
「あ? なんだよ小僧。怪我したくなかったら、テメーは引っ込んでな」
「いや、そうじゃなくて。後ろの人、もう気絶してますよ」
「は?」
そうなのだ。
殺気を向けられた時点で、サツキは既に臨戦態勢に入っており。
それを察した大男もまた、こちらに攻撃を放つ仕草をしていた。
結果。
金髪男がだらだらしゃべっている間に、サツキは一旦俺との腕組みをやめたあと、目にも止まらぬ早業で大男の身体に攻撃をクリーンヒットさせており。
俺が割って入る暇もないまま、決着はつき。大男は立ったままノックアウトされていた。
「え? お、おい。嘘だろ? どうなってんだよオイ!」
金髪男は、なにが起きたのかわからず大男を揺さぶっているが。
当然気絶しているので、反応など出来ようはずもない。
「そこのひと」
そんななか。
サツキの可愛いらしい声が彼にかけられる。
相変わらずの可愛らしい声色だが、そこに込められたプレッシャーは氷点下ほどに冷え冷えとしているように感じた。
「私とリュウくんの楽しい時間を、一度ならず二度までも水をさしてくれた以上……覚悟はできてるってことで、いいわね?」
近くにいた大きなカラスがけたたましく鳴きながら飛び去り、車の上で寝息を立てていた猫が飛び起きて脱兎の如く走り去るのが見える。
「今度はもう、五秒も与えないよ。三秒で血祭だから。そのつもりでいてね?」
「な、なんだ。お前、いったいなんなんだよぉ!!」
「さん、に、いち」
金髪男は、もはや涙目になっており、若干ズボンの股のところが濡れているようにすら見える。ここまでくるともはや哀れだな。
「ぜろ」
そのカウントと共に、金髪男は魂が抜けたかのように口から泡を吹いて倒れてしまった。
そして訪れる沈黙。
と思ったら、サツキは何事もなかったかのように、再び俺との腕組みを再開させて。
「リュウくん、じゃあ、行こっか」
「ああ、うん。そうだな」
先程までの空気が嘘のような笑顔で、サツキは俺と共に、金髪男の横を素通りするのだった。
この調子なら、やはりこの先も俺の出番はそうそう無さそうだ。
本来なら、数多の刺客からヒロインを守ってカッコよくバトルする筈だったのに。
どうしてこうなってしまったのやら。
「でも、まあ。いいか。細かいことは」
俺はそう苦笑しつつ、そうつぶやき。
この先に待つ、ラブコメの日々を続けることにしたのだった。
ヒロインが強すぎて全然バトルものにならないけど、彼女は可愛いのでラブコメを受け入れます 結城勇気 @takahashi0822
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