下
ぎんがてつどうは、むげんにつづく宇宙のなかを、しずかにすすんでいった。まどの外には、ときどきりゅうせいがとおりすぎていく。
「あ」
メイがこえをあげた。とおくに、あおくかがやく星がみえはじめていた。
「スチーラ、あの星って……」
「はい。わたしもはじめてみる星です。でも、けんさのけっか、さんそもあるし、しぜんもありそうですよ」
スチーラのことばに、ぼくとメイはおたがいのかおをみつめあった。
「おりてみる?」
「うん!」
ぎんがてつどうは、その星のひろいそうげんに、そっとちゃくりくした。とびらがひらくと、あたたかいかぜがふきこんでくる。
「ここで、お二人をまっています。はい」
スチーラはしゃないにのこることにした。
ぼくとメイは、てをつないで、そうげんをあるきだした。
「エリック、みて!」
メイのゆびさすほうに、小さなはながさいていた。むらさきいろのかわいいはなびら。まるで、ちきゅうでみたすみれのような。
「ねぇ、この星、ちきゅうみたいだね」
そうだった。あおいろのそら、みどりいろのくさ、とおくにみえるしろいやま。ぜんぶが、ちきゅうとよくにている。でも、ここはちがうせかい。ぼくとメイがであった、あたらしいせかい。
かぜがふくたび、くさばながゆれる。ぼくは、かばんのなかにいれていたものをさわった。それは、ぼくが目ざめたときからもっていた、きれいなゆびわ。はじめはくすんでいたけど、スチーラの星でロボットの友だちに、きれいにみがいてもらった。
ぼくはメイのてを、そっとはなした。
「どうしたの?」
メイがふしぎそうにたずねる。
「メイ」
むらさきいろのはながゆれている。かぜがすこしつめたい。でも、むねのおくはあたたかい。
「ぼくね、かんがえたんだ。きおくはないかもしれない。でも、これからのきおくは、ぜったいにわすれたくない」
ぼくはかばんからゆびわをとりだした。しろっぽくひかっているそれは、小さいのにまぶしかった。
「メイ。ずっといっしょにいてほしい。けっこん、してください」
メイは、うるうるとなみだをうかべた。
「エリック……うん。うん!」
メイがうなずくと、なみだがぽろぽろとこぼれおちた。でも、それはかなしいなみだじゃない。メイは、えがおでなきながら、ぼくにだきついた。
むらさきのはなびらが、二人のまわりをまうように、かぜにのってとんでいく。
「ありがとう、メイ」
ぼくは、だきしめかえしながら、ささやいた。きっとこれが、しあわせっていうきもちなんだ。
とおくで、ぎんがてつどうのきてきがなった。スチーラも、よろこんでくれているみたいだ。
そらには、むかしからずっとかがやいていた星ぼしが、いつものようにまたたいている。二人のゆびには、おなじようにかがやくゆびわが、やさしくひかりをはなっていた。
それからぼくたちは、たくさんの星をたびした。
あめがダイヤモンドのようにかがやく星。
うみがピンクいろをしている星。
どこまでもとおくまでゆきのつもった星。
ぎんがてつどうは、ぼくたちをいろんなせかいへとつれていってくれた。二人でみつけたふしぎなものや、うつくしいものを、よろこびあった。
スチーラは、れんらくデバイスでなかまのロボットたちとでんわして、大とうりょうのしごとをしている。いつもたいへんそうだけど、スチーラはぼくたちのことをよくみている。
「お二人は、ずいぶんかわりましたねぇ。はい。まえよりずっとじしんにみちあふれています」
あるとき、スチーラはそういった。
たしかに、いまのぼくたちは、まえとはちがう。もうこわくない。さびしくもない。
ある日、メイがいった。
「エリック。わたし、かんがえたの」
「なに?」
「わたし、このひろい宇宙のことが、すきになったきがする。まえよりも、ずっと。」
メイのことばに、ぼくはふかくうなずいた。じつは、ぼくもおなじことをおもっていた。
「うん。ぼくもすきになったよ。あらためてありがとう、スチーラ」
スチーラは、そんなぼくたちのはなしをきいて、目をオレンジいろにかがやかせた。
「それは、それはそれはとてもこうえいなことです! はい! このぎんがてつどうは、いつまでもお二人のそばにいますよ」
たびは、まだまだつづく。
ぼくらのいのちがつきるまで、ずっとつづくかもしれない。
それでもいい。
「メイ」
「なに?」
「しあわせだよ」
メイは、にっこりわらった。
「わたしも」
星ぼしはまるで、ぼくたちにエールをおくっているみたいだった。
ぎんがてつどうは、きょうもどこかの星にむかって、はしっていく。シュポ、シュポ、という音をたてながら、ぼくとメイは、あたらしいものがたりをさがしつづける。しあわせ、あるいはこだまにつつまれた、この宙で。
「ぼくたちのこえ、きこえる?」
「……ん」
「きこえてるみたいよ、エリック」
「あなたたち……だれ?」
「えっと、はじめまして。ぼくたちは、ここからすごくとおい星からきたんだ。それで、たまたまねているきみにであった」
「となりに……ねている、おんなのこは?」
「あなたのなかまみたい。もうすぐ目ざめるみたいよ」
「ん、ふぁ……ここ、どこ?」
「はじめまして。この星についてはわたしたちもよくしらないけど、ここはあなたのすんでいる星よ」
「あれ……ぼくたち、なまえとかあったっけ。ねぇ、となりのきみ。おぼえてる?」
「うーん」
「こういうときは、おたがいになまえをつけてあげればいいよ。じつはぼくたちも、とつぜん目ざめて、二人でなまえをつけあったんだ。ぼくはこの子に、メイってなづけた」
「わたしは、この人に、エリックってなまえをあげたの」
「へぇ、なんかすてきだね。じゃあ、さっそくきみのなまえをつけてもいいかな?」
「うん。わたしもあなたにつけるわ」
「そうだなー。【ベル】ってなまえはどうかな?」
「ベル……いいなまえね。こんどはわたしから。あのね、わたし、あなたを一目みたとき、このなまえしかないって、そうおもったの。だから、【ダン】ってよんでもいい?」
「ダン、か。ダン、ダン……しっくりくるよ。ありがとう、ベル」
「こちらこそ、すてきななまえをありがとう、ダン。はじめまして。これからよろしく」
「うん。はじめまして」
あるいはこだまにつつまれた宙 一文字零 @ReI0114
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