すき焼きの残り

白川津 中々

 年明け二日目。

 年末から続く深酒に体が悲鳴をあげている。この頃に実家で山芋が出てくるのはこういう事態を防ぐためかと納得。確かに落ち着いたものを食べたくなる。とはいえ独身男に自然薯を摺って乾燥シイタケを振りかけろなどどだい無理な話。今日も適当に、豪華に装った食事を腹に収めていく予定。

 その前に、ひとまず朝食。昨晩の残りのすき焼きを再加熱しうどんを入れる。朝から肉の香りで重苦しい。実家にいた頃は三が日までは雑煮が出てきたが、ここ数年は餅自体を食べていない。一人身に切り餅は多い。とはいえ、世帯を持つ気にもなれない。


 一人の方が気が楽だ。年末年始、こうして自堕落に過ごしても何も言われない。朝からビールを開けようがターキーを炭酸で割ろうがお構いなし。不摂生万歳ではないか。


 ……頃合いだな。


 フライパンに卵を落とし、蓋をして数分。完成。皿に盛りつけ、口に運ぶ。まずくはない。

 そのままモサモサと食べていると、外からは子供の声が聞こえた。家族と神社にでも行くのだろうか。幸せな事だ。


 ……家族か。


 これまで一人の時間をどれだけ過ごしてきただろうか。。

 自分で選んで道ではあるがもの悲しさを感じる。

 気楽で身軽で、しがらみもなにもない人生。確かに重荷はないが……

 

 「……母親が作った方が美味いな」


 そう呟いてみても、誰からの返事もない。

 ビールを飲み、バーボンを飲み、一人酒に酔いながら、俺はうどんを啜った。


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