即興小説

404-フグ

年越しワンライ


今回のお題【みかん、抱負、初詣】

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 その神社にはいつも一人の巫女さんがいた。


 周りの大人より少し背の高いお姉さんだ。すらっとした体に細くて長い髪。モデルのような、極上のお人形さんのような人が巫女服を着てそこで働いていた。

 遠くから見ているだけでもまるで神仏の類ではないかと思うような美しさなのに近くに行って会話などをしようものなら、きっと緊張と喜びで意識が飛んでしまうだろう。


 そんなお姉さんに僕が初めて会ったのは小学五年生のとき。

 普段は年末年始でさえ忙しく働く両親が僕が知る中で初めて二人揃っての長期休暇を取れとき。両親は「せっかくの正月なのだから」と僕を連れて近所のとある山にある神社へと初詣に行くことになった。

 僕は初めての初詣というイベント、両親が揃ってどこかに出かけるという滅多にないことで夜中の一時にもかかわらず心の底からワクワクしていた。

 しかし、その神社へいざ行ってやったことと言えば参拝とおみくじと僕の合格祈願のお守りを買っただけ。

 テレビで見たようなとても長い参拝客の行列も、縁日の屋台もなく、とても残念な思いをしたことを今でも覚えている。

 特に、お守りを買うときの両親が言った「合格」という言葉は子どもながらに少年だった僕の心に負担をかけ、気分はおみくじと同じく凶いや、大凶であった。


 どことなくつまらないと直感した少年は両親がいる授与所から離れて境内の中を散策していた。

 そして少年は白いトカゲを境内のすみっこで見つけた。普段はあまりお目にかかれないトカゲ。それもまさかの白いときた。

 当時、未だに虫や爬虫類などが大好きだった少年は絶対に捕まえてやると意気込んで必死に逃げるトカゲを追いかけ続けた。

 散々走り回ってようやく捕まえたとき、少年は山の何処かもわからないところへ入り込んでしまった。

 段々と正気に戻った少年は真夜中の山中の雰囲気に圧迫された。

 

「おかあさーん、おとおさーん」


 呼びかけても両親からの返事はない。

 寂しさと途方もない後悔から泣き出しそうになったとき、ふとみかんのような甘い香りが鼻をさすった。


「君、こんなところでどうしたんだい?」


 振り返ると、籠を背負った彼女がそこにいた。


 結局、その後に僕は彼女に連れられて無事に帰還した。

 そこで待っていたのは泣いて喜んだ母親と心配と心配をかけさせたことへの怒りでぐちゃぐちゃになった父親からの説教だった。

 そんな僕達の様子を彼女は微笑ましそうに見守っていた。

 そして彼女は涙で赤く腫らした目をした僕にむかって言った。

 

「君、今年の抱負をいまここで決めようじゃないか」


 最初はなんだそれはと思ったが彼女の説明を聞くうちに、それは僕と彼女の取り決めであるのだとわかった。

 勝手に知らない場所へいかないこと

 一人で行動しないこと

 彼女の許可なしに山へ入らないこと

 などを含めたもはや条約などと言える詳しい内容をそこで決めた。


 そのとき、僕は彼女のことをまじまじと見つめていた。

 そしてふと目が会った瞬間、神秘的で美しい彼女に惚れてしまった。


 その後も僕は神社へと通い続けた。


 学校の帰り道に、休みの日の暇つぶしに、彼女との再開、談笑を求めてほぼ毎日通った。

 しかし彼女とは普段は会うことができず、手持ち無沙汰な日々を過ごした。

 それでも時折姿を見せる彼女に僕は心弾ませ会いに行った。


 あれから約七年。

 僕は未だに通い続けている。

 そして無事に成人を果たした今日、彼女へプロポーズをしにきた。

 あの甘く優しい彼女に。

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