心新たに、よい年を

三門兵装 @WGS所属

小さな家の、暖かい夜:三段囃 みかん・抱負・初詣

 あー、今年が終わるっていう感じがしないなぁ。


 除夜の鐘を突きに行ったときにもらったみかんの皮を剝きつつ、わちゃわちゃと明るく点滅するテレビに向けて気だるげに呟く妹は、もうすでに半身をこたつに食べられていて。


 その姿はさながらカタツムリのようで。あぁ、コタツムリっていうのはどうだろう。


 私もまた、回らない頭で刻一刻と終わりが近づく今年を振り返る。


 思い返せば、今年は受験生だった。今このくらいの時間にも翌日の模試の事なんか考えていて、毎年恒例の初詣もお見送り。

 寝る前に二階のベッドから捧げた新年の抱負さえ、数か月しか効力のない直近の合格だったっけ。

 あーあ、もったいないことしたね、私。


 でも、後半はそんなのを吹き飛ばすぐらいに内容の濃い、8か月でもあった。


 今まで以上に友達の輪も広がって、だけど新しい環境に手いっぱいで。新たな学びに、今まで通りにはいかなくなって。

 部活にももっと本腰を入れたいし、新しい趣味を探すために一歩を踏み出したり、ちょっと前からやっていたFPSのゲームにもようやくはまりだしたりもした。


 来年は、何をしようか。

 何が欲しい、何をやりたい?


 時間が欲しい、自分を変えたい。

 周りにももっと気を使いたいし、もっと好きに貪欲でいたい。


 煩悩まみれ、幸せだ。

 

 外ではまだ、除夜の鐘が鳴っている。


 新年まで、残り数分。

 ぼんやりした意識を何とか繋いで過去じゃない現実いまをじっと見つめる。

 

 人が決めた一年という区切りに時の境目はなくとも、心を変えるには十分な区切りだろう。


 そんなこんなしていると、ようやくテレビでのカウントダウンが始まって。

 

 残り一分


 もう、この年ともおさらばか。

 

 あぁ、楽しかったなぁ。あんなに燃えていた自分ももう、一年前なんだ。

 そう思うと、この一年は長かったのか、短かったのか。

 

 悔いも、未練もたっぷりあるけど、やっぱり無情に時は進む。


 残り30秒


 はい、おねーちゃんも食べる? いつの間にかスマホを置いてテレビを見つめていた妹がくれたそのみかんは、ちょっぴり甘くて。


 テレビの中で有名人たちが、そしてきっとその奥にいるたくさんの人が、この年を締めるカウントダウンを始める。

 

 さぁ、新しい年に、会いに行こう。


 

 5

 

 4

 

 3


 

 2



 

 1


 

「あけましておめでとー!」


 ちょっぴり嬉しそうに妹は笑って。やっぱりその暖かさが私には心地よくて。

 

「ん、おめでと」


 よし、決めた。

 

 リビングルームから見える白い壁紙を通して誰も知らない闇を見る。鐘を撞いた帰り道に見た、澄んだ星空へ願いを載せて。

 

 神様、とりあえずはみんなの幸せを。この暖かさが途切れることのありませんように。

 

 今年の抱負は「家族みんな、幸せに」


 一家安泰、どうかよい年が訪れますように。

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