調査1日目:『聞き込み』p.1

1日目


夕食をとり、宿に帰ってそのまま眠りについた彼らは朝を迎えた


「みんなおはよ!」


「おはよう。ステラは朝から元気ね」


「おはよ……。」


「トモカズは逆にすっごく眠そうだね」


「朝からハイテンションなお前たちがすごいんじゃ……」


眠たげなトモカズと対照的なアーシェとステラ。


民家に備え付けられていた冷蔵庫からペットボトルの水を取り出す。


大きな家庭用の冷蔵庫の中には3本の500mlペットボトル以外入っておらず。その身体を余しているようにも見える。

トモカズはペットボトルを傾け水を飲み、キャップを締め、冷蔵庫の中へ戻す。


「それで?リーダーさん、今日はなにをするの?」


冷たい水で喉が冷え、少し眠気が落ち着いたトモカズは返す。


「キュンストルと合流して聞き込みかな。1つの例だけだと手口が一定なのかどうかもわからん」


「了解。朝食は…外で食べる?」


「そうだな。あ、あと帰りに時間あったら食材買ってくるか」


生活に必要な家電が揃っている反面、食材が何一つ無いため料理のしようがない。


「さんせーい!」


ステラの明るい返事が聞こえる。


「んじゃ腹ごしらえ」


「「「れっつごー!」」」




彼らが向かった先はカフェ。

席に案内され、メニューを見る。


「おぉ、すげぇ」


モーニングのセットにはパン、ハム、チーズや野菜など。その他にはサンドイッチやパンケーキと種類が多い。


コーヒーや紅茶、ココアなども選べるようだ。だがその中で一際目を引くものがあった。


「トモ、お酒はダメだからね」


そう、酒。基本的に大体の大人が大好きで堪らないもの。


トモカズは、メニュー表に書かれている酒の欄に思わず目をやった。そのわずかな視線の動きを捉えたアーシェに突っ込まれたのだ。


「そんなに酒好きじゃないぞ。でも朝からは贅沢な…。」


「ここが観光地だからっていうの関係ある感じか?」


「どうなのかしら。少しは関係してるんじゃない?」


「まぁさすがに朝から酒は飲まないけどな、ふつーに仕事だし。」


トモカズは再度アーシェに弁明した。


「そうするのが吉ね。ステラは何か決めた?」


「うーーん…パンケーキ…サンドイッチ……。

うーーーーん」


やけに静かだと思えばメニュー表を見てはちゃめちゃに悩んでいる少女。


「ゆっくり決めてね。トモ、私はサンドイッチと紅茶のセットね」


そう言うとアーシェはスマホを取り出し文字を打ち始める。


軽快なタップ音が鳴ったかと思えば自分のスマホが震える。画面を開くと昨日作ったキュンストルとのグループチャットだった。


「アーシェ、連絡ありがとな」


「どういたしまして」


「うーーん…パンケーキとココアにしよう!」


「ステラも決まったみたいだし注文するか」


そうして店員を呼び、パンケーキのセットとサンドイッチのセット2つを頼んだ。




しばらく経って運ばれてきたパンケーキやサンドイッチ。


ふわふわのパンケーキにバターがのっていて、純度の高いはちみつがかけられている。


甘い匂いは鼻をくすぐりステラは夢中になって食べ始める。


サンドイッチにはシャキシャキのレタスとハム、みずみずしいトマトと少し分厚いチーズが挟まっていてとても分厚い。


一口食べて見るとマヨネーズとの相性もバツグンで食べる手が止まらない。


トモカズは一緒に頼んだコーヒーを1口飲んでみると、豆の香りが鼻を抜け、程よい苦味と少しばかりの酸味が絶妙だ。


3人は手を止めることなく朝食を平らげた。


「「「ご馳走様でした!」」」


声を揃えてそう言い、ふっと息をつく。


テーブルに置いてあるスマホを目をやるとアンナからの連絡が入っていた。


"10時30分に噴水前ね!"


という端的な文章。噴水前というのは街の真ん中にある大きな噴水のことだろう。

人通りが多いため待ち合わせの場所で使いやすいのか…?という疑問は一旦置いておくことにする。


スマホの時計は現在10時2分を示していた。


「そろそろ出るか」


腹が満たされ満足そうなトモカズ。


「そうだね!お腹もいっぱいだし、頑張ろ〜!」


ステラも明るく返す。


「幽霊騒ぎの聞き取り調査、大変そうね」



様々な反応をとりつつ会計をして店を出た。




指定された噴水の前に近づけば近づくほど人が増えていく。


「ステラ、はぐれないように気をつけろよ」


「うん、頑張る」


「はぐれたら危険だし、手を繋いでおきましょ」


「ありがとう、アーシェ」


美術館や博物館の多い芸術の国、ヴァナヘイム。

都市ヴァルハラの中心に存在する噴水の彫刻はとても美しく、尚且つ古い時代に施されたものである。そのためひと目見ようとする各国の観光客でごったがえしになっているようだ。


その中で緑髪の女と茶髪の男を探すなんて、プールの中で小銭を探す行為に等しいと思った最中


「アキエダ〜!こっちこっち!」


とよく通る大きな声で名前を呼ばれた。


振り返ってみると数m先にアンナとハルターの姿。


色々な方向に進もうとする人々をなんとか掻きわけ、ようやく彼らの元に辿り着く。


「ごめんね〜こんな場所集合にして、迷ったでしょ。」


あっけらかんと言い放つアンナ。どうやらこうなっていたことはわかっていたようだ。


「だからやめとけって言ったのに…」


呆れたようにハルターが言う。


「しょうがないでしょ、ここわかりやすいんだもん」


口をとがらせるアンナ。

やいやい騒ぐ彼らを静かに眺めていたステラが話す。


「ハルター、その耳としっぽって」


髪に紛れていた犬のような耳と、腰の辺りに生えている茶色のしっぽ


「あー、バレちゃうよね、やっぱり。オレ、獣人って種族の血引いてて。」


「珍しいわね。私本物の獣人を見たことないかも」


「オレはこれでも結構血が薄いんだけどね…じいちゃんは結構獣人っぽさあるよ」


獣人

二足歩行の獣。鼠、猫、狼やライオンなど多種多様。

人間が住む場所で一般的に見られるものは大半が狼の血を引いた獣人である。


「種族がどーこーは置いといて、早く聞き込み始めましょ!」


「そうだね!お話も楽しいけど日が暮れちゃうし!」


「幽霊騒ぎを知ってるのは主にヴァルハラの人たちだから見分けてほしいんだけど…できる?」


ハルターが申し訳なさそうに問いかける。


「まぁ、ヴァナヘイムの言葉を話せるあんた達なら見分けるのなんて簡単だと思うけどね」


「いや、俺たちは別にヴァナヘイムの言葉を話せる訳じゃないぞ」


トモカズがさも当たり前と言わんばかりに話す。

トモカズの目線からすれば当たり前なのだが。


「え、じゃあどうやって話してんの?」


驚きの声を上げるアンナ。


「言語の自動翻訳魔法をかけてるだけよ」


アーシェがこれまた軽ーく告げる。


「「え…」」


アンナとハルターが絶句し固まる。


「めっずらしー!!なんで使えるの!!?魔力の消費とか大丈夫なの!?」


アンナは興味深そうに詰め寄った。


能ある鷹は爪を隠す、だがそれが能だと思っていないと隠せないのである。


「ま、まぁその説明はまた今度ってことで…」


トモカズが少し引き気味にアンナに言う。

説明をすることだって不可能では無いが、その説明をしていると日が暮れるのだ。


「あんたたちすごいんだね!!尊敬だわ!!」


そんなトモカズにもお構い無しにアンナは更に詰め寄った。


「ア、アンナ!そろそろ聞き込み始めよう」


ワンテンポ遅れてアンナを止めたハルター。

アンナが本来の目的を完全に忘れている。


「そうだったそうだった。てことで聞きこみ開始ー!」


グダグダしながら調査を始めた。

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