第23話 闇の影と心の選択
遙は王宮の広間で、静かな時間が流れるのを感じながら座っていた。
心の中では何もかもが絡み合い、次第にその糸をほどくことができなくなっていた。
影法師との対話から少し経ったが、あの不穏な気配が頭を離れなかった。
「遙」
その声に、遙はふと顔を上げた。
王が近づいてくるのが見える。
彼の姿が視界に入ると、遙の胸に微かな動悸が走った。
王の冷徹な眼差しが、いつものように鋭く遙を見つめているが、彼女にはそれが時折優しさを含んでいるように感じる瞬間もあった。
「どうした、遙。何か考え込んでいるようだな」
王は穏やかな声で尋ねたが、その眼差しに隠された不安を遙は感じ取った。
遙は答えを躊躇い、そしてゆっくりと口を開く。
「影法師のことが、まだ頭から離れません。彼が何を企んでいるのか、私には分からない。」
遙の言葉に、王の顔色が一瞬変わったのを見逃さなかった。
「影法師の存在を感じ取っているのか」
王は低く呟くように言った。
遙は黙ってうなずく。
「彼は…私の力を欲している。あの時、触れられた感情が私を蝕んでいくような気がする」
王は黙って聞いていたが、しばらくしてから静かに言った。
「その力を使うことで、何かを守ることができるかもしれない。しかし、同時にそれはお前の心を削っていくものでもある。」
その言葉に、遙は深く息を吐いた。
「私にはどうしても、過去を振り切ることができない。妊活をしていたあの頃、私は本当に幸せだったのだろうか…」
王は一歩近づき、遙の手を取った。その温もりが、遙に少しの安心感を与える。
「過去を捨てることができないのは、人間として当然だろう。だが、今お前が選ぶべきなのは、過去に縛られることではない。」
王の言葉に、遙は一瞬胸が締め付けられるのを感じた。
「私は、あなたの言葉を信じて、選ぶべき未来を選びます。でも、その選択が本当に正しいのか、今も迷っている。」
遙は王を見上げ、ゆっくりと続けた。
「影法師が私に与える試練が、私にとってどういう意味を持つのか、それを見極めることができるのでしょうか。」
王は少し間を置いてから、遙の目をじっと見つめた。
「お前が選んだ道には必ず試練が待っている。それを乗り越えた先に、きっと答えが見つかるだろう。」
その言葉が、遙の心に深く響いた。
しかし、心のどこかでは、今もなお影法師の存在に対する恐れが消えなかった。
彼は、遙にとってただの試練ではない。もっと深い、何かに関わる存在であるように感じられた。
その時、広間の扉が開かれ、側近が入ってきた。
その顔には緊張が浮かんでおり、遙に向けられる視線が一瞬、何かを隠すように震えた。
「遙様…王様、すぐにお越しいただきたいという急報です」
側近は、焦るように言った。
王は遙の顔を見つめ、少しの間黙っていたが、やがて頷いた。
「分かった」
そう言い、遙に向けて最後に言葉を残した。
「遙、何があっても、お前の選んだ道を信じることだ。心の闇に惑わされるな」
遙は静かに頷き、王が去った後、彼女は再び広間に残された。
心の中で何かがぐるぐると渦巻いていた。
影法師、王宮、そして自分自身の過去──
すべてが絡み合い、遙はその中でどんな選択をしていくべきか、まだ見えない答えを探し続けていた。
その瞬間、ふと彼女の目に何かが映った。
広間の隅に、ひときわ暗い影が立っている。
その影法師の姿に、遙の心は再び震えた。
「あなたが求めるものは、私に与えられるのでしょうか?」
遙は無意識に呟いた。
その影は、何も答えることなく、ただ静かに彼女を見つめ返していた。
無音の城から紡ぐ声 エピファネス @epiphanes
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。無音の城から紡ぐ声の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます