つま先と聞き、大根のつまをテーマにした小説を先に書く
アーカーシャチャンネル
突発ネタと見るか、真剣に向き合ったとみるかは……
ある小説書きVTuberの男性は困惑している。
今回のコンテストのテーマが『つま先』だったから。どうひねっても、足のつま先ネタがいくつか浮かぶのだが……探せば同ネタ多数。
これはどうしようもなくネタ切れか、色々と悩んでいる。
大体、ネタは出尽くしているので書き方を変えれば、それこそ問題ないように見えるが……彼の場合は違っていた。
「人間のつま先と考えるから駄目だ。ここは……」
しかし、異世界人のつま先とはどういうものだろうか? 資料を探そうにしても、おそらくは設定資料集レベルで探すのでは……と言うオチも付く。
書くネタが人間から異世界人に変えただけの
それでも問題はないかもしれないが、同ネタ多数、もしくは同じような発想の切り替えをする人は多数いるかもしれない。
だからと言って、アイディアをAIに出してもらうのも……ガイドライン的にNG。
アイディアだけであれば問題はないだろうが、文章まで書くというパターンではアウトになる可能性は高いだろうか。
この段階でネタが思い浮かばず、結局はネタを考えるためにロケハンをすることになった。
「……ここはロケハンで何とかネタを考えよう」
彼は、自転車に乗って近くのスーパーへと向かう。
自転車に乗る前にはヘルメットをかぶり、安全対策も……と言う具合だ。
警察が『自転車のヘルメットを被ろう』と告知はしても、それを守っている人物は少数かもしれない。
むしろ、努力義務と言う個所を必須にしなければ、ヘルメット着用は広まらない。しかし、強引に進めるだけでよいのだろうか?
今回の小説もおそらくは同じだろう。テーマである『つま先』を足のつま先だけと考えてよいのだろうか、と。
それこそ、別の『つま先』を考え、それを書くべきなのではないか、と。
そして、数分後には近所のスーパーに到着する。大みそかも迫っているような時期なので、年末年始用の商品ばかりが並んでいるだろう。
その中で、彼は鮮魚コーナーの刺身盛り合わせをじっと見ていた。値段を見ると、3ケタ台なものもあれば、1000円というものもある。
2割引きシールの貼られている商品もあるのだが、彼が気になっていたのは割引きシールではない。
「つま、先か」
刺身の盛り合わせの下に必ずと言っていいほどにある『つま』をテーマにした小説を『先』に書く……。これだ、と思った。
しかし、作るにしても……つまを作るのをネットで調べるのもひと手間あるのでは、とか考える。
結局、このスーパーでは半分に切られた大根を購入。その他にも夕食の材料を買って帰ることになった。
家に戻り、彼はキッチンで再び悩む。
包丁でつまを作るというのもあるかもしれないが、他に便利アイテムはないだろうか、と。
(さすがに、こういうものをAIに頼るのもアレかなぁ……)
小説を書くなどの部分でAIを使うわけではない。
あくまでも、彼は大根で「つま」を作るためにAIのアドバイスを借りようとしたのだ。
小説を書くために使うのでなければガイドライン違反ではないだろう。あくまでも刺身のつまを作るため、AIを使うのである。
さすがにAIも刺身のつまを作るために使われる……と言うのは想定外かもしれないが。
(だからと言って、魔法で作るのも違う。どうするべきか)
魔法はこの世界にあるわけないので、当然だが……これも思い浮かんだだけで却下、となるだろう。
(どうやって誰よりも早く刺身のつまを作るべきか……?)
ここで、ふと本来の目的を忘れそうになってしまった。
刺身のつまを作るという小説を書こうとしていた本来の目的、それを放置して大根とにらみ合いをしていたのである。
「まぁ、いいか。刺身を今食べるわけではないし」
結局、今回買ってきた大根は、大根の味噌汁となって、紅鮭定食の一品となった。
こういうオチでよいのだろうか……と彼は思ったが、それもよいかもしれない……と。
翌日、この様子を小説で書き、投稿したのだが……案の定と言うかテーマと違うのではないか、と言うツッコミが飛んだ。
ランキングに載っている作品もつま先と言うテーマを扱っているが、最初に予想したとおりに人間のつま先に関するものばかり。
いわゆる大喜利的な意味で刺身のつまを小説のネタとして書いたわけではない一方で、反応としては弱い方だった。
小説サイトで小説を書く以上、テーマに外れすぎるのも問題はあるのだろうが……。
(何が正しいのだろうか。小説って)
自転車でスーパーに向かう際、同じように自転車に乗ってヘルメットをしている人物も見かけたのだが、していない人物の方が多い。
つまり、それと同じような展開で刺身のつまをテーマにした小説で先手を撃つ……ような『つま先』もありなのではないか、と。
最終的に、予想外とも言える反響はあったのだが……テーマとは若干かけ離れていた。
当然と言えば当然の話。ふざけ半分で書いたわけではなく、彼としては真剣にテーマと向き合ったうえでの、大根のつまだったのである。
間違いなく、つま先と聞いて大根のつまをテーマにしたのは彼だけだった。目的としては達成されたのだ。
つまをテーマにした小説を先に書くという目的は……。
この小説が思わぬバズを得るのは、コンテスト後の話だったという。
つま先と聞き、大根のつまをテーマにした小説を先に書く アーカーシャチャンネル @akari-novel
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