後輩

あざみ忍

第1話

 オレには気になる奴がいる。

 彼女の名前は如月きさらぎ紫乃しの、オレより1つ年下の17歳。

 だがどうして気になるのか、それがサッパリ分からねぇ。

 可愛いから? まぁ見た目は悪くねぇがそこじゃねぇな。 それとも性格が良いとか? イヤイヤ、アイツは先輩であるオレのところを敬う気ゼロなんだからそれも違う。 じゃあ冷たくあしらわれるのが快感なのでは? オレは確かにMだが、そこは……って、何を言わせるんだよ! まぁなんだ、アレだ。とにかくオレは理由も分からず、今日も一人で本を読んでいると、如月が声をかけてきた。


「先輩、お疲れ様です」

「今日も来たのか、相変わらず暇な奴だなぁ」

「私も部員ですから」


 オレたちは同じ文芸部員である。部活の頻度は週に1度。放課後になると部室に集まり、部活動が始まる。ちなみに他の部員はいない。オレと如月、2人だけ。


「最近はどうだ?」

「可もなく不可もなくって奴ですね」


 生存確認。これもいつものやり取りの1つである。


「ふ~ん。てっきり、何かあったと思ったよ」

「どうしてですか?」

「だってオメェさん、髪切ったじゃねぇか」

「…………」


 ここでオレは1つ指摘した。先週までと比べて、コイツの後ろ髪が若干短くなっていることを。オレの気のせい、ではないと思う……。だっていつも目で追っていたから。うん、間違いねぇ。


「なぁ。反応がないと、オレも困るんだが」

「すみません、ちょっと驚いていました。先輩、意外と私のところ見てくれているんですね」

「うっせぇ」


 如月の笑顔に不覚にも見惚れたオレは、恥ずかしさのあまり、慌てて本の世界へと逃げ込む。

 だが彼女の顔は脳裏から消えることはなく、かえって愛おしく思ってしまった。うん、これはかなりの重傷だな。でも嫌な気分じゃねぇ。この気持ちは大事にしたいから。


「私、そういう先輩嫌いじゃないですよ」

「へいへい、そりゃどうも」


 こうして今日も如月との楽しい時間は続くのだった――。

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後輩 あざみ忍 @azami_shinobu

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