第10話 西部の貴族のパーティー

 「ウィル、西部の貴族の集まりが来週あるんだけど、一緒に来てくれるかい?」

 父上から貴族のパーティーの話があった。

 子どもを連れて貴族のパーティーに行くとき、これまではたいてい兄上が同行していた。

 兄上は王都の学校に行ったし、妹はまだ小さいから、なるほど僕に話が来るわけだ。

 でも、僕には怯みもあった。

 「もし一緒に行けば、僕が生産スキルを得たことは話題になると思います。そのことで父上や母上にご迷惑がかからないでしょうか。」

 もともと、ぽっちゃりした体型のことで貴族の子たちにからかわれたこともあった。正直に言えば、貴族のパーティーに良い記憶はない。

 「大丈夫だ。迷惑になんてならないさ。」

 「そうよ。生産スキルは立派なスキルだわ。ウィルの作る家具や鞄は素晴らしいの。もっと胸を張っていいと思うわ。」

 両親にこんなふうに言われると断れない。

 諦めてパーティー参加することにした。


 今回のパーティーは、お隣のカーディフ伯爵の館で行われる。

 馬車に乗って進むうちに、立派な館が見えてきた。

 西部の貴族の中では、フェアチャイルド辺境伯家とカーディフ伯爵家、ウォルターフォード伯爵家が家格の高い貴族だ。

 車寄せで馬車を降りると、伯爵家の使用人に案内され、大広間に向かって歩いていく。

 玄関から大広間に続く廊下は、天井にフレスコ画が描かれ、両側には壺や絵画が飾られている。

 大広間に入ると、両親は知り合いの貴族たちと挨拶を交わしていく。

 その後ろをついて歩くと、周囲の声が聞こえてきた。

 他の貴族の子どもたちが「相変わらず太ってるな」とか「生産スキルだったらしいよ」とか言っているのも聞こえる。

 うう、だから来たくなかったんだ。

 頭を抱えていると、なぜか数人の大人の貴族が両親ではなく僕のところに寄ってきて「君がウィルヘルム君かな?」と聞いてきた。

 「はい、僕がウィルヘルム・フェアチャイルドですが。」

 「おお、君がそうなのか。君の作る家具は素晴らしいね。この間、辺境伯閣下から椅子を頂いたのだが、あの装飾は実に見事だ。」

 「私はメアリー様から鞄を頂きましたの。王都の人気工房にも負けない見事な出来栄えでしたわ。それを息子さんが作ったと聞いたときは驚きましたわよ。」

 どうやら父上と母上は、僕の作った家具や鞄を西部の貴族に贈っていたらしい。

 「君がドワーフたちの家を建てたそうだね。短期間で100人分とは凄いよ。どうやら生産スキルは可能性を秘めたスキルのようだね。」

 僕がドワーフたちの家を建てたことも知られているようだ。

 急に大人の貴族たちに囲まれてびっくりしたけれど、生産スキルを評価してもらえるのは嬉しい。

 近くにいる父上と母上を見ると、にっこり微笑んでこちらを見ている。

 ああ、きっと生産スキルの良さを宣伝するために近隣の貴族に家具や鞄を贈ったり、ドワーフの家のことを話したりしてくれたんだと気付いた。

 貴族のパーティに出ても大丈夫とは、こういうことだったのか。

しばらく大人たちと話して、一段落したところで少し休みたくなって、食事や飲み物の置いてあるコーナーに行った。

使用人から紅茶をもらい、隅っこの空いているテーブルで一息入れる。

 あまり他人と話すのに慣れてないから、疲れた。

 紅茶を飲みながら、ぼうっとパーティー会場を眺めていると、賑やかな子どもの集団が近づいてきた。

 なんだろうと思ったら声が聞こえてきた。

 「カーディフ伯爵令嬢、今日もお美しいですわ。」

 「フローラ王女殿下よりも美しいのではありませんか?」

 どうやらレティを取り巻く集団らしい。

 レティは今日のホストである伯爵家の令嬢だ。綺麗な子だし、家格も高いから人気がある。ちなみに王家の四女であるフローラ姫は美少女として有名だ。会ったことはないけどね。

 レティと話すのはいいけど、貴族の子たちは面倒そうだから席を移ろうかと思ったら、声をかけられた。

 「ウィル、ようやく話せるわ。大人の貴族たちに囲まれていたから声をかけづらかったのよ。」

 「え、そうだったんだ。」

 レティは取り巻きを描き分けるようにして僕の前に来た。

 「どう?この鞄とドレスは似合っているかしら?」

 ベージュのドレスに焦げ茶色のハンドバックを持っている。

 うん、僕のあげた鞄だ。

 「よく似合っているよ。というか、その鞄、使ってくれてるんだね。」

 「ええ、もちろんよ。素晴らしい品だし、貴方が作ってくれたんですもの。」

 そして周囲の子どもたちに鞄を見せながら、「これはウィリアムが作ってくれたの。彼はお庭に格好良い倉庫まで建てていたのよ。生産スキルって凄いわよね」と言った。

 「まあ、素晴らしい鞄。私にも一つ頂くことは可能でしょうか?」

 「今度遊びに行かせて頂いても良いですか?ウィリアム殿が作られた物や倉庫を見せて頂けると嬉しいです。」

 急に貴族の子ども達に囲まれて困惑していると、レティがウインクをしてきた。

 幼馴染も両親と同じで優しいなあ。

 いつか恩返しができると良いな。

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生産スキルで内政無双~勇者でも賢者でもない転生 スタジオぞうさん @studio-zousan

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