いつ俺達に熊を送り付ける気だ‼ このクソ知事、デマカセ言いやがったのかゴルァっ‼

@HasumiChouji

いつ俺達に熊を送り付ける気だ‼ このクソ知事、デマカセ言いやがったのかゴルァっ‼

『いくら何でも、あんな可愛い熊を殺すのはおかしいでしょ』

 県庁の職員が持って来たのは、SNSに良く有る@#$%の書き込みをプリントアウトしたものだった。

「これが、どうした? @#$%のタワ言など放っておけ」

「い……いや、それが……下手したらウチの県の評判が落ちそうな事まで書いてまして……」

「あのな、@#$%が言う事に誰が耳を傾ける? その内、漫画の『怨○屋○舗』あたりでネタにされてだな……」

「知事、ですから最後まで読んで下さい」

「わかった、わかった」

『大体、あそこの県だけ、何で、人里に下りてくる熊が異様に多いんだ?』

「まったく、こんな嘘八百を並べたてて……俺がやってる事に何か問題でも有ると……ん? どうした?」

「本当に、この2〜3年、ウチの県だけ、隣県より、人里に下りてくる熊の頭数が異様に多いんです」

「はぁ?」

「大体、南隣の××県の1年分が、ウチの県の半月分ぐらいだと思っていただければ……」

「二〇倍以上って事か? 隣の県と何が違う?」

「判りません……。県内の各大学に問い合わせた所……」

「どんな答が返ってきた?」

「『以前は詳しい研究者も居ましたが、研究予算その他が足りなくて、全員解雇しました』と……」

「肝心な時に役に立たんな。大学なんて潰してしまえ。ウチの県に居るのは、どうせ阿呆ばかりだ」

『何か、あそこの県だけマズい事やってんじゃないのか? メガソーラーなんかを安易に認可して、山や森の生態系を無茶苦茶にしてるとか』

「お……おのれ……何と言う事を……こ……これだから、愚民どもに言論の自由など認めるべきでは……」

「知事、また、熊の目撃例が報告されました……本日の午前5時ごろです」

 その時、別の職員が入ってきた。

「殺処分すればいいだろうが……」

「それが……人口二〜三〇〇人程度の集落の近くで……1時間ほどの間に、一〇頭以上が目撃されまして。どう考えても人手が足りません」

「下手したら、隣の県の1ヶ月分が1時間で……」

「やめろ、それを何とかする手を考えるのが、お前らの仕事だろうがッ‼」

「でも、変ですね……」

「何がだ?」

「熊は、普通は、群で行動しないのに、何で、一度に何頭も……」

「その原因を調べるのもお前らの仕事だろうがッ‼」

 俺は迂闊にも気付いていなかった。

 漫画や小説だったら、この部下の一言こそ「伏線」ってヤツだって事を……。


「何で、こうなるッ⁉」

 ストレスの余りマスコミが居る場所で「熊の殺処分について、とやかく言ってる阿呆には、熊を送ってやる」と言ってしまった。

 もちろん、ネット上では称賛の嵐だ。

 でも、何故か、「あんな可愛い熊を殺すなんて。あそこの県知事は人間の屑だ」「熊を送り付ける? じゃあ、さっさと送って下さい。DMで連絡いただければ住所教えます」「あそこの県知事のスキャンダルを公開すれば、可愛い熊ちゃん達を送ってもらえるそうなので、あの馬鹿殿が選挙違反やった証拠をUPしときました」だのと言った書き込みも大増殖しやがった。

「全部、捨てアカみたいですね」

「じゃあ、熊を捕獲しろ」

「いや、猟師は居ますけど、捕獲の専門家は……。しかも、その猟師すら数が足りてなくて……」

「じゃあ、県外から呼べ。何なら海外からでもな」


「知事、何を考えてんですか?」

 県議会で補正予算を通そうとしたら、頭の固いクソ野党議員が、そんな事を言い出した。

「熊を捕獲する為に、専門の業者を海外から呼ぶ? そして、熊の殺処分に文句を言ってる誰かに、その熊を送り付ける? そんな馬鹿な事の為の予算なんて認められる訳ないでしょ?」

 だが、残念ながら、お前の意見など「あんな可愛い熊を殺すなんて」と同じ少数意見だ。

 お前の会派など、この県議会では、圧倒的少数派だ。

 補正予算は、あっさり通った。


「おい……どうなってる?……その……」

 馬鹿どもに送り付ける予定の熊どもは、次々と捕獲された。

 でも……。

 な……何だ……これは……?

『あんな可愛い熊を殺すなんて』

 その書き込みの意味が……今になって判った。

 たしかに、そののだ。

「あのさ……この熊、妙に小さくないか?」

 その熊どもが可愛く見える理由に、ようやく気付いた俺は、捕獲業者の通訳に、そう訊いた。

「ええ……体長は……と言った所ですね。成獣の方もメスですから、この種類の熊としては小柄ですね」

「熊って、そんなに小さかったか?」

「子熊?」

「ええ、ですから……多分、山や森の中で何かの原因で、熊が食べるようなモノが不作だったんでしょう。そう云う場合、子連れの母熊から人里に下りて来るんですよ。だって、この種類の熊は、オスの方が圧倒的に体格が大きい上に、オスには子殺しの習性が有るんで、子連れの母熊や、母とはぐれたり、母を失なったりした子熊は、オスの成獣の熊が居そうな場所は避けるんですよ」

「えっ?」

「ですから、この熊達にとっては……

「じゃ……じゃあ、その……仮にの話だけが……もし、オスの成獣が人里に下りて来たら……」

「想像したくも有りません。我々でも流石に対処出来ませんし……伝統的な方法の猟師や、殺処分が専門の業者も、遠くから狙う方法が主流なので、人里だと勝手が色々と違うと思いますよ」

「知事……例の書き込みをしていた捨てアカの主から連絡が入っています。『熊を送り付けると言うのなら、運送費なんかは、そっち持ちなんだろうな?』と……」

「クソ……どうなってる? まさか、『あんな可愛い熊を殺すなんて』なんて阿呆な書き込みをした連中の方が、俺達より熊の事を良く知ってた可能性が有るのか?」

「はい、多分、そうかと……」

「な……何だと? 連中の正体は何だったんだ?」

「少なくとも……連中が指定してきた送り先の住所は……」

「だから、どこだったんだ?」

でした」

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