第2話
王都の東側、小高い丘の全体が王立魔法学院の敷地だった。
市街地とは川でへだてられており、学院の正門をくぐるには長い橋をわたらねばならない。
橋の上を歩いていると、いつも落ち着かないレオンだった。
左右には、魔法使いや賢人の彫像がズラリと並び、なんだか監視されているような気がしないでもない。
ようやく橋をわたりきると、正門前には三名ほどの守衛が詰めていた。
ひとりが気怠そうに立ち上がって、
「学内関係者?」
無愛想な視線をレオンに向ける。
「いえ、部外者です。貴校の学生と約束があって来ました」
レオンの回答に、その守衛は露骨にうさんくさいものを見るような顔をした。
「どなたと約束が?」
「ええっと、シャスタニア公国ご令嬢……」
詰所にいた守衛の全員がけわしい目つきでレオンをにらんだ。
レオンはため息をついた。
この手のメンドウなやり取りはいつものことだ。
いい加減イヤになってくる。
守衛は来客名簿をたしかめて、たしかにレオンの名前をそこに見つけたようだ。
にもかかわらず、身分証は持ってるかだとか、どういう用件なのかなどなど、しつこく質問をしてくる。
すると、モゾモゾとレオンの肩越しに頭をだしたのはモルタゥだった。
「みなさーん、おつとめご苦労さまです! この方はお嬢様のお客人ですよ! わたしが保証しますから心配ご無用ですよー」
そのひと言が守衛の態度を一変させた。
数分後には来客用のラウンジに通されていたレオンだった。
「モルタゥ、おまえは顔パスなのか……」
「あのひとたち、みんな友だちですよー。この学院はわたしの庭みたいなもんですから。えっへん」
何がえっへんなのか分からないが、使い魔のくせにシャスタニア家の威光をふりかざすこの小動物に負けたような気がするレオンだった。
「お嬢様にお知らせしてきますね」
そう言ってモルタゥは駆け出すと、ラウンジの奥にあるアーチ状のゲートの向こうに消えた。
レオンはラウンジの身が沈みそうなソファに腰かけた。
ラウンジ内には他にも二、三の来客があって、面会相手となにやらヒソヒソと話している者もいる。
しばらく手持ち無沙汰のまま、あくびが出そうになってきた頃、
「おまたせー!」
奥のゲートからふたたび姿を見せたモルタゥ。
あとに続いて、レオンの雇い主が現れた。
「ごきげんよう、レオン。早かったわね」
「やぁ、セレン。急かされたんだ。このイタ……じゃなくて、その、君の使い魔に」
「ご案内するわ」
レオンは戸惑った。
「学院の中に入ってもいいのか?」
「問題ありません。わたくしが一緒ですから。それに……」
公爵家ご令嬢はレオンの背後に視線をはしらせた。
ラウンジ内には他にも二、三の来客がいる。
「ここでは少し話しにくいのです」
レオンは令嬢(と使い魔)の後に続いて、アーチ状のゲートをくぐった。
この先は、身分や格式、家柄や血筋、財産や政治力……およそレオンにはいっさいがっさい縁もゆかりもない価値観が支配する世界だ。
魔剣の記憶 1234 @raphanus
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