第2話 恩知らず達と決別を
ボロボロの身体を引きずり、城へと帰る途中泉を見つけたのでそこで鎧を脱ぎ返り血を落していると、水面に移る自分の姿にこの身を蝕む呪いがどういうものか理解する。……だがこれは愛する人の命を救うため、共に在る未来のために覚悟し選んだ事だと自分に言い聞かせ、竜の返り血を落とした鎧を着込んだ後王城へと戻った。
国の民や兵士、そして王侯貴族達に歓迎されながら俺は王の待つ謁見の間に向かい、竜の討伐報告を済ませると王も姫も大層喜んでくれた。
「見事だ、竜殺しの英雄ジークよ!そなたこそ万夫不当の豪傑じゃ!竜殺しの呪いなぞ気にするな、約束通りグリシーヌとの結婚を認めようぞ!」
「えぇ、貴方なら勝てると信じていたわ!ありがとうジーク、愛してるわ!」
そんな2人の労いと称賛の言葉を受けながら兜を脱ぐと、王と姫だけでなく謁見の間にいる諸侯や兵達も皆悲鳴を上げた。―――竜殺しの呪いとして、俺の額や頬には黒い竜鱗が生えてきているのだ。
「ぬわーっ、なんと悍ましい!気持ちの悪い、醜い怪物じゃ!!!!!」
「キャァァァァッ!!なんて醜悪なの?!近寄らないで汚らわしい!!私、あんな怪物の所に嫁にはいけません!!」
「王、姫?!この鱗は竜殺しの呪いで―――」
「えぇい、黙れ黙れい!お前のような気持ちの悪い、薄汚れた化け物に姫はやれん!!衛兵、騎士達よその醜い怪物を即刻斬り捨てい!!」
先ほどまでの称賛とうって変わっての罵詈雑言に、困惑しながらも説明を試みるが2人とも聞く耳を持たず、挙句騎士団長の息子は躊躇なくこちらを斬りつけて来た。戦いの疲れが抜けきらない身体なのと対竜用装備の竜殺しの大剣では分が悪く、防戦一方になってしまう。その間も、謁見の間にいる貴族達からは俺へ怪物、化け物と罵声が飛んでくる。
「死ね、化け物め!!姫は私が貰い受ける、お前はさっさと消え失せろ!」
「な、なにを言っているんだ。俺と姫は将来を誓い合い、そのために俺は竜殺しを―――」
「馬鹿め、お前が居ない間に俺と姫は散々愛し合ったのだよ。死すべき運命が待つならば座してその時を待つよりも今ある時間を愉しみましょう、と声をかけたら二つ返事だったぞ。寝取られた揚げ句にそんな化け物になって、惨めだなぁ!」
突然告げられた寝取りと姫の裏切りに衝撃を受けるが、そういえば修行を終えてこの城に戻って来た時もこの男は姫の隣にいたな。失望と絶望に反応が遅れ、あわや首を刎ねられそうになるが横合いからの衝撃に騎士団長の息子は吹き飛ばされ、壁に叩き付けられた後に尻を上にして情けなく崩れ落ちていた。この衝撃波を飛ばす斬撃は師匠のものだ!
「やれやれ、愛弟子の結婚を祝いに来たというのにこれはどういう事じゃ」
謁見の間の扉を吹き飛ばして乱入してきた師匠―――剣聖モージャスの落胆と侮蔑の言葉に誰も応える者はおらず、師匠は俺の隣に歩いてくると優しく肩を叩いた。
「これまでの修行によく耐え、見事竜殺しを成したな、愛弟子よ。お前は儂の誇りじゃ。―――それに比べてこの国の恩知らずどもときたら!!
直向きな少年を使い捨てたあげくに掌返して謀殺をしようだなどと、大の大人のする事ではないわい!恥を知れ、この俗物どもめが!!儂の弟子に狼藉を働こうというなら、儂が相手をしようぞ。この剣聖モージャスが一刀両断、仕る!!」
憤怒と共に国王を睨みながら啖呵を切り、さしもの国王も剣聖相手ではガタガタと震えて小便を漏らさざるを得ないようだ。老いて尚その剣の腕は健在、次の瞬間には師匠の斬撃で両断されてもおかしくないような状況なので誰も彼も動けないのだ。
「才能を努力で磨き、この国に数百年にわたり存在した竜の討伐を成し遂げた者に、これが人間のやることか!人の女を寝取ったその間男も、自分のために死地に挑む男を裏切り放蕩に靡いたその尻軽女も皆同罪じゃ。恥を知らぬ畜生以下の外道どもめ!こんなクズどもの相手をする必要はない、さぁゆくぞジーク!!」
師匠が王達をボロクソに言ってくれたので俺が言う事なくなっちゃったなぁと思ってるうちに師匠に連れられて謁見の間を後にする事になっていた。ついでに去り際、思い出したように師匠が国王を振り返って残酷な言葉を投げかけはじめた、死体蹴りかな?
「そうじゃ愚王よ、予め宣告しておいてやるが“竜殺し”を裏切った貴様達の将来は苦しみぬいて死ぬ未来しかない、覚悟しておくことじゃな」
死刑宣告にも等しい言葉を置き土産に残して、俺は師匠に連れられてガファイアン王国を出立することになった。
街を出る間際、親しくしていた下宿のおばちゃんや飲み屋の給仕ちゃん達と出会い声をかけられた際に竜鱗を心配されたが大丈夫と伝えつつ別れの言葉を交わしてから国を去った。
それからはもうこのガファイアンがどうなろうと知った事かと激怒する師匠に連れられて師匠と縁のある国々を訪問し、竜殺しの英雄として他の国の王や重鎮に紹介をされながら大陸を旅した。
……その後ガファイアン王国は対外的には騎士団長の息子が竜殺しをしたと嘘をつき、姫と結婚したらしい。しかし師匠と諸国を漫遊しながら事情を説明していったことで、ガファイアンの嘘は広く知れ渡り、次第に国交を断絶したりガファイアンの者と取引を打ち切る国が増えていき、徐々にガファイアンは困窮していくのだった。
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