第28話【流拳と皐月と、ケンカ】
俺と北田はしばらくむさくるしい男二人でパレードを見ていたが。
北田が途中で五月女さんを探しに行くと言い始め。
俺としてもなかなか戻ってこないサツキを心配しはじめていた。
けれど、携帯に「心配しないで。ちょっと女同士で大事な話があるから」というメッセージが届いては、変に首を突っ込むのもためらわれた。
それでも北田はひとり、当てもなく探しにいってしまったので。
俺はひとりさびしくパレードの盛り上がりを眺めて過ごした。
パレード自体は盛大で、他のモニター達も満足していた。
俺としても他にならって、じゅうぶんに楽しんだことは楽しんだ。
そしてパレードが終わり、イルミネーションの光量もなくなって周りは完全に暗くなってしまった頃、ようやくサツキは戻ってきた。
「ごめんね、リュウくん。パレード一緒に見られなくて」
サツキは、さっきまでとさほど様子が変わったようには見えなかったが。
このときばかりは、俺もさすがに鈍感ではいられない。
「それはいいけど、話はもう済んだのか? 五月女さんの姿が見えないけど」
「あ、うん。五月女さんは先に帰るって。やっぱり色々まわってる内に疲れちゃったみたい」
「そう、か」
俺はサツキのその言葉に納得はしなかったが、深くは聞かなかった。
ひとまず北田にもその旨を携帯で伝えると。
しょんぼりとした絵文字と『じゃあもう現地解散でヨロ』という返事が届いていた。
「それじゃ、帰ろっか。リュウくん」
「ああ、そうだな」
そして俺とサツキはふたり、ププラの「今日は来てくれてありがとだプゥ」という間の抜けたお別れの言葉を背に、他の客たちの波にもまれながら帰宅の途についた。
帰りの電車のなかで、サツキは明るく振舞っていた。
どこが楽しかったとか、今度また一緒に行こうとか、別の遊園地も行きたいとか。
そんなありふれた話をして、俺と楽しい時間を過ごした。
そうこうしているうちに、あっという間にサツキの家の前まで到着し。
「それじゃ、リュウくん。また明日ね~」
サツキははやばやとマンションの入り口を通ろうとした。
いつもは去り際に「どうせなら泊まってく?」なんて軽口をはさんでくれるのに。
だからこそ俺は、気づけばサツキの手を掴んでいた。
「ん? どうしたの、リュウくん?」
「ちょっと、あがっていっていいか」
その俺の言葉に、サツキは少し目を見開いたが。
すぐに目を逸らしてしまう。
「あはは。気持ちは嬉しいけど、さすがに今日は疲れてるし、さ」
「誤魔化すなよ。俺やサツキが、この程度で疲れるわけないだろ」
事実だった。
三日三晩、飲まず食わずで山籠もりした経験もある俺達にとって、疲労を感じるなどまだまだ先の話だった。
「リュウくん、どうしたの? らしくないじゃん」
「らしくないのはそっちだろ。詳しく聞いて欲しくないならせめて、もう少し一緒にいる位はさせてくれてもいいだろ」
俺が食い下がると、サツキは半ば強引に俺の手を振り払ってきた。
珍しく表情がガチめに怒っているように見える。
まあ、そんなサツキも可愛いんだけどな。
なんて、さすがにそんなことを考えてる場合じゃないな。
「しつこいなぁ! だから、今日はそんな気分じゃないんだってば!」
「じゃあどんな気分なんだよ。構わないから言ってみてくれ」
「……っ。リュウくんには関係ないことだよ!」
「サツキに関係あることなら、俺にも関係あることだろ!」
「なにそれ! わけわかんない!」
言い争う俺達を、通りかかる人に何事かという感じで見られている。
傍から見れば、完全に喧嘩してるバカップルだな。
あるいは、嫌がる彼女に強引に迫ろうとしてるダサい男ってところか。
まあ、どう見られていようが知ったことじゃない。
俺はもう一度サツキの手をとろうとするが、サツキはそれをさせまいと手を叩き落としてくる。
「サツキ。こうして拳をかわしてケンカするのは久しぶりだな」
「ケンカ? なに言ってるの、私にそんなつもりはないんだけど」
「そう言うなよ。モヤモヤしてるときには、これが一番……だろっ!」
「やめてよ! そういうノリからは、とっくに卒業したんだから!」
そう言いながらも、サツキはなにも言わないのにケンカのルールを把握していた。
俺はサツキの手をとるように動き、サツキはそれをさせないように動く。
子供の頃にも、こうして何らかのルールを設けてケンカしたものだ。
その気になればマンションの中に逃げ込むことができる状況で、それをしない時点でサツキの心中が推し量れるというものだ。
「それで、なにがあったんだよ」
手は必死に動かしながら、俺は言葉を投げかける。
「別に、大したことじゃないよ! ちょっと、五月女さんと、ケンカしただけっ!」
サツキもまた、懸命に俺の手を叩き落としながら言葉を紡ぐ。
「だったら、仲直りすればいいだろ」
「そういう話じゃないの! もう問題は解決したの! でも……」
「でも、なんだよ」
「でももう、元の友達関係には戻れなくなっちゃったの! 私は別に、気にしてなかったのに!」
サツキは、クラスに友達はたくさんいる。
だからといって、友達がひとり減ってなにも気にしない性格じゃない。
「そうか」
「五月女さんも、悩んだ末の結論だってわかったから、受け入れたけど、でも、でもやっぱり、もっと、いい解決の仕方があったんじゃないかって」
軽く声のトーンが落ちても、手の動きに一切の乱れがないところはさすがだ。
マンション前を通りかかる通行人が、なんかの大道芸かという目でこっちを見始めているが。そっちにあまり気を向けている余裕はなさそうだ。
ただ……。
「だったら、これからその解決の仕方とやらを考えていけばいいだろ」
「わかってる! そうするつもり! でも、なんか、私、その、モヤモヤしちゃって」
「どうしたよサツキ。動きが落ちてきてるぞ」
絶好調のサツキに比べれば、明らかに動きが鈍ってきている。
しかも、今の俺の言葉で集中力も刺激されたのか更に俺のほうが優勢になる。
「ああっ、もう! このぉっ!」
「おいおい。そんな動きじゃ、むしろ格好の的だぞ」
不用意に手を伸ばしてきたサツキの隙を見逃さず、
ついに、俺がサツキの両手をガッチリと掴むまでに至った。
「俺の勝ち」
「あ……ぅ……」
俺は、サツキの目を真正面から見つめる。
いつ見ても可愛い顔だけれど。
その表情が、わずかに曇っている。
だったら彼氏として、そんなときは支えてやらなきゃ男がすたるってもんだ。
「サツキ」
「な、に?」
「全部吐き出しちまえ。言葉も、感情も、全部だ。俺が受け止めてやるからさ」
その途端。
じわりと、サツキの瞳がにじんだ。
そして、サツキは思い切り、感情を爆発させながら俺に抱き着いてきた。
しばらくそのまま、サツキが落ち着くのをじっと待ち続け、夜は更けていった。
こういうとき、月が綺麗だったりしたら絵になるんだろうけれど。あいにく若干雲っていて、月はよく見えなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます