第3話 暗闇の見物

悠真は街灯の明かりが届かない小道から、その様子を静かに観察していた。目の前の広場では、複数のギャングが入り乱れ、激しい抗争を繰り広げている。叫び声と武器がぶつかる音が響き渡る。


「何をやってるんだ、あいつは……。」


悠真の視線の先には、斉藤涼がいた。涼はその驚異的な瞬間移動の異能を駆使し、敵を翻弄していた。彼が動くたびに残像が現れ、目に見えない速さで敵を圧倒している。


「まるで疾風だな……。」


涼の動きに見とれつつも、悠真は冷静に状況を分析する。この抗争には何か裏がある――そう直感していた。


「おら、どうした?遅いな!」


涼が挑発するように叫びながら、高速移動で敵の間を駆け抜ける。相手の拳や武器が振り下ろされるが、すべて空を切る。


「くそっ、どこだ!?」

「見えねえ!あいつ、消えたか?」


敵ギャングたちは混乱し、互いにぶつかり合う始末だ。その隙に涼は一人ずつ敵を無力化していく。


瞬間移動で背後に現れ、肘打ちで相手を気絶させる。別の敵が背中を見せた瞬間に、高速移動で距離を詰めて膝蹴りを叩き込む。涼の動きは華麗で、圧倒的だった。


「これがの実力か。」


涼は自信に満ちた笑みを浮かべながら、残る敵を見渡す。その様子を悠真もまた、興味深そうに見つめていた。


抗争が終わりに近づいたかに見えたその時――涼の前に一人の男が現れた。黒いコートを羽織り、鋭い目つきで涼を睨みつけている。


「やっと来たな……炎蛇(えんじゃ)のリーダーか?」


涼が冷笑する。しかし、男は涼の挑発に乗らず、静かに右手を掲げた。


「お前を始末するために手を打ったのに、自分で動く羽目になるとはな。」


「始末する、ねぇ。俺を狙ってるってことは……まさか、あの依頼主はお前か?」


男は薄く笑みを浮かべた。


「そうだ。俺はお前を消すために、始末屋を雇った。だが、お前がここで暴れてると聞いて直接来たまでだ。」


涼は驚いたように目を見開いたが、それも一瞬だった。すぐに表情を引き締め、構えを取り直す。


「なるほどな。つまり俺がここでお前を倒せば、文句ないってわけだろ?」


「その前に、この炎で焼き尽くしてやる!」


男の手のひらから突然、赤々と燃え上がる炎が巻き起こった。その熱気が周囲の空気を揺らし、他のギャングたちは一斉に後退する。


「異能者……か。」


涼は低く呟きながらも、微笑みを浮かべた。


炎蛇のリーダーは容赦なく炎を放ち、広場全体を焼き尽くす勢いで攻撃を仕掛けた。その炎の勢いは凄まじく、普通の人間では到底近づくことすらできない。


「消し炭にしてやる!」


涼はその炎を瞬間移動でかわしながら、隙を伺う。だが、炎蛇のリーダーは一瞬の隙も与えなかった。涼が現れるたびに、すかさず炎を操り、攻撃を仕掛ける。


「くそっ、動きを読まれてる……!」


涼は汗を滲ませながら、必死に炎を避け続けた。だが、広範囲にわたる攻撃を受け流すのは容易ではなかった。炎の熱気が彼の体力をじわじわと奪っていく。


「どうした、逃げ回るだけか?」


リーダーは余裕の笑みを浮かべながら、さらに炎を強めた。その圧倒的な力に、涼は焦りを隠せなかった。


涼は何度も瞬間移動を繰り返しながら攻撃を試みた。しかし、リーダーの炎はそのすべてを阻む。彼の防御は完璧だった。


「ちっ……!」


涼は再び瞬間移動を使い、リーダーの背後を取ろうとした。しかし、次の瞬間、炎の壁が彼の行く手を阻む。


「そこだ!」


リーダーが炎を一気に放射し、涼はその直撃を受けて地面に叩きつけられた。衝撃と熱気に耐えながら、涼は何とか立ち上がる。


「思ったよりやるじゃねえか……!」


それでも、涼の顔には悔しさと共に戦意がみなぎっていた。だが、彼の動きには疲労の色が見え始めていた。


悠真は遠くからその様子を見守っていた。涼の力は確かに驚異的だが、炎蛇のリーダーの異能には明らかに押されている。


「瞬間移動だけじゃ勝てない。攻撃の隙を作れなければ……。」


悠真は涼を助けるべきか否か迷った。だが、まだその時ではないと感じた。涼がどこまでやれるか――それを見極める必要がある。

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revenge of darkness 虎野離人 @KONO_rihito

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