魔剣クロノスを得るために! Ⅲ
日々菜 夕
第3話
この物語はフィクションです。登場する人物。地名、団体名等は全て架空のものです。
雪が溶け春が訪れた頃――
この村、唯一の学校が再開される事になりました。
それは、とても嬉しいことであり。
村長の娘としても大喜びすべきことのはずなのに……
私の、心は――残念な気持ちの方が、はるかに大きかった。
なぜなら、学校の先生と言うのがグレンただ一人であり。
今こうして、一人で帰路についているのも私が比較的優秀で、居残りの必要がないからだった。
当然と言えば、当然な話だ。
なにせ、冬の間――
私は、グレンをひとりじめして色んな事を教わっていたのだから。
歳の近い人たちに比べれば、出来て当然。
むしろ、追いつかれようものなら恥以外の何物でもない。
それなのに、私の心は――居残りしている人達に対して嫉妬している。
思わず、つま先で道に転がっている小石を蹴飛ばしてしまうのもしかたがないことだろう。
そんな小さな八つ当たりを、買い物帰りの母に見られてしまったのが始まりだった。
「あら、どうしたのロゼット? ずいぶんと面白くなさそうな顔して」
「えっ?」
「もしかして、グレンさん取られちゃっていじけてるのかしら?」
「なっ――!」
まるで、私の心を見透かしているかのような青い瞳が私を見つめていた。
ごまかす言葉が浮かばない。
反論も出来ずに足を止めている以上。
お母様の言葉を肯定しているようなものだ。
「ふふふふ。若いっていいわねぇ」
そう言いながら笑うお母様もずいぶんと若く見える。
なにせ、私を産んだのが10代半ばだったからだ。
腰まである長い金髪に大きなお胸。
とても一児の母とは思えない、なかなかの美人さんである。
それにひきかえ、ひんそな身体つきの私……
まぁ、お母様の血を受け継いでいるのだから将来性はあると思いたいが。
色んな意味で子供な自分が嫌になる。
どうしたら、お母様のように余裕を持った大人の対応ができるようになるのだろうか?
お母様に聞いてみれば、この心のもやもやも少しは晴れるのだろうか?
「あ、あの。お母様は、どうやってお父様を自分のものにしたのですか?」
「ふふふふ。そんなの簡単よ。素直に自分の気持ちを打ち明ければいいだけだもの」
まるで、買い物かごに入っている野菜を買ってくるのと同じだと言わんばかりにあっさりと言われてしまった。
しかし、言うほど簡単ではなかったはずだ!
なぜなら、村長の家に嫁ぐとなればそれなりの労力を必要とされる。
先ず、今は亡き祖父母に気に入られなければ話にならないし。
村民にだって認められなければならない。
つまり村長の娘になるのにふさわしいと思われなければならないはずなのだ!
それなのに、そういった苦労話みたいなものを聞かされた記憶がない。
「ほ、本当に、自分の気持ちを伝えるだけで、よろしいいのですか?」
「あとは、そうねぇ~」
お母様は、私の頭のてっぺんから、つま先までじっくり見てから言葉を続けました。
「もう少し、女らしい身体つきにならないと無駄だと思うのだけれど。ロゼットなしでは生きられない体にしちゃえば勝ちね」
いまいち意味は分からないが、今の私では――まだ早いという事なのだけは分かった。
そして、どうやったのかは分からないが、お母様は――
お父様にとって、お母様はなくてはならない存在になったのでしょう。
「あの、もう少し、具体的に教えてはもらえないでしょうか?」
「うふふふ。簡単よ。グレンさんの方からロゼットと結婚させてほしいって言わせればいいだけだもの」
「そ、そんなこと、できるのでしょうか?」
「出来るわよ。少なくとも私は、出来たもの」
驚きである!
今までの話の流れからすると。
私のお母様は、お父様から結婚してほしいと言われ。
頷いただけ。
と、いう事になる。
果たして、私にも同じことができるのだろうか?
そんな、私の不安そうな顔を見てもなお、お母様は笑います。
「うふふふ。大丈夫よ。だってあなたは私の娘だもの」
*
その日の夕食にて――
私は、向かいに座るグレンに向かって言葉を投げかけます。
「ねえ。先生……今日は、またずいぶんと遅かったですね?」
「あぁ。思っていた以上にみんな積極的でな。正直なところ私、一人ではとても手がまわらない」
理由は分からなくもない。
なぜならグレンは、魔法や、剣術だけでなく。
一般の勉強も、それなりに教える事が出来るからだ。
王都でも、有名な学校の訓練生だったというのは本当なのだろう。
それに、見た目もそんなに悪くない。
長いこと教師不在だった事もあり。
グレンとさほど歳が離れていない生徒もいる。
そういった人達からのアプローチが日増しに激しくなっているのは私の目で見ても分かる。
勉強を教わるだけでなく別の思惑があるのは明らかだった。
正直なところ、いつグレンがコロッと態度を変えて誰かとくっついてしまうのではないかきがきではない。
「本当に、それだけですか?」
「どうしたんだいロゼット? もしかしてやきもちか?」
「なっ――!」
図星を指されて言葉につまる私に代わってお母様が話にくわわります。
「うふふふ。ダメですよ、グレンさん。まだ子供とはいえロゼットも女性なんですから、言葉には気を付けないと」
「それは、すまなかった。謝る。なにせ学校を卒業した後は、即戦力として最前線送りだったんでな。女性の扱いについては困っているんだ」
本当に、そうなのだろうか?
グレンは、同世代の女性に対して特に優しく教えている気がする。
というか、むしろ喜んで教えているのではないのだろうか?
心の中のもやもやが噴出して、ついグレンを睨みつけてしまう。
「本当は、歳の近い女性と話が出来て嬉しいだけだったりするのではないですか?」
「これは、まいったな……頼むから機嫌をなおしてくれ……」
「そうよ、ロゼット! 嫉妬を表に出すのは悪手! 今度、口にしたらご飯抜きにしますからね!」
え?
あれ?
悪いのは、全部、私?
確かに、勝手にイライラして、嫌味を言ったのは認めるけれど……
グレンだって悪いはずだ!
だって、あんなにも嬉しそうに女生徒と接しているのだから。
それなのに、お母様までグレンの味方をするなんて……
まるで、一人ぼっちにされたかのような孤独が私の心を支配していました。
私が、うつむいていると――!
「なぁ、ロゼット。明日は学校も休みだ。久しぶりに二人でどこか出かけないかい?」
グレンから予想外の言葉が飛び出していました。
魔剣クロノスを得るために! Ⅲ 日々菜 夕 @nekoya2021
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