第2話 ストリートギャング

夜の東京。雑然としたビルの裏手にある小さなカフェに座った悠真は、いつものようにスマートフォンを開き、暗号化されたメッセージを確認した。


「ターゲット:ストリートギャング“サンドイーグルズ”」

「罪状:違法取引、窃盗、暴行」

「報酬:800,000円」


「また厄介な相手か……。」


悠真はメッセージを読み終えると、顔を無表情に戻した。犯罪に手を染めた連中を裁くのが自分の役割だ。ただそれだけだと自分に言い聞かせながら、スマートフォンをポケットにしまう。


「サンドイーグルズ」の拠点は、都内にある工場跡地の廃ビルだった。悠真は薄暗い路地を通り、無人の建物に忍び込んだ。内部は荒れ果て、コンクリートの床には割れたガラスや鉄くずが散らばっている。遠くから笑い声や物音が聞こえ、複数人が集まっている気配を感じた。


悠真は物陰に身を隠しながら、周囲を観察した。そこには、銃を持つ数人の男たちが見張りとして立っていた。悠真は息を潜め、動きを見極める。


「まずは見張りを排除する。」


悠真は手近に落ちていた鉄くずに触れた。そして意識を集中させ、力を感じ取る。重力を微妙に調整し、鉄くずを音もなく動かすと、それが見張りの足元をすくうように転がった。


「うわっ!」


男がよろけた隙に、悠真は影から飛び出し、手刀で喉を打ち抜いた。男は声を上げる間もなく地面に倒れ込む。


ホールのような広い空間に足を踏み入れると、悠真は20人近いギャングたちがたむろしているのを見た。中央には、リーダーと思われる男が立っており、鋭い目で周囲を見渡していた。


「さて……全員相手にするのは少し骨が折れるな。」


悠真が心の中で呟いた瞬間、彼の存在に気づいたギャングたちが一斉にこちらを向いた。


「おい、何だこいつは!」

「侵入者か?やっちまえ!」


数人が武器を持ち、悠真に向かって突進してきた。そのうち一人が金属バットを振りかざしながら叫ぶ。


「この野郎!」


悠真はその攻撃を冷静に見極めた。彼は力を発動し、空気の流れを斥力で操作する。結果、バットの軌道が微妙に逸れ、悠真の頭を掠めるだけに終わった。


「何だ今の……?」


攻撃が外れたことに驚くギャングを無視し、悠真は彼の胸元を一撃で突き、地面に叩きつけた。次に来る敵にも一瞬の隙を与えず、周囲の鉄骨を動かして斥力で武器を弾き飛ばした。


「おい、待て!」

奥から鋭い声が響き、ギャングたちが動きを止める。その場に現れたのは、一人の長身の男だった。短く刈り込んだ髪と鋭い目つきが特徴的で、威圧感を漂わせている。


「リーダーだな。」

悠真は男を一瞥して冷静に言った。


「その通りだ。……俺の部下をよくもやってくれたな。」


斉藤涼――その名を聞いた瞬間、悠真は一瞬だけ記憶が揺らいだ。だが、目の前にいる涼がかつての仲間だという確信は持てなかった。見た目も言葉遣いも変わり果てている。


「まあいい。どうやら腕は立つようだが、俺を相手にできるか試してみろよ。」


涼は挑発的に笑いながら構えを取った。その動きには異能の気配はない。ただ純粋な戦闘技術で戦う覚悟が感じられる。


涼は悠真の間合いに一気に飛び込むと、鋭い拳を繰り出した。その動きは迷いがなく、精密だった。悠真はそれをぎりぎりで避け、即座に反撃に移る。


「速いな……だが。」


悠真は涼の足元に重力を仕掛けた。微妙なバランスを崩した涼は一瞬だけ体勢を乱すが、それをすぐに修正し、再び攻撃を仕掛けてくる。


「お前、ちょっと普通じゃねえな。」


涼は軽口を叩きながら連続で攻撃を繰り出す。悠真はそれを冷静にかわしつつ、周囲の鉄骨や重力を利用して、反撃の隙を作ろうとする。


互いに一撃を加えることなく、数分間の激しい攻防が続く。涼の技術と悠真の能力は拮抗し、決着はつかなかった。


その時、外から突然の銃声が響いた。ギャングたちがざわめき始め、緊張が広がる。


「何だ……?」

涼が眉をひそめて声を上げた。


「他のギャングが暴れているらしい!」

部下の一人が走り寄ってきて、息を切らしながら報告する。


「チッ、タイミングが悪い……。」


涼は悠真に鋭い目を向けたが、手を下ろした。

「おい、今日はここまでにしてやる。だが、次は容赦しねえぞ。」


悠真はその言葉に反応せず、静かに構えを解いた。状況が変わった以上、依頼を優先するべきかを考えるべきだと判断したからだ。


「……仕方ない。次の機会だな。」


涼は部下を引き連れ、ホールを後にした。悠真はその背中を見送りながら、何か言い知れぬ違和感を覚えていた。


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