第3話 滅亡寸前の王国で

 ガファイアンを後にして1年がたとうとしている。


今ではもうガファイアンは「竜殺しを裏切り掌返した恩知らずの愚王が総べる国」として他の各国からそっぽを向かれ相手にされず、国交を断絶され取引を断られるようになっていて、食料自給率が低く資源の大半も輸入に頼っているガファイアンにとってこれは致命的だろうけれど、俺には関係のない話だ。


 師匠曰く、約定を違え英雄に対して仁義を通さぬ行いはどの国であっても“普通は”忌み嫌われ、そんな事をする王や国とはどんな災難が飛び火するかわからないので避けるとの事。


 そしてこれも後になって師匠に聞かされたことだけれど竜殺しの呪い、竜鱗は武人の誉れとして尊敬され称賛されるものらしくガファイアン以外の国、特に過去に竜と争った歴史を持つ国では熱烈に歓迎されてどの国からも是非婿に、そうでなければ姫を妻にと声をかけられたけれど、師匠のとりなしでどの国に対してもそういった話は保留になった。ゆっくり落ち着いて将来の身の振り方が決まったらそういう事を考えればよいだろうという師匠の配慮なのだけれど師匠には本当に何から何までお世話になりっぱなしなので頭が上がらない。


 だがそんなある日の事、諸国漫遊をぐるりと一周回りガファイアンに近い国に戻ってきたところで、ガファイアンが見た事もないほどの強力な魔物に完全包囲されているという話を聞いた。師匠は、ほれみろぉ!と笑っていたのでどういう事か尋ねると、ゆっくりとなぜそうなったのかを教えてくれた。


「竜種というのはこの世界において絶対強者じゃ。ただそこに在る、というだけで竜種以外の全ての魔物は平伏し従うじゃろう。……黒竜は確かに暴力の権化でありひとたび暴れれば並の人間では止められぬほどの災害じゃったが、数十年ごとの贄を要求するが引き換えに意図せず他の魔物の動きを封じておったのじゃな。

 じゃが黒竜が死ねば、これまで黙って従っていた魔物達が暴れ出す。その魔物についても、“竜殺し”がいればどうにでもなったじゃろう。じゃが、あの国にはお主程の強者はおらん。あとは魔物の群れに蹂躙され、救けを乞うても相手にもされず、滅びゆく未来しか残されておらん」


 なるほど、俺が黒竜を討伐しに出発するときに言っていた“その後の事”とはこの状況だったのか。確かに俺が居たら何とかなっていそうだけれど、今更助ける義理もないしなぁ。ただ、そう言われると親しくしてくれた人達がこのまま魔物に殺されるのは忍びない気もする。


「……ふむ、今お前が何を考えていたか儂にはわかるぞ、ならばお前があの国から助け出したいと思う人だけは救出しに行こうかの」


「えっ?!なんでわかったんですか師匠」


「わしはお前の師匠じゃぞ……というのはさておきお前は正直に顔に出すぎるからな」


 ―――そして俺は師匠と共に再びガファイアン王国へと向かったが、道中の草木は失われ集落はどこもかしこも壊滅し、王都への道は不毛の大地と化していた。そして王都は都市の門を固く閉じて守りに専念しているが、その城壁は随分といたんでおり、逃げ場が無いように包囲されている。親しい人や恩のある人を助けるにはあの群れを突破しなければいけないので、師匠と共に剣を抜いて突撃してゆく。


「ふぅむ、これは竜の下に何体か魔物の君主が従っておったようじゃの。統率された動きに加えて個々の魔物も強い。ガファイアンの兵では手も足も出ず嬲り殺しじゃろうなぁ」


 師匠は顎鬚を撫でながらそんな事を呟くが、反対の手には剣を握り魔物をばっさばっさと斬り倒している、年老いても流石剣聖。俺も竜殺しを振るい主に大型の魔物を両断してまわるが、どの魔物も手ごわく並みの兵士では一方的に殺戮されて終わりだと思う。師匠と背中を庇い合いながらも魔物の群れを斬って捨てて突破し、王都の門までたどり着くと壁をよじ登って王都へと侵入した。


「あの魔物の群れのを突破してきたのですか?!あ、貴方はもしや剣聖のモージャス様ですか!?それに竜殺しの化け物ジークも!?た、救けが来た!?やったー助かったー!」


 俺達の姿を見た兵士が両手を上げて喜ぶけれど師匠が首を振りながらその言葉を遮る。


「あぁ、勘違いさせたようで済まんの。儂らはこの国の愚王に不義理をされたのでこの国を助けに来たわけではないのじゃ。この者の親しい人だけを救出しに来たのでな、他の者は国王にでもなんとかしてもらってくれ」


 モージャスの容赦ない言葉に喜びは絶望に変わり、青い顔で腰を抜かしている兵士を可哀想だと思うけれど俺としてももう一人一人に構っていられない。宿屋のおばちゃん等、親しかった人や世話になった人たちの家を回り、この国から連れ出すから着の身着のままだけでついてきてくれと声をかけていく。そして残るは飲み屋の給仕ちゃんだけになったところで、今となっては懐かしく、聞きたくもない女の声が聞こえた。


「兵から救援が来たと言われたのでいそいできたけれど貴方はジーク?ジークなのね!私を助けに来てくれたの?!」


 俺を裏切ったクズの一人、グリシーヌが涙に目を潤ませ俺を見ていた。……うわぁ。

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