春を抱く
@kazenotaninonaushika
春を抱く
夢を見ていた。春の夢。それは私だけじゃなくてみんないて、お父さんもお母さんも妹も。みんなでお花見をやってたんだ。春の空気があったかくてガヤガヤした音が心地よく私の耳に響いていた。冷え切った白い波が私の肺に届き、ようやく目が覚める。ぼやけた視界を目でこすり、小さくあくびをする。もうなんにも映し出さなくなったテレビの液晶が読書しながら夢の世界に埋葬されていた私を反射している。私は朝のルーティンをこなすべく洗面台にいき、顔を洗うことにした。洗面所は私がさっきまで眠っていたこたつの、ちょうど後ろ側に位置している。一階のリビングを出て突き当りの部屋に入る。顔の洗顔という、誰にも見られないにも関わらず、ルーティンと化したこの行動は止められそうにない。とうの昔に廃園となり、役目を終えたにもかかわらず、未だに佇むピエロの置物みたいだね。
そんな腐りきった思考をしながら私の足は今日も冷え切った二階へと向かう。リビングと洗面所にはさまれた廊下の左側に位置している階段を足にかける。上り終えたら、窓を覗くのだ。外はいつものように、朝にもかかわらず、ぼんやりとした、白と青が薄汚く、混じりあったような色をしていて今日も太陽は顔を覗かせる気はないらしく、ただ灰色の曇天が簾代わりになっていた。ただただ白く、もやとも霧とも判別つかないようなものと積もった雪があるだけで、建物の姿も以前はまだ薄っすらと見られてはいたが、今となってはもうまったく、見えなくなっていた。
思わず体に鳥肌がはしる。私は少しの違和感を抱き、しばし考える。すると、何の暖房もついていない二階に何も着込むことを必要しない一階の軽装備で、のこのこと登ってしまったことに気が付いた。おかげで目も完全に覚めてしまった。すぐさま一階のリビングに戻り、こたつに腰を下ろした。こたつは私のチューペットくらいに冷たくなった手足を暖かく迎えてくれる。ふと私はテレビの後ろ側にあるカーテンの隙間に目を落とした。外界は相も変わらず、永年の冬を垂れ流している。世界が凍ってから一年、もうすっかりこの生活に慣れきってしまったことを肌に染みて感じる。
一年前、世界が凍りつくちょっとまえのこと。地球全体を覆いこむようなパニックの元凶が降り注いできた。人類が誕生してからおそらく二度目の観測であろう、氷河期の再来だった。全人類、いや全生命体が目を丸くしただろうね。そこからはもう大変で大変で、気温の急速低下、食料の買い占め、消耗品の強奪なんていう犯罪じみた行動も横行していたよ。でも一番存在として大きかったのは病気の蔓延かな。たしか「凍結病」なんて言って、外部に発生した一部の悪性の冷気に蝕まれることで人の体が徐々に凍っていくんだ。悪性の冷気なんていえど通常の冷気と何が違うのか、なんてそんな違いが明確になるには時間が足りなかった。その上不規則に多発するブリザードなんてのもあって大勢の人類が亡くなった。わずか一週間程度の出来事だった。もちろん、その犠牲者の中には私の家族も含まれている。というよりは私以外ほとんどの人類が破滅を迎えたといってもいいだろうね。最終的にどうして私だけが残されたのか。何度考えても答えは見つからないようだった。一応、私の中の結論としてはその特質的な問題だと落ち着いてはいるけど。結局のところは分からない。何はともあれ、そうして一人残された私は家族が事前に貯蓄してくれていた食料を浪費して家に引きこもらざるをおえなくなっているの。テレビは人がいないから放送されるわけもなく、インターネットもつながらなくなっちゃったから、それでひまでひまで読書でもして退屈を紛らわさせていた。私一人になってから毎日、毎日二階から見える景色を眺めてはいつもとは違う色になっているんじゃないかって、わずかに願いながら次の季節が到来するのをゴミみたいな生活と共に待っていた。
ところが、私の読書ライフも終わりを迎えたようで、眠りを共にした本は昨夜のうちに読み終えてしまっていた。また次の本を探しに行こうとするが、あることに気づく。どうやら私は部屋の本棚をすっからかんにしてしまった。いや、私の部屋だけじゃない、一階に置いてある全部の本だ。気付けば私はたいそうな読書家になっていたらしい。一年というのはそういう時間らしい。まだ見ぬ本を読もうと私は重い腰を持ち上げた。二階がいいな。少し冷えるけど、二階には父の書斎があったはずだ。そうと考えると次の行動は決まり、ひとまず玄関先に移動し、明らかに私用ではない、父か母が着ていたであろう紺色のコートをクローゼットから引きずりだし、それを羽織って私は二階の書斎へと向かった。二階へあがるとコートのおかげかいつもよりかは寒く感じずに済んだ。二階の電灯のスイッチを入れ、冷たい色のした光が足元に降り注ぐ。
そこで私は新たな事実に気付く。いつもは灯りをつけず、窓の景色だけを見に来ているためであろうか、通らなければならない二階の廊下が少し汚れているのが目に留まる。埃が積もり、小汚い。一階は最低限の掃除はしているつもりではあるが、生活区域外の二階にはまったく手をつけていない。私は少しためらいながらも奥にある父の書斎へ向かうべく廊下へと足を踏み込んだ。あまりしっかりと向き合ったことのない二階という空間は少しばかり不気味で、下腹部に冷気が集まっているせいもあってか、あまり良い心地はしなかった。一歩一歩足を踏み入れる。左側の壁に位置する書斎の扉をめがけて。その後足は書斎の木製の扉の前で立ち止まり、手は鉄製のギラギラとしたドアノブを握り、私は前へ進んだ。書斎の中はこぢんまりとしていて、机と椅子と本棚だけで構成されていた。書斎も廊下と同様に少し汚れてようだった。しかし、亡くなる直前まで手入れされていたためか、本棚だけは綺麗に整頓されていた様子がうかがえる。父は一人の読書家だったらしい。私は何十も並べられてある本のタイトルを一つ一つひっきりなしに眺めていった。SHINING、雪国、クリスマスキャロルetc....。ジャンルは主に小説だけで国内外問わずいろいろな作品が置いてあるようだった。私はその中でもタイトルのない、赤いカバーの本が目に付いた。どうやら本ではないらしく引き出してみると表紙には「ALBUM」と白色の文字で書かれている。意外と厚い。
私はその我が家の歴史を語る雄弁な歴史書の表紙をめくった。最初のページにはまだ若々しい、生きている両親と一人の赤ん坊が写真の中に映っていた。きっとこの子は生まれて間もない私だろう。ちょうど出産したばかりのようで母は疲れ切っていたようだったがどこか安心しているような、その赤らめた頬で優しい顔をつくり、赤ん坊の私を抱きかかえている。父の顔を見てみると目の周りが赤らんでいる。泣いていたのだろうか。それでも父の口角は上がっていた。最後に赤ん坊の私を見る。活力で満ち足りている小さな赤子は部屋全体に響き渡るであろう、生命力にあふれた産声をあげているようだった。その力強さから私はその子が私でないような気がしてならなかった。その写真は私の心になにか熱く、苦々しいものを差し出しているようで、それでも不思議と不快感はなかった。いや、むしろその感覚が懐かしく、心地よい気さえした。ページをめくる。他には私が初めて立った写真、家族でご飯を食べている写真。ページをめくる。母と積み木で遊んでいる写真、妹ができた時の写真。ページをめくる。私と妹が一緒に寝ている写真。他にも色々な写真があった。その中でも一枚の写真が目に付く。それは夢にみたお花見の写真。家族みんなででお花見をしている写真だ。父、母、妹、私がいて、写真の中に映る、そのあどけない、ふわふわとした綿毛のような二人の姉妹は母の膝まくらの上で遊び疲れたその幼い肉体を休ませていた。母は「しょうがないなぁ」といったふうな顔をして、カメラに向かって笑っている。父はその光景をみて穏やかな表情をカメラに見せていた。私は忽然、この一つの小さい春がたまらなく愛おしくなり、思わず抱きしめてしまった。目元が熱くなり、呼吸が荒くなる。家族のことは忘れてしまっていたわけではない。ずっと昔に感情に封をしたんだ。昔の私が無意識に、これから辛くならないようにって。こんなにも感情が激昂するのはいつぶりだろうか。きづけば私の感情まで凍ってしまったようだった。頬に流れたその涙はとどまることを知らず、それはとても温かかった。膝をつき、頽れた私は、もういないその人の部屋にただ一人立つ自分の姿を認め、そんな不器用にも心の奥深くに封をした女をただ憐れむことしかできなくなっていた。ただ悲しさが私を包む。みんなはもう凍ってしまった。もうどうしようもないんだ。あの頃は回帰しない。二度と戻らない。その涙が私の頬で乾燥するまで、私は呆然とさせられた。それでも抱いたアルバムはどこか暖かく、いつの日か家族で過ごしたあの日を彷彿とさせてくれるようだった。私はその心地よさに身を委ね、眠りについてしまった。起きたのはその数時間後だったようで、時計の短針は17時を指していた。私は冷え込んだ体に再度熱を吹き込もうと試み、父の部屋を後にし、一階のリビングまで戻ることにした。アルバムを抱え、廊下を渡り、階段を降りる。階段のきしむ音だけが静寂の中に響きわたる。その音はこの家の居住者が私一人であることを何度も証明してくるようで、耳を貸さないわけにはいかなかった。扉を開け、リビングのこたつへと体が動く。まもなく体はその熱空間へと入室し、私はアルバムを机の上に置いた。熱を帯びた絨毛が私の全身くまなく冷えついた肉体を癒しながら、私はあることを考えた。その考え自体はいつの日か私の中の根底に住み着いていて、ようやくそいつが重い腰を上げる時になったのだろうと私は悟る。いわゆる年貢の納め時というやつだろう。おそらく、きっかけになったのが私の眼前にある、このアルバム。いずれ、全てが終わるその日が来るのなら、できるだけ好きなようにして終わりにしたいと考えていたところだ。目的地を決めると、私は今までの精算作業に移ることにした。まずは机に散らかっている読み捨てた本どもを片付けることにした。おそらく数十冊はあるであろうその書物をリビング、私の部屋、母の部屋へと順々に戻していった。こうしてみると色々な本を目にしたものだ。今こうして振り返ってみるとそれはただの現実逃避だったようにも思えるし、ただ単に時間をつぶすための道具だったようにも思える。とはいえ、私の空虚な一年間を共に過ごしたのはこの子らでもあるわけなのである。そのため、私はこれらの本らに最低限の礼儀をもって各々が入っていた本棚に沈めた。本のなくなったリビングはすっかり見違えたようで本来もっていたスペースを十二分に発揮している。通路ってこんなに通りやすかったんだ…。一通り一階の掃除を終えたら、次に本題である二階を掃除することにした。掃除機と雑巾をもって二階への階段をのぼっていく。バランスが崩れ、転落しまわないように一歩一歩踏み込んで登る。上った先にあったのは埃で構成された砂浜だった。先程まで歩いていたとは思えないほど汚い。あまり気が進まなかったわけだが、いやいや作業を始める。まあまあ時間はかかったわけだが、終わってみると一種の達成感に包まれる。きれいになった廊下を見ると、なかなか悪くない心地がした。もちろん、父の部屋も掃除をした。廊下よりかは楽に済ますことができた。私は我が家の掃除を一人で終わらすと、次の準備を始めた。厚着をするべく、家中にある防寒具をかき集めた。サイズやらなにやらで着ることのできない父や母の衣類の装着は諦めたために、結局、一年前まで常用していた私の冬着に落ち着いてしまった。まあこれで構わない。下手に大きめな衣服をまとって動きにくくなるくらいなら、身の丈に合った服を着ていたほうがいいってことかな。私は揃った防寒着を並べる。コート、帽子、セーター、手袋、マフラーは…たしか玄関口にあったはずだ。出発するときに身につければいい。これで準備は整ったのだ。あとは食事をとり、十分な睡眠をとればいい。その後の私は食事を済ませ、眠りについた。目覚めた午前6時は清々しいともどんよりしたとも言い難い複雑な心境にあった。今日もいつもみたいに顔を洗って、二階にのぼり、天気を確認する。窓に映る景色には当然太陽は出ておらず、雪がコツコツと降るだけであった。一階のリビングに戻り、昨日用意した防寒着を備える。その後はリビングの電灯を消して、こたつのスイッチもオフにした。電灯の灯りがなければこんなにも暗かったのかと実感する。玄関先に向かう。ふと玄関に通ずる出口の前で辺りを見渡す。こたつの上にはアルバムがあった。私は扉から出る前に置いてある小さな春をそっとなでる。そして私は扉を出た。これでもう振り返ることなどないよう、私は祈る。玄関口の脇にかけてあるマフラーを手にとり、首に巻きつける。そして扉の前でブーツを履く。ちょっと履きづらかったのは私が成長したためであろうか。思えば最後に履いたのはずっと昔なのだ。ならば仕方あるまい。そんなことを考えつつ前を見やる。私の視線の先には扉がある。一年前までは普通に開けていた扉だ。それがどうしてだろうか、こんなにも怖いだなんて。私の頭は直前になるまで理解していなかったようだ。このまま引き返してしまおうか。きっとそれは楽なんだろうな。外は寒くても中は多少あったかくて、本を読みながら、食料が尽きるのを待って、いずれゆったりとした終わりを迎える。そんな生活は心の奥底に秘めた虚しさを埋めてくれて、辛い現実から逃げさせてくれる。楽しい記憶も、つらい記憶も薄れて、自分が楽しむべき今をずっと追及できるのかもしれない。でも私はそうじゃない道を選ぶことにした。確かに、何にきづくことなく終われるのは酷く無機質で満足しえたるものなんだろう。それでもきっと向かい合った先には何かがあると信じたい。まあ結局愚者の終わり方には意味なんてないのかもしれないが。私は重い腰を持ち上げる。そうして右の手は冷たい銀色のドアノブへと向かう。鍵を開け、そっと掴む。ドアノブは冷たく、笑われているような気さえした。それでもかまわない。なかばやけくそ気味にドアを押す。隙間から人をも殺す冷気が開け放たれる。この十数cmの隙間からでも感じられる、ふざけた寒さだ。隙間から溢れ、降りしきる雪のせいで私の衣服に付着し、家の中にまで浸食していく。強い勢いで吹いているというわけではなかったが、それでも、扉からの脱出を困難にさせているという点において十分過ぎた。生物が生きていけるような環境ではないことはたしかだ。そして問題なのは冷気だけではなかった。玄関前に積雪がある影響からかドアは酷く開けづらかった。なんとかして大型犬が無理して通れるくらいの数十cm程度のスペースを確保し、私はその小さく狭い門を通ることに成功した。外の世界は、厚さ80cmはあるであろう雪に覆われていて、一年前までの私がいつものように通っていた道とは思えず、そこにはペンギンが群れをなして生息しているのではないかと疑わせるくらいの、なんにもない白銀が広がるだけだった。冷え込む冷気は私の全身を包み込み、私の膝まで直接出迎えてくれた雪が鬱陶しくてたまらなかった。息を吸おうとすると、私の肺を凍てつくような痛みが襲い、呼吸をするたびにその痛みが重なるようだった。その世界は全くといっていいほど、人間に適しているとは言い難く、この星で最も発展した生命体ですら適応を拒否される。残念ながら我々、人類の白旗を私は仰ぐことしかできなかった。しかし、私はその世界に絶望と諦念を抱くと同時に一つの美を見出していた。その美は私を地球が今までこんなにも荒んでいたのかと思わせさえした。その世界は私という観測者というほかになんの音も姿も存在しえないといった風体をしてくるのである。そのさまが実に憎たらしく、愛らしく、それでもそいつは永遠に輝き続けるのだろうと思わせるほどの何かをもっていた。私はそこで、最初で最後の美の頂点に立っていた。そんないろいろなものが私の中で入り乱れ、少しばかりその世界に呆然していたところ、両の手が手袋をしているにもかかわらず、キン、と冷たさで張りつめているのを感じた。正確には手だけではない、足も顔も腰も全身に冷気が立ち込めている。その寒冷は人類の防寒などこの程度のものだと嘲るようであったが、実際その通りで私の装備は多少なりとも役に立っているような感覚はしなかった。このまま立ち尽くしていては外に出た意味がない。私は歩み始めた。私はこの絶対的な生物学的な終わりを前にしてもいかなければならない気がしたのだ。冬の向こうへ。それは私に残された幸福であり大儀なのだ。雪の大地を、前に進めば進むほど進みづらくなっていく。単純な雪の深さによる進みづらさだけでなくって直に触れる冷たさは私の衣服を貫通し、浸食を始めるのだ。それは冷たいというよりかはむしろ痛みさえ感じるようだった。私の肌を薄くスライスして一枚一枚取り立てているようで、これは未だ十数年しか生きていない私の生涯の中で最も痛みを伴っていた。ジンジンと鳴り叫ぶその痛覚をなんとか堪え、前に進む。しかし、一歩踏み出せば、それに呼応するかのように足が痛む。おかげで呼吸が荒くなった。そのせいで肺は凍てつく速度を加速する。思わずむせてしまった。死ぬ。あそこにたどり着く前に死んでしまう。それではダメなんだ。あの木の下で。みんなと。ああ、でも今になって恐ろしくなってきた。辛い。辛いな。そうか。死ぬのか、私は。これが死か。今、目の前に広がる、これが死か。意識が朦朧としてきて、自分が正しく前に進めているのか怪しくなる。降雪はその勢いが衰えることを知らず、いつの間にか私の頭からは帽子が取れていて、額に降りしきる雪が殴打する。その吹き乱れる寒風のせいで声にならない声が出る。足が足でなくなってきているような気がしてならない。手も感覚が麻痺してきて、痛みで腫れあがっているような気がしてならない。そんな絶望的な状況の中、この状況を打破する手立てを考えるわけでもなく、ただ家族のことを考えていた。母は優しい人だった。いつだって私のことを考えてくれた。ある冬の日に駅のホームで、寒さに悶える私のために身に着けていた赤いチェック柄のマフラーを私の首に巻き付けてくれたことを覚えています。あなたはいつだって私たち、子供たちのことを思って、動いてくれたことには感謝しかありません。あなたの暖炉みたいな、優しく包み込んでくれる雰囲気が大好きでした。妹は、私より5つばかり離れたその子は常に元気と実直さにあふれていて、良くも悪くも私とは違った素直な子で、その子に部屋から引っ張り出されては未だ目にしたことのなかった町の景色を見つけられることが、その場では鬱陶しいような態度をついてはいたものの、実際は心の中で次は何を見せてくれるのかな、なんて密かに楽しみにしていた。思えば、妹とはいろんな時間を共にしたものだ。幼いころは一緒にお風呂に入ったり、一緒に布団の中で眠ったりもしたな。そして、これからも一緒にショッピングだったりお茶をしにいったり、する予定だった。一緒にお茶をするのならどこが良かったかな、パフェとかドーナツとか。あ、そういえば、あの子はプリンが好きだったな。一緒にお店を回れたら良かったんだけど。最後に父は、いつも仕事に追われていて、会って話したりする時間は少なかったんだけど、家族イベントには積極的でたまの休日には遊園地とかピクニックに連れ出してくれたな。それが子供だった私と妹にはすごく大きなイベントのように感じられて、二人して、次のイベントをいつかいつかと待ち望んでいたよ。今ではその待ち望んでいた時間ですら愛おしく思える。最後のイベントはいつ頃だったかな。こんなおもいをするくらいなら、もっとみんなで行きたかったな。現実は無情にも淡々と終わっていく。呼吸があさく、うすくなっていく。朦朧としながらも目にうつるのは残酷でありながらも、うつくしく、白銀にそまったせかいだった。もうからだはひえきって、うごきそうにない。あたまがゆきのなかにうもっていく。ごめんね。ほんとはこんなつもりじゃなくて。もうなにもみえない。きっとわたしはゆめをみるだろうな。きっと。
春を抱く @kazenotaninonaushika
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます