新年のドキドキドミノ【つま先】

たっきゅん

新年のドキドキドミノ

 新年、三が日が過ぎて始業式が始まる前の土曜日、教師の許可の得て静けさに包まれた体育館には既に、男女入り乱れた11人のジャージ姿の生徒が集まっていた。


「あけおめ~」

「なっちもあけおめ! ことよろ!」

「ありがとーみっち。ことよろ~。ところで私が最後?」

「そうだよ。まったく、これだからなっちは……と言いたいところだけど。まぁ、新年早々の休みの日だし色々あるわな。とりあえずあけおめ!」

 

 そんな彼らと同じ学校指定のジャージ姿に身を包み、私、新垣あらがき夏知なちは、自分が最後だったかなと思いながら親友の長屋ながや美智子みちこに挨拶がてら確認を取ると、それを聞いた染谷そめたに慎太しんたちが怒った感じもなく遅いぞと文句を言いながら新年の挨拶をしながら私が最後だと教えてくれた。


「そっか。で、ふわふわ先生は?」

不破ふわセンなら鍵開けて職員室に戻ってそれっきり。それよりもさ、なっちは年末に何見てた? 私は久しぶりに――」

 

 私たちは年末年始の過ごし方やおみくじ、福袋、お年玉なんかについて色々と話しながら、ときより思い出したようにやってくる近くのクラスメイトからの新年の挨拶を返しながら先生がやって来るまでの間までをつま先立ちしたいほど凍えるような、冷え切った体育館の中で楽しく過ごしていた。


「みんなごめーん! ちょっと教頭に捕まってって遅れたー。んっと、全員いるねー?」

「せんせーが最後だよー! それよりも暖房入れてー! 体育館寒すぎ~!」

「あ、そうだね。ちょっと待っててー」


 体育館の鍵を開けて職員室に一度戻ってきた担任の不破ふわ千恵実ちえみ先生は私たちを見渡して今日の自主イベントに参加する12人全員が揃っているのを確認したあと、美智子を始めとしたクラスメイトたちからせっつかされるように体育館の暖房を入れに向かった。


「冬の体育館ってなんでこんなに寒いんだろね」

「だだっぴろい誰もいない空間は人の温もりもなく、体育館でなくても心ごと凍てつかせるものさ」

「あ、秋山くん。今年も厨二ってるねー」

「しかもまったくなっちへの回答になってないのが草w」


 まあ、言いたいこともわかるんだけど体育館が特に寒い理由ではないよね。と、みんなが安定した遠野とおの正志まさしの厨二台詞にツッコミを入れながらわいわいしているとブォーーンっと体育館の暖房が音を立てて動きだした。

 

「暖房入ったね」

「効くまでに時間かかるから不破セン、鍵開けたら先に入れといてくれたらいいのに」

「まあ私たちの青春の思い出に付き合ってくれてるわけだし、お金もかかることだしねー。そういえばうちのエアコン、毎回切る時にいくらかかったって教えてくれるんだけど、計算するとお小遣い以上の負担を親にかけてるみたいなんだよね」

「……こんなに大きな体育館を温めるのにいくらかかるか想像したくないね」

 

 美智子の愚痴に私が天井を見ながら暖房代について話すと、金額を想像した美智子が考えたくもないとわざとらしく震えだす。そうこうしているうちに不破先生が戻ってきてバラバラに数人づつ固まっていたみんなを自分の元に呼び集めた。

 

「それじゃはーい、注目! 全員揃ったということで新年最初のドミノ倒し始めるよー!」

「「「はーい!」」」

「「「おーっ!」」」

 

 男女で返事が違いながらも揃っているのがなんか面白くて、ふふっと私が笑っているとそれを見た美智子たちも一緒になって小さく笑ってくれた。不破先生はみんなにくれぐれも怪我などしないようにと念押しし、気分が悪くなったらすぐに休むことをみんなに約束させて作業に取り掛からせた。


「ちょっとだんしー男子! 遊んでないで早くもってきてよー!」

「わりぃ! ほら、女王様がご立腹だしさっさと運ぶぞ」

「聞こえてるわよ! 誰が女王様よ! ――まったく。男子たちはあれで大丈夫でしょ。私たちもテープ貼り頑張りましょうか」


 ドミノの詰められた大きな箱を何箱も男子が運び、気の強いことから男子に女王様と呼ばれている土井どい香菜子かなこは率先してドミノを立てるための準備に取り掛かる。私たちはドミノを立てる範囲の床を念入りに綺麗にし、文字ごとの位置が分かる様に本線の部分をあけて均等に方眼紙に文字が収まる様なイメージでドミノが立てられるように正方形に中心位置に十字を刻みながらテープを張っていく。


「おっけー! 5文字、5文字だいたい均一でまっすぐだよー!」

「もかー! ありがとうー!」


 体育館の上の通路から見ていた加納かのう羽衣ういが配置場所の確認も行い、準備は着実に進んでいく。そして、男子

が年末に倉庫に閉まったドミノを色ごとにそれぞれの文字に合わせて運んで準備を終えた。


「それじゃ頑張って並べようー!」

「おうっ!」

「っしゃー! 腕が鳴るぜー! なっちーいくぜー?」

「腕が鳴るってあんたはベテランじゃないでしょ。美智子、私たちも行くわよ」


 それぞれが気合を入れて先に決めていた二人一組のペアで10文字の位置へと向かって歩き出す。私のペアは香菜子にツッコミを入れられているお調子者の慎太だ。けれどこういう行事の時は真剣に取り組むのをこれまでの付き合いで知っており頼もしい相方だと思っていた。


「あ、今行くー!」

「なっち、頑張ってね!」

「うん。みっちーも指示よろしくね」


 私と慎太は『う』の字を立てるために体育館の右中央へと移動した。そして香菜子と美智子は最初、上から指示を出す係で正面左側から上にある通路へと二人で移動していった。


「じゃあ、各自作業に取り掛かって―! バランス悪かったら私と女王様が指示するからー!」

「……はぁ。まあ、いいわ。今は指示する立場だし許してあげる」

「ありがとっ♪」

 

 上での二人のやりとりにほっとしながら私たちは手分けしてドミノのための長方形の板を並べ始めた。最初は元気があり余り駄弁りながら作業していたが同じ作業をずっと続けるうちにドミノが長くなり、倒さないように気を張って無言で屈みながらもドミノを繋げ続ける。


「よし! 『う』の上部と下に繋げる透明な部分終わり!」

「慎太くんお疲れ様。はい、念のためのストッパー」

「さんきゅー、なっち。じゃあチェンジで!」


 私たちはキリの良いところでバトンタッチしドミノを手渡す係と立てる係を交代した。それからも作業は続け……何度目かの交代を挟み『う』の文字も完成が見えたところで──私はやらかした。


 パタパタパタパタ……。


 ドミノを持ってくる際につま先が当たってしまい無情にも倒れていく『う』に並べる途中のドミノは、それなりの数が倒れたところでストッパーにあたりなんとか止まった。


「ご、ごめん!」

「大丈夫! 取り返せない失敗じゃないよ。みっちー! 手が空いてる人を誰かこっちに回せない? それとなっちがちょっと疲れてるっぽいから休ませてあげてー!」

「おっけー! 遠野くーん! 『う』の染谷のところに応援いってあげて! なっちは壁際に座っててー!」


 正志は一緒に作業していた八重樫やえがし宮子みやこに「悪い。ちょっと行ってくるわ」と言い残し、すぐさまに私の傍へと振動を立てないように気を付けながら歩いてきた。

 

「ドミノ倒しはこういうのもお約束だぜ? ドミノを倒すはずが倒れちゃ笑い種だしな。気にせずに休んでいたらいいさ」

「うっし、正志も来てくれたしなっちは安心して休憩してきてくれ!」

「みんな――ありがとう」


 慎太と正志、そして今日はいない隼人はやとの3人は仲が良く、最近は隼人に彼女が出来ても学校ではいつも一緒にいる。そんな彼らの関係も見越した美智子のナイス采配で順調に倒れた部分の『う』の文字が再び立てられていく。それを壁に背を預けて眺める私は好きなテレビ番組を見るために夜更かししていたのを少し後悔した。


「はいお水。なっち、気分はどう?」

「なんとか。けどちょっと足に来てたかも」

「ずっとは辛いもんねー」

「みっちは持ち場に戻らなくていいの?」

「文字はほとんど終わったし、蛇に関してはみんな好き勝手に立ててるから。それよりさ、昨日のアレどうだった?! やっぱり宗助様かっこよかった?!」


 上から降りてきた美智子が水を手渡して隣に座ってくれた。どうやら私が好きなアニメをリアルタイムで見るために夜更かししていたのはお見通しのようで内容について色々と聞かれて半笑いになりながらもとても面白かったと私は熱く語った。


「秋山くんも言ってたけどさ、そういう失敗する要素があるのもドミノならではだし、こうして壁で休んで駄弁っているのも含めていい思い出になると思うんだよねー」

「みっちにしては真面目だね」

「あはは。なかなか来なかったからどうせ夜更かししてるんだろうなって思ってて身構えてたからねw」

「なんでもお見通しかー。さすが親友」

「ありーっす!」


 たしかに美智子の言う通り、ドミノ倒しを見て凄いって思えるのはそういう失敗するかもしれないというハラハラと戦いながらも、みんなで協力して一枚一枚立てられたドミノがちゃんと繋がっていく様がカッコいいからだ。だから思い出になるし、みんなで協力したという達成感も生まれる。そのことを身をもって体験した。


「ギネスなんかじゃないし私たちのは遊びなんだから気軽に行こうよ! そろそろ大丈夫でしょ?」

「……もうちょっと休ませてよ~」

「だーめ! 人数も少ないんだからさ!」

「みっちには敵わないね。じゃあ代わるのは蛇ラインの一番右、慎太と正志の列でいい? ちょっと遅れてるし……まぁたぶん私のせいだけど」

「おっけー! バトンタッチだー!」


 私たちは休憩を終え、すでに『う』を完成させて蛇の胴体に取り掛かっている二人へと声をかけた。


「さっきはありがと。もう大丈夫だから二人とも少し休んでて」

「助かるー! そろそろ腰が限界っぽかったんだよねー」

「長屋も立てたいのだろ? 譲ってやろう」

「なんで上から目線? まあいいけど……確かに上から見てるだけじゃつまらなかったし――そうだ! 遠野くん、女王様にも同じように声かけてきてよ!」


 慎太と正志がドミノの先端から退いて私たちと交代する。そして、一言多い正志によって香菜子から慎太は巻き込まれてアレコレ言われながらも上からの指示役を交代することとなった。――そして5本並列に並んだ白い蛇の右ラインを私たちは合流地点まで並べ切りドミノが完成した。


「おつかれさまー!」

「終わりましたね。お疲れ様です」

「やったー!」

「っしゃー!」

「……めっちゃハズい。死にたい」


 最後だった私たちはみんなに見守られながら立て続けた。その羞恥心を私は一生忘れないだろう。


「そういえばさ、遠野くん。上から見てて思ったんだけどー」

「……なんだ?」

「遠野くんってなっちのこと好きなの? めっちゃ見てたよね?」

「――そうだな。凄くいい奴だと思ってる」

「そーなんだー。まあ、今はそれで我慢してあげる。ヘルプ入ってくれたお礼だけど、なっち『白魂』の宗助が好きだから覚えておくといいよ」

「……恩に着る」


 遮るものない体育館で丸聞こえの会話をする美智子と正志を、周りも聞き耳を立ててうわぁっという表情をして見ていた。

 

「…………二人とも聞こえてるんだけど。ねぇ慎太、私は正志と年始の始業式からどう接したらいいと思う?」

「俺も夏知さんのこと好きだし先に告ったほうがいいか悩み中」

「……それはそれで聞かなかったとにしたいな。ほら、そろそろ行くよ」


 こいつらイチャイチャしやがってという空気に変わったような気がした。けれど私は悪くないし返事もしていないと開き直り、その空気を壊すように体育館のステージへと三人を置いてに歩き出した。


「へぇー。これはなかなか――」

「新垣さん、どうだった? ドミノをみんなで立てるのは楽しかった?」

「あ、不破先生。正直言えば少し申し訳なさを感じた面もあったけど……それも含めて凄く楽しかったです」

「うっ――、なっちぃ~~~」

「ちょっとー! 羽衣ちゃんどうしたの!?」

 

 ステージに先に来ていた数人が不破先生へと返した私の言葉を聞いて目元を覆う。羽衣に至っては泣き出してしまったが私は悪くない。残りのみんなもステージへと登り感動して声をあげた。


「じゃあみんなー! ステージ上から見るもヨシ、上から見るもヨシ! 近くで並走するもヨシ! というわけでお待ちかねのドミノ倒しの時間です!」

「「「やったー!!!」」」

「「「うぉー!!!」」」


 体調悪い人がいないか確認してから不破先生はメインイベントを高らかに宣言した。ドミノ本線はステージ中央から奥へと伸びている。その先頭に立ち、発起人の土井香菜子は最初の一つを倒すためにしゃがんだ。私は上の通路に登りそれを見守る。


「大丈夫。俺たちの『う』はしっかりと倒れてくれるさ」

「……ありがと。だといいな」

「――――――お願い! いって!」


 さっきのことを思い出して慎太のことを意識してしまう。気恥ずかしくて下を見ると女王様こと香菜子がドミノを倒した姿が飛び込んで来た。パタパタパタパタパタパタ――――――本線を余興とばかりにうねりながらも順調に倒れていくドミノを目で追いかける。


「よしっ! いいぞ!」

「そのままそのままー!」


 隣を見ると美智子と正志が仲良く並んでドミノが倒れる様を熱く見ているのが目に入る。


「あいつさ、私に近づいて本命は美智子だったりしない? 頭の中メロンパンだし」

「お、よく見てるなー。まあ、そこは触れないでやってくれ」

「わかった。さっきの恩もあるしね。けどさ、正志って宮子狙いじゃないの? 二人して恋の試験とかやってたってクラス中で話題になってたし」

「あー、あれは同類の友情だから。ほら、隼人はやと高砂たかさごの」

「なる」


 恋の試験。今日は来ていない高砂たかさご咲月さつき香山かやま隼人はやとがそれぞれの親友から出されたというそれは、私たちのクラスどころか学校中で知らない者はいないほど遠野正志のメロンパン好きと並んで有名だった。


「あいつら今日は初詣にいってるらしいぜ?」

「そうなんだ。もうラブラだねー」

「だな。誘ってはみたんだけどやっかみが怖いからパスするって断られた」

「ああー、なるー」


 私たちは会話をしながらもドミノの行く末を見守る。香山隼人は正直いってモテる。咲月が勇気をだして告白したそうだが、両想いだったらしくそのまま逆告白されて付き合い出したと聞いた。だが、やはり小、中学校と同級生だった子たちの中にはお互いに片思いだった子もいたらしく、その子らに気を使ってこういう自主イベントはしばらく遠慮したいらしい。――そうこうしているうちに本線は左右に分かれて10文字を倒すために分岐していく。


「あの文字は大変だったろうな……『あ』だけに」

「っぷ。慎太もそんなダジャレ言うんだ」

「面白かったろ?」

「ギャップのせいだけどとってもね」


 そんな会話をしてる最中もドミノは倒れ続ける。『あ』『お』の次に『け』『め』、『ま』『で』と二文字づつ続き――『し』『と』も倒れた。


「いよいよ『う』かー」

「う、ぉーーー!」


 私がちゃんと倒れるか心配していると隣で正志が叫んでいた。


「っふ、不器用なやつ」

「いい奴なんだよ。厨二メロンパンなことを除けば」

「咲月もそう言ってた」


 恋の試験とか言いながらも二人に気を回してくれたりしてたらしいし、さっきも私がつま先でドミノを倒したフォローも嫌な顔一つせずにしてくれた。もうすぐようやく一年となる短い付き合いだけど、凄くいいヤツだとそれだけでもわかる。だから私は彼と親友の恋を応援してあげたいと思った。


「あっ!」


 けれどドミノは丁度その私と正志が変わった付近で停止してしまった。その間も本線は進み蛇の尻尾を進み、反対側の文字である『て』は全て倒れてしまった。


「交代した部分だから間隔が少しだけ違ったのかもな」

「……夜更かししてすみませんでした」

「ほらなっち見て、それはそれとして見事な白蛇が出てきたよ。おー、5列一緒に倒れてたのが曲がり角でペース変わるのいいよね。――もうすぐなっちたちに変わってもらったポイントかな?」


 さすがに落ち込んで目線を足元へと落としていると慎太が実況をしながらパタパタとドミノは倒れ続けます。それを聞いて私も最後まで見届けないといけないと思い再びドミノへと視線を向けると……しばらく見ない間に随分と倒れて様変わりしていました。


「……もったいないことしたかな」

「かもね。けどほら、あのあたりだよね? 一番右の、そろそろだよ」


 そして、再び私たちが代わった場所に差し掛かる。

 

「――お願いっ! 倒れて!」


 私の願いが通じたのか、少しだけ……本当に一瞬、ゆっくり倒れながらもドミノは無事に倒れ続けた。


「よかったね夏知さん・・・・

「うん。本当によか――」

「おー! きたきたきたきたー!」


 無事に倒れて安堵し、慎太が私のことを渾名でなく再び名前で呼んだ気がしたことが気になった……のをすぐに忘れるくらいに正志が大きな声で叫んだ。そちらを見ると正志と美智子が指さしながら視線を向けている先で変化が起きていた。


「え? なんで……」

「もしかしたら振動かも。ずっと他のドミノが倒れていたわけだし少しづつズレて……」

「おい慎太、もうちょっと言い方なんとかした方がいいと思うぞ」

「そうだよー! みんなの友情パワーでドミノがまた動き出したとかさー!」

「正志には言われたくないが……確かにそうだな。悪い。――てなわけで、なっち。あれは友情パワーで」

「っぷ! いい直さなくてもいいよ。――ごめん、ふふっ、ちょっとしばらく私のことはきにしなっ、い、で」


 三人のやりとりがなんかツボった私は必死で笑いに堪えて倒れ始めた『う』の文字のドミノを追いかける。三人も傍で私と一緒に一文字の行く末を見守ってくれていた。


「よっし! 『う』クリアー!」

「っしゃー!」

「やったー! やったね、なっち!」

「うん! みんなありがとう! ――それじゃ、フィナーレを見届けよっか!」


 私たちは感動を分かち合ってから再び白蛇へと目を向ける。まだ終わっていないドミノ倒しの最期を、一緒に作った12人のみんなと先生で見るために、残りの十数秒ほどの時間を瞬きもせずに見守るために。


「よし! 最後のコーナーも全部曲がった!」

「ここで5列とも揃うのかー」

「すごくエモいね!」

「うん、凄い。語彙力は失くした」


 そして、終わりはすぐにやってきた。


 ――パタン。


「「「「やったーーー!!!!」」」」


 みんなして手をあげたり抱き合ったり、各々の感極まった表現でドミノ倒しを完遂した喜びを分かち合う。体育館に浮かび上がったのは長い長い白蛇、そして『あけましておめでとう』の10文字が眼下に広がっていた。


「じゃ、記念撮影しましょうか! みんな集合してー!」


 すでに自前のスマホでパシャパシャと記念撮影している生徒たちを不破先生は頃合いを見計らって呼び集めた。


「じゃあ、土井さんが真ん中、あとは好きな位置でドミノを背にして全員がここからここに入るるように――そう、加納さんと八重樫さんがちょうど両端になるようにね」


 不破先生がステージ上から写真にドミノと全員が収まるように体育館に私たちを並べていく。

 

「なっち~はあっち~!」

「みっちもこっちー!」

「正志くん、なんだか微笑ましいね」

「なんだったら八重樫、俺たちもやるか?」

「恥ずかしいしいいや。慎太くんとやりなよ」


 私たちは宮子のいる右端に集まった。きっと写真を見るたびに『右』という言葉であの時のことを思い出せると思ったから。そして、私はポーズを両手を使って『う』を表現した。


「左手をこう――『つ』みたいにして、右手をこう小指を曲げて『、』を乗せると……ほら!」

「なるほど。こいつはいいな」

「じゃあ、左端は全員が『う』でいこう」

「私も間接的に手伝ったし『う』でいいよね?」

「わたしもー!」


 それを説明すると美智子に宮子、慎太、正志の4人も真似してやってくれることになった。


「それじゃ、3,2,1――」パシャ。




 私の新年最初のイベントであるドミノ倒しはつま先でドミノを倒すというハプニングに見舞われながらも、それを機にもっとみんなと仲良くなり、素敵な思い出として心に残った。


 後日、先生から渡された写真には私の『う』にくっつけるように、左右を逆の手で鏡のようにした『う』を作った慎太の姿が映っていた。当然、みんなの話のネタにされ、私たちは『♡』を作るような仲だと広まったことも追記しておく。

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