ほろ酔い幻想記

長月瓦礫

ほろ酔い幻想記


魚の骨が浮いている。ふらふらと泳いでいる。

細く鋭い綺麗な骨だ。魚の骸骨があちらこちらで泳いでいる。


彼らは調理された魚たちで、ゴミ捨て場のゴミ袋を食い破り、外に出てきたらしい。


俺はそのことにすぐに気づいてしまった。

なぜなら、ここは魚料理を中心に取り扱う居酒屋であり、つい先程まで俺は会社の同僚と飲み会をやっていたからだ。


居酒屋の裏手から魚たちが次々と現れ出ている。


頭のない魚がほおをかする。

剥き出しの骨、先端がするどくとがっている。


夜を泳ぐ魚の骨、そこらじゅうにいっぱいいる。

酔いがほどよく回っていることもあって、なんだか楽しくなってきていた。


「おっと、危ないな」


『しょうがないじゃないですか、前が見えないんですから』


骨が太くて大きい魚、頭がないから探し回っている。

ふわふわと浮きながら、さまよっている。


夜の路地裏、魚の骨が頭を探している。


「骨ならそこら辺に落ちてるんじゃない? 探せば見つかるよ」


『えぇ、助けてくれないんですか?

あなた、未練がましく私の頭をほじくっていたじゃないですか。

忘れたとは言わせませんよ』


そう言われて、なんとなく思い出した。

多分、コイツはさっきの飲み会で食べたタイのかぶと煮だ。

ガツンとくる濃いめの味付けで身が柔らかく、酒より白ごはんが欲しかった。


ひさしぶりにあんなの食べたから、忘れるはずもない。

思わず変な声が出てしまう。


『よほど美味しかったんですね、私の頭』


「まあね。君は自分の味を知らないのかい」


『そんなん分かるわけないじゃないですか。

こっちは鍋で煮込まれて終わりなんですから』


「そうなんだ、残念だね。

君の頭、すっごく美味しかったのにな~。

また今度、食べに行くからね~」


手を振ると頭のない魚の骨が少しだけ距離を取った。

人間に食べ尽くされた魚の骨にドン引きされても困る。


『こんっのド畜生めが……生活習慣病で周囲に迷惑かけながら死ね』


「アッハハハ! 人間なんてそんなもんだよ。

日本人のほとんどは魚好きみたいなもんだしさ!」


『まあ、昔からずっと食べられ続けているので諦めました。

ただ、世界が私たちに気づきつつあるので、マジで食べ尽くされて絶滅するのではと思うんです』


サンマとかマグロが食べ過ぎでこの世から消えるという話を聞いたことがある。

そういえば、昨日もなんか観光客らしき外国人がいた。


『ですので、近いうちに古から伝わる私らの王様をお呼びしようかと』


「なんだそりゃ、ゴジラでも出てくるのか?」


『違いますよ。星々が揃うとき、海底にいる邪悪の王様が目覚めるんです。

今はその時じゃないので、眠っているんですよ』


難しいことを言われても困る。ゴジラじゃないのは確かだけど。

魚の骨がぽつぽつと消え、いつの間にか家の前にいた。


『夜空をよく見ていてください。

もしかしたら、星座が変わっているかもしれないので』


「星座かあ……ところで、君の頭は? 探さなくていいのかい?」


『覚えていたら探します。それじゃ、次の私によろしくです』


「はいよ~」


俺は玄関を開け、部屋に入った。

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ほろ酔い幻想記 長月瓦礫 @debrisbottle00

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