第4話 命乞いしてももう遅い〜後悔先に立たず〜


 正直この忙しい中、尻軽の相手をしている暇はない。チラッと視た後無視して俺の用事に戻ろうとすると、慌てて大声を上げるグリシーヌ。


「ジーク、あの時は酷いことを言ってごめんなさい。でも今は私後悔して―――」


「はいはい今忙しいんで、それじゃな」


「ちょっと待って、お願い話を聞いて!貴方はやっぱり私の大切な人なの!今だけでもいいの、わたしを助けて……子供の(あの)頃のように!」


「だが断る」


 もう話すのも面倒なのでそれだけ言ってから飲み屋の給仕ちゃんの手を取り、脱出させたい人を集めている集合場所に急ごうとするとグリシーヌがしがみついてきた。邪魔だなぁ。


「やだ、置いていかないで!私を助けて!このままじゃ私死んじゃう!この国はもうおしまいよ、食料もない資源もない、魔物に囲まれて救援も来ない、何もないわ!私こんな国やだ!こんな所で私まだ死にたくない!!王城の中はボロボロよ!」


「全部自業自得じゃない?それに俺もうお前に興味も関心もないしさ、離してくれよ時間ないんだ」


「イーヤーイヤイヤッ!ここでジークに捨てられたら私が魔物に嬲り殺されるか餌にされちゃうのよ!?婚約者じゃなくなっても幼馴染じゃない!私を可哀想だと思わないの?!」


「全然思わないなぁ。お前の旦那の、騎士団長の息子のあいつがなんとかするんだろ?―――そぉい!」


 問答無用とグリシーヌを振りほどき、こんなのを殺して人殺しとして後悔をしたくないので死なない程度に超手加減しつつそのまま遠くへと放り投げる。城の方角に向かってブン投げたけど落っこちても死なないだろう、多分。そして俺達が出立するのには戻ってこれまい。いやぁ変なのに絡まれたなぁ。


「良かったの、ジークくん……?」


 グリシーヌとのやり取りを心配そうに見守っていた給仕ちゃんに、大丈夫と笑顔で頷きつつその手を取って駆けだす。これで俺達が助けたい人は全員助ける事が出来たので、集合地点に行くと十数人ほどの人と、師匠も待ってくれていた。どさくさにまぎれて一緒に脱出させてもらおうとする金持ち、貴族やその護衛達も集まってきていたがそれらは空気のように無視する。どこかで見た顔だと思ったら竜討伐から凱旋した謁見の間で俺の事を王様やグリシーヌと一緒に化け物と罵っていた連中だ、助ける気も起きないわ。


「……それじゃ、皆!俺達についてきてくれ!!」


 こちらに向かって走ってくるグリシーヌの姿がみえたので、こういう時だけはガッツあるなと失笑しつつさっさと出発する。間に合わず置いてけぼりとなったグリシーヌの嗚咽と号泣が俺達の背後から聞こえたけれど、すぐに魔物の喧騒に消えて聞こえなくなった。それじゃあ今度こそさよならだグリシーヌ。自分たちで頑張ってくれよな!

 それから俺と師匠で前後から魔物を蹴散らしつつ、来た時と同じように魔物を蹴散らして海を割るように外へと脱出する。俺達について来ようとしていた金持ち貴族達は囲みの中で力尽き全員もれなく魔物の餌になっていたけど、気にしない。あいつらは勝手についてきていただけだしな。


 助けたい人を脱出させて程なくして、王都は陥落し地獄と化したとか色々聞くけど、それもまた俺にとっては心底どうでもいいことだった。



 ―――それから俺は脱出させた人達をつれて師匠の弟子が国王をやっている国へと向かい、俺はそこに腰を落ち着けて、穏やかに暮らしている。


 “竜殺し”が定住したという事はすぐに他の国にも知れ渡り、早速様々な国から縁談が舞い込んできた。第一夫人でなくても構わない、第二夫人以降でもよいから是非姫を妻にと申し出があったりしてもう完全に俺の手には負えないので師匠に相談させてもらっている。……竜鱗は竜殺しの証、人の身で竜を討つほどの勇者の血であればどうあっても王家に入れたいという思惑だけでなく、俺を起点に姫と婚姻を結ばせることで国と国との関係を良化させることも狙っているのもあるのだとか。師匠はこれも織り込み済みで各国を回っていたようだけれど、師匠なりの親心みたいなもんなのだろうか?

 グリシーヌには裏切られたけれど、なんか世界各国の綺麗なお姫様の縁談に回り込まれてしまっている、もうこれ逃げられない。

 縁を結ぶことや政治だなんだってのは難しいなぁと思っているけれどこのままだと妻にお姫様10人20人みたいな事になってしまうのでは??


「竜を殺せるほどの気力を持っているのだ、乙女の10人や20人位愛してみせい」


「それじゃ俺が女を侍らす性豪の女たらしみたいじゃないですか、ハァ……」


「あはは、大変だけど頑張ってくださいねジークくん」


 尚、俺が買った屋敷を1人で切り盛りするのは大変なので、飲み屋の給仕ちゃんはそのまま雇って侍女として家の管理をしてもらっていたりするので、こういった場では秘書代わりに手伝ってもらってもいる。


「……ちなみに私なら、いつでもお手付き大丈夫ですからネ♡」


 こっそりと耳打ちをしてくる給仕ちゃんにドキッとさせられつつ、そんな俺達の姿を見師匠は呵々大笑していた。机の上に積み上げられたお姫様達の肖像画と手紙の山を見てから、はぁ、とため息を零してから、これもまた一つの大団円、というやつなのだろうかと苦笑するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幼馴染の姫を救うために竜を討ったら呪われた挙句に掌返されたけど裏切り者達は地獄に堕ちるようです サドガワイツキ @sadogawa_ituki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画