第10話

 その言葉を聞いた瞬間、二人の表情が凍りついた。


「ゴリアテ……だと!?」


「間違いじゃないの?」


 レイナがパイロットに詰め寄った。通信の音声が無常に機内に流れる。


「追加情報……世界の主要都市で同様の襲撃を確認。現地のコード・ブレーカーが対処中だが、押されている。被害は拡大中」


 その時、通信にさらにノイズ交じりになり、異質な声が響き渡った。


「まず礼を言おう。コード・ブレイカー」


 それは、忘れるはずもない声だった。


「カオス・ゴリアテ……!」


「1体、倒しただけで、全てが終わると思ったか?」


「どういうことだ!」


 アッシュが叫んだ。


「私は心配性でね。電子化された意識を7つに分けた。それらは、独立して機能する。1体倒されても、残り6体が存在する。1体すら倒せない君たちのために、秘密にしていいたのだがね。礼というのは、やっと1体目を倒してくれたことに対してだ」


 通信の声が笑い声に変わった。アッシュは唇をかみ「ゴブリン野郎め」と小さく吐き捨てた。


「私は7という数字が好きでね……ちなみに、それぞれの個体は異なる特性を持つ。倒すのは用意じゃないぞ。あと、さきほどと同じ方法はもう、通用しない。修正パッチが即座に共有され、各個体に適用済みだ。それでは、楽しみに待っているぞ。コード・ブレーカー」


 そこで、通信が途切れた。


「アッシュ、どうする?」


 笑みが消えたパイロットの声は震えていた。


「……最寄りで、襲われている都市はどこだ」


「アッシュ、まさか!」


「サンフランシスコだ」


 パイロットが応えると、レイナは一瞬、思慮した後、決意を込めてうなずいた。


「行きましょう。まだ、戦える。動けるうちに、少しでも被害を抑えましょう」


「タフなやつらだな。だが、最寄の基地に立ち寄ってもらう。これは、命令だ。できるだけの応急処置の準備をさせておく。我々は君たちを失うわけにはいかない」


 パイロットは操縦桿を握り直した。アッシュとレイナは、互いの顔を見てうなずき合った。


「天国から地獄ね。しかも、個体によって特徴が違うなんて」


 レイナが低い声でうなるように言った。


「考えるのは後だ。まずは目の前の命を救う。それだけだ」


 アッシュの言葉には、強い覚悟が混じっていた。


 戦闘機は進行方向を変え、彼らを再び戦場へと送り届けるべくモハーヴェ砂漠を離れた。


(了)

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コード・ブレイカー 松本タケル @matu3980454

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