願い

執行 太樹

 




 年末、大晦日。

 この日は、どこかもの寂しい感じがする。夕方の街を歩けば、大掃除や買い物でせわしない人々を見かける。私は、毎年通っている地元の神社に向かっていた。

 神社へと続く道を歩いていると、前から親戚のおじいさんに出会った。手には、ビニール袋をさげていた。蕎麦と青ねぎが入っているのが見えた。

 こんにちは。私は、おじいさんに声をかけた。おじいさんは私に気づくと、笑顔で手を振った。

 今年も平穏に暮らせたことのお礼を、神様にしてきた。孫が今年受験だから、それもついでにお祈りしてきた。おじいさんは、照れながらそう言った。

 良いお年を。私は、おじいさんと別れた。おじいさんの後ろ姿を見送った後、神社の境内に入った。

 境内は、お参りに来た人がまばらだった。家族連れや若いカップル、学生の友達同士など、様々だった。

 私は、まっすぐ本殿へ向かった。お賽銭をし、私は目をつむって、そして手を合わせた。遠くの方で、小さい子どもの笑っている声が聞こえた。

 私は、ゆっくり目を開けた。振り返り、境内を歩いていると、1人の小さい子どもが、こちらを見つめていた。その子に手を振って、私は神社を後にした。

 商店街を歩いた。夕日に染まる商店街は、活気に溢れていた。すれ違う人々が、今年もありがとう、良いお年を、とそれぞれ年末の挨拶を交わしていた。そこには、見慣れた人々の顔があった。毎年、大晦日に見かける光景だった。私は商店の前の屋台で、たい焼きを1つ買った。

 近くの公園に向かった。私は、広場にあるベンチに腰を下ろした。このベンチは、あの頃のままだった。広場では、子どもたちがかけっこをして遊んでいた。さっき買ったたい焼きを一口食べた。ほんのり甘く、温かかった。


 この世の全ての人々にとって、来年も良い年になりますように・・・・・・。


 私は、街並みに暮れてゆく綺麗な夕日を眺めて、心からそう願った。





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願い 執行 太樹 @shigyo-taiki

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