幼馴染の姫を救うために竜を討ったら呪われた挙句に掌返されたけど裏切り者達は地獄に堕ちるようです

サドガワイツキ

第1話 姫と誓いと竜殺し


 俺はジーク、ガファイアン国に仕える騎士見習いだ。

 代々ガファイアン国に仕える騎士の家に産まれだった事と、王女グリシーヌ様と同じ歳だったことから物心ついたころからグリシーヌ様のお供として一緒に行動していたので、王女とは所謂幼馴染の関係だった。

 小さな頃から人一番お転婆なグリシーヌに手を焼かされることもあったが文句を言わずついてまわり、時に危ない事をしそうになれば止めたり、危険が迫れば身を挺して守ったりもした。

 グリシーヌ様は美しく成長し、いつしか俺とグリシーヌ様は互いに惹かれ合っていた。

 身分違いの恋、結ばれる運命ではないとわかっていたのでお互いに口に出すことはしなかったけれども。けれど、そんな俺達の関係が変わる決定的な事件が起きた。ガファイアン国の南に居を構える黒竜は数十年ごとに魔力の高い人間を生贄に要求してくるが、その生贄にグリシーヌ様が選ばれてしまったのだ。


「ジーク、私が3年後に黒竜に捧げられる贄に選ばれたわ。……いつか武功をたてて父に求められた貴方と一緒になりたかったけれど、無理みたい」


 俺と一緒になりたいという本音の言葉を零し涙を流しつつも、国の為と黒竜の贄になる運命を受けれようとするグリシーヌ様を……いや、グリシーヌの姿を見て、俺はこの人を必ず救ってみせると心に決めた。竜殺しは今わの際に竜に呪いを受けると言われているが、それでも戦わなければ生き残れないというのなら俺は戦う事を選ぼう。


「姫……いや、グリシーヌ。俺が貴女を守ります。黒竜を討ち、その武功を以て王に貴女を妻とすることを認めさせてみせましょう!例えこの身に竜殺しの呪いを受けようと恐れはしません。剣聖の弟子となり己を鍛え、刻限の日までに竜を討って参ります!」


 

 それから俺は、国王陛下に竜殺しの誓いを申し出た。陛下からも、もしも竜を討つ事が出来たのであればそれは英雄の行いであり姫を妻として娶らせるという約束もされた。

 城の皆や姫に見送られつつ、父の伝手で国に滞在していた剣聖モージャスの弟子となり、文字通りに死ぬ気で己自身を鍛え上げることになった。

 鍛錬に励む中で父母が流行り病で死んだことが手紙で知らされもしたが、涙をぬぐい歯を食いしばって耐えた。全ては愛する人の為、そして祖国の平和のために。古の時代から国の驚異として君臨する竜を討ってみせる!

 ただひたすら、がむしゃらに剣に没頭し続けた俺は、父祖の代から代々剣士だったことで才能に恵まれていたのか、2年程の修行の間に師匠が驚くほどの成長を遂げた。

 定期的に姫に手紙を送りつつ、訓練と冒険を繰り返す日々の中で何体もの魔獣や君主(ロード)と呼ばれる魔物達を束ねる王達を討ち、今では次の代の剣聖だと太鼓判を押されるようにもなった。尤もそんな評価よりも、俺にとって重要なのは愛しい姫を救う事。

 姫が贄に捧げられるその日が迫りつつある中、ついに師匠からも自身を越える剣の使い手に成った、今のお前であれば黒竜にも勝てるしその後の事も大丈夫だろうと背中を押されたので、師匠に礼を言った後で黒竜討伐へと出立した。

 王国に帰還し、剣聖に認められたことと竜の討伐に向かう事を告げる。2年の時を経てグリシーヌはますます美しく成長していた。姫の隣に、騎士団長の息子がいるのが気になったけれど。

 兎も角俺は師匠から譲られた剣聖の鎧を装備し、大きく、分厚く、重くそしておおざっぱすぎる鉄塊のような特製の大剣を担ぎながら竜の城に棲む魔物を蹂躙殲滅突破し、ついに黒竜の前に立った。


『この俺様の城を荒らしている輩はお前か。二度と同じことを考えることが現れぬよう、はらわたをくらいつくしてくれる!』


 そんな竜の怒声と共に火ぶたを切った竜との死闘は三日三晩に及び、お互い満身創痍となった末に最後の一撃を受けた方が命を落とすという状況になっていた。戦いの中で言葉を交わしながら死線でやり取りをしていたからか、竜からは感情の乗せられた言葉が投げかけられるようになっていた。


『小僧、ジークといったな。人の身でありながらこの俺をここまで追い詰めたのはお前が初めてだ。……だから悪い事は言わん、ここで退け。次の一撃をその身に受ければおまえは死ぬ。だがしかし、俺の一撃に先んじたとしても竜の呪いがお前を蝕むだろう。俺はそれを望まん。それだけの腕があるのであれば、人の世で覇を唱えることもできよう、お前が望むならば友としてその覇道を手伝ってやっても良い。それに未来を垣間見ることができる俺の竜眼は、俺を討った先のお前が幸福には思えんのだ。みすみす生き急ぐな』


「すまない。それでも俺はお前を倒さなければならないのだ。そう誓ったのだ」


『そうか、それは残念だ―――ならば次の一撃が我らの決着となるだろう。往くぞ!』


「―――来い!!!」


 そして互いに残された最後の力を振り絞った最後の一撃はわずかに俺の方が早く、竜の首を斬り落とした。


『―――見事だ、ジーク!!我が称賛と共に呪いをその身に受けるが良い。あぁ本当に惜しい、な』


 そうして竜の返り血を全身にうけ、焼けつくような痛みを感じながらも俺はついに黒竜を討伐したのだった。

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