鱗曇に引き寄せられ―ダブっても恥じゃない―
釣ール
{英作エレジー}
ダブっちまった。
周りは皆、新しい人生を
留年は二回目。
二回目の高校三年生。
英作は何か問題を起こした訳では無い。
「コホッ!」
クラスには見せないように手を隠す。
また血が出てしまった。
だから
嫌われてはいない。
しかし
〇四年生まれの後輩達も今や高校三年生。
その代の有名人もとっくに声変わりして身体も精神も成長し、それぞれ進路を決めている。
しかし、これから先どうなるのか分からない恐怖が脳内を支配する。
なじむ必要のない新たなクラスで、
「はじめまして。」
名前の知らない誰かが
「こちらこそはじめまして。まあ、俺はダブってるから知っている人いないけど」
「そうなんだ。先輩……なのかもしれないけどタメ口ではダメですか?」
なぜなら
だから
「俺の自己紹介がまだだったな。
「なんかかたいですね。別に俺は大丈夫!」
なんてことの無い会話。
でも
━━帰り道
しかし二十歳とはどういう生き方が
そこで
「
「それは知らなかった。けど、俺の一個下だろう?」
「年齢は分からない…いや、詳細が不明なんだ。留年した理由はともかく、その人がどんな性別なのかとかすらね」
SFか?性別はいくらでも嘘をつけるとはいえ年齢も不明。
一瞬
「その人、ウチの部活の先輩……なんだけど俺が一年生の時からいた。そう言えば何年生なんだろう?」
今でこそ英作は
部活の事を聞いたら、
「認知されていない世界を引き寄せる科学。」
の研究だ。
大学で行うようなテーマだがこの高校は大学付属。
通信制でも良かったがもし、そこで甘えたら二留では済まなかったかもしれない。
二留するほど体調が悪化するとも思わなかったが。
ただの大学附属高校ではないそんな場所だからか
それなら
「
「おいおい。高校三年生にもなってまだまだウキウキなんて羨ましいな」
「いいじゃん。俺は俺なんだし!」
謎の説得力に引っ張られてAOC部へと勧誘された。
Ally Of Culture.
アーリーオブカルチャー。
略してAOC部。
部室には
春先で活動は盛んではないのだろうか?
ありがたいが……
ブォン。
謎の音が部室を揺らす。
ヒタヒタヒタ……
部屋の電気が消えて、変わった装置の青い光だけが照らされる。
なんだ?
学校の怪談でもはじまるのか?
「
そう行って真っ先にドアに手をかけると閉まっていた。
セキュリティキーを正確に押しても開かない。
ヒタヒタヒタ……
影が
数分後、腕でガードしていた
そこには傷だらけの制服に身を包んだ男子生徒がいた。
「悪いな。部員がいたとは知らなかった。」
見た目の年齢は確かに高校三年生とは思えなかった。
性別は男……なのか?この高校では制服に男女指定はないから第一印象で判断するしかないのだが。
「あ、あなたか。居たんですね」
なるほど。
この人が詳細不明の留年生。
[
さっき起こった怪現象は何だったのかを後から誰かへ報告されないように
「最近みょうな世界が現れてな。私は迎撃を止めていた。」
「ところで、あんた年齢は? 俺も二回留年してるから事情を知りたくて」
詳細不明と言われたその人は自己紹介を始めた。
「
こりゃあ仲良くなるのはむずかしそうだ。
すると
「
「
しゃべり方もよく分からない人。
何か危ない事に巻き込まれないように逃げようと
すると装置が動き出した。
あらら。
逃げ場がないことをさとる
[
『いくら国内で有数の場だからと言ったって、学費はどうする?』
『あまり大きな声を出さないで。
『何だか兄貴を見ても幸せそうじゃないんだよな。頭良くて、才能があったって
『なんてことを言うんだ! だが……俺達は
『姉ちゃんも自分の人生歩みたかったって言ってたよ。いくら可愛い弟でも限度があるってさ。』
「……だから……俺は……!」
ホラー映画のようにヒタヒタと近付く生き物に
「
「
こういう時に転送した人間がいなかったら……
「まさか君が一番おそく目が覚めるなんてね。」
初めて会ってこのトラブルを生み出した人間がいて安心した。
これで帰れる。
「空間旅行の実験中とはいえ、よく分からない場所に来てしまったな。」
さっきいた生物はいない。
しかしここは自分達の知っている世界なのか?
「
「
好奇心を失ってしまった人間は人間ではないと 何かのドラマで見たことがある。
ただ一つ
多分、帰れる
ヒタヒタヒタッ
またか。
せっかく調子も戻って二度目の高校三年生を
そう。
いくら
ヒタヒタヒタッ
謎の世界に謎の生き物。
無事に帰れる気はしない。
「ガアッ、パァ!」
足音の正体。
黒色に包まれた人間のイメージに近い幽霊。
普通なら恐怖を覚えるが
死ぬしかない!
覚悟を決めていた。
「全く。力が無いか弱い獲物と思われるのは恥ずかしいね」
「あれ?先輩強いんですか?」
「実験を何度も繰り返しているうちに留年してしまってね。単位を失った代償に強くなったのさ!」
ギャァァァグババ!
「
「全く……自分の詳細は隠すくせに人の事は知りたがるんですね」
倒せる相手と分かった
結局、五体満足で精神も良好な人間が求められるのか。
それならいっそ、弱い自分は殺してくれても。
そんな負の感情が
しかし今は二人に助けられている。
自分にも何か手伝えないか考えていると何か人影が飛んできた。
人間?自分達以外に?
言語が通じるか悩んでいると
「三人……か」
見た目は大人しそうな青年。
英作はその青年が自分と同年代だと思った。
「アリャ、ニンゲンダケドユダンデキナイネ。キンキロタチガテモアシモデテナイ」
青年にまとう黒い
流石に二人は青年がただものではないと
「
「今の話で確信が持てた。ここは、
リ、リキヨリ?
厳密には
「本当に単位を
「留年ってのは六年間しか受けつけていない。私達の学校ですらな。って何歳に見えた?」
「言える範囲で伝えよう。私は〇三年生まれだ!」
こんなやり取りを間近でじっくり聞いている青年。
そして
流石にここでサバを読むわけないか。
「ヒトリハシンコクナヤマイガアルヨ? アノニンゲンハシンニュウシャトイウヨリマキコマレタダケダネ。ドウスル?」
「この場に許可なく現れた以上は戦いも
「俺達は何も企んじゃいない! キンキロ? だったか、そいつらが襲いかかってきたんだ」
影が青年に
青年は暗殺者のような形相を崩さない。
すると
「ここが何回目に来たかは部室に帰らないと記録は無いが、私達の世界にキンキロが興味を示したのは初めてだ。もしかして君の差し金? こんなピンポイントな場所にやってきて余裕なのは調べていたからかな?」
そう言われればそうか。
「侵入者をおいそれと許す訳にはいかないからな。それと俺は、」
「今年二十だ」
やはり
だからこそ危ないと手に汗握った。
[空間旅行のツケ]
話せば分かる相手でも、時には拳や剣を交えざるを得ない事がある。
不幸中の幸いと呼べる状況なのか、
しかし確実にあの青年には叶わない。
実態の分からない謎の影が青年に力を貸している。
「悪いが早く終わらせる。俺は戦いが嫌いだ」
「
「
「あの人に何があったかは分からないけれど、少なくともこんな遅くに私達の対処をおいそれとするなんて油断されてるってことだ」
今年十九になる人間かつこの高校の生徒とは思えない一面。
思えば
自分達の世界のことでさえ。
「今すぐに帰るのなら手荒なことはしない。いいな?」
青年はいつの間にか
「男に触れる趣味は無いけどこれも仕事だからね」
「
「俺は
「ありふれた電化製品で俺を倒せると?」
「倒すつもりもないが倒されるほどヤワじゃない!」
「影に触れるな! 一瞬で溶ける。
少しだけスタンガンが
「リスクマネジメントガウマイニンゲンダネ。ドウヤラウゴケルニンゲンモココロエガアルダケデ、キョウイデハナイヨウダヨ」
青年はオーラを抑えて警戒を解く。
同年代特有の
だからこそ素直な弱さを示せば攻撃はしない。
一度グレた友達から聞いた話だったがこんな所で役に立つなんて。
「俺が警戒していただけか。それなら悪い」
いくら時代が時代とは言え、そりゃあ力を持つ歳下からあんな舐めた態度取られたら力で返すよなあと
「
すると
「話を戻しますね。貴方はここから元の世界に俺達を返せますか?」
「イママデカエレタカラユダンシタネ。ドウヤラキンキロノオヤダマヲオコラセタミタイダ」
「そうか」
それもこれも
どうやらこの世界はほぼ自分達と同じ時代設計らしい。
異種族と共存し、力ある同年代が仕切る世界。
そうか。
本来なら二十歳だしそれくらい成長していてもおかしくないのか。
金や才能に執着するしかない現実に戻るくらいなら。
すると青年がさっきとは違う意味で
「表情が
そして青年は自己紹介をした。
「ユキオ。そして一緒にいるのはトンネルの影だ。
あの影は何も言わなかったがどうやら英作の考えている事はお見通しのようだ。
[
昔で言えば地蔵へのお供え。
何かに助けられた時に対する礼。
近年なら親しみやすいライバーへのスーパーチャット。
何か
“キンキロ”は全ての生物の呼気から生まれ、幸福の絶頂にいる生物の呼気ならば都合の良い方向へ導く。
逆なら縁起の悪い方向へ導く。
普段は何かへ攻撃する事は一切ない。
何故なら、生きとし生けるもののさり気ない儀式がキンキロを生かすえさだからだ。
要するに生気が現動力。
そうして強くなったキンキロは“影”になる。
影は強い生物を厳選し、縁を引き寄せ契約する。
影によって強さの選定は異なっており、食物連鎖の頂点とされている生物以外は大事な生気を渡してくれる存在であるため契約候補からは外している。
「それで俺が契約したというわけ。」
すっかり一同はユキオの話に聞き入ってしまった。
「つまりユキオ……なんて呼べばいいんだ?」
「好きな呼び方でいい」
「リュウネンニカイッテナカナカタイヘンダネ。マアジンセイハオモウトオリニイカナイノガツネダシ」
もし攻撃対象と
「ここだから言うけど……
推理していた園崎も具体的な
「俺は生まれた時から肺に重病があってさ。
小学二年生の頃までは手術もまともに受けれずに中々学校にも行けなくて。ランナーになるのが夢だったけどはたから見てるだけでさ。高学年になってから医者にも恵まれて勉強や運動にも精が出せるようになってただ上げられる偏差値は上げてきた。辛かったけど入退院を繰り返してもちゃんと学べて、病弱とか虐められる事も無く色んな道を選べる。つながりはあるけど友達は別々の道にいったし、俺も頑張らないとって思ったら……」
「俺達の世界に飛ばされたのか」
「ソンナリユウガアッタノネ。アソンデリュウネントカデモバカニハシナイツモリダッタケド」
「皮肉はやめろ」
「ハイヨ」
「実験にぼっとうして留年した私と
いくら何でも自分達の世界とユキオの世界は理が違う。
不思議な縁があるのはどの世界でも共通なのかもしれない。
「話してくれてありがとう多古田くん。こんな空気の中、話しにくいけどごめん。取りあえず気を取り直して整理するね。俺達をこの世界に呼んで、ユキオさんに殺させようとした契約者が
「伊達に空間実験の部活に所属している訳じゃないのか」
ユキオは何を考えているか分からないタイプ。
だが、
「ケド、スタンガンモッテルノハオドロキダネ」
「今回はたまたま。学校通う時に昔、俺をいじめてきた連中にからまれていらい手放せなくて」
いつの間にか打ち解けている影だがさり気なく触れられたくない質問をする当たり、人間に対する危機管理能力は大したものだ。
しかし、この縁を呼んだ契約者は誰なのだろうか。
「ユキオは組織で動いているのか?それとも単独か?」
「俺と影は二人で一人。ただ、契約者同士が表に出ないだけで組んではいる。
契約者は仲間じゃない」
「ユキオモタコダトカワラナイカモナ。ケイヤクシテカライッサイノコウユウハタチキッテイル」
初めて会ったというのもあるが少し道が違えば始末されていたのは事実。
でも悪い人間じゃない。
多くは語らない貴重な同い年へ英作は自分自身の境遇と気持ちを重ねる。
「しかし、私の研究からこっちの世界へ攻撃する奴がいるとは。誰とも会ったつもりも無かったけど知らず知らずの内に恨みを買ってたのかもね」
それに
そんな
「来年卒業する俺の身にもなってくださいよ先輩達。そしてここまでの道中を振り返って思いましたが、ユキオさんに仲間じゃなくてキンキロを差し向けた契約者って人間以外なら納得出来る。ただその割にはこうして話している最中も様子を伺っているのが怖いなと思って」
だが何らかの動きがあればユキオが
もしかしてユキオは嘘をついている?
ガアアアアッ!
またあの声。
しかも声だけが聞こえている。
やはりユキオは誰かと組んでいる?
ガアアアアッ!
恐怖をあおる音が響いていく。
しかしユキオは眉ひとつ動かさない。
この怖さもユキオの才能だ。
「誰かと組んでいるとしてもしてないとしても、ユキオさんが俺達を最終的にどうするのかゆだねられちゃっているのがなあ」
すると
ユキオが少しだけ驚いたように
「私も言ったよね? 留年していた理由は実験による訓練。大体この世界と今の状況の仕組みは分かった」
ナイフに突き立てられた影が心霊番組のように黒い
「あ〜あ。ユキオちゃんがいつこいつらを狙うのか楽しみに待っていたのになあ」
ゆるい口調の人間が影から姿を現す。
「意外と情に弱いのか? こんな場だからと言って隙を見せるなんてらしくないな」
ユキオとは対照的な
同年代ではない。
同世代の年上だ。
「孤独だと
ユキオは真っ先に相手に向かっていく。
軟派な青年は黒い鎌状の腕でユキオの攻撃を簡単に受け止める。
「やっぱお前みたいなタイプをあおるのは楽しいな。ここでお前に勝てば残りの連中からもう一つの世界について聞けるしなあ!」
軟派な青年はキンキロを周囲に召喚して
ユキオは交戦した。
このままだと元の世界に帰っても殺されてしまう。
何も出来ない自分が情けなくなった
「ユキオちゃんには俺の名前を教えておこうか。俺はオウテ。よく自己紹介の時に
オウテという契約者は
本当のピンチ。
だが不思議とドン底では無かった。
キンキロというこの世界の生物の特性を上手く活用出来れば……
「オウテ! あんたの相手なら引き受ける」
「ナニイッテンダ! ダマッテタタカイカラニゲロ!」
影の荒い口調も怖くはない。
当然の反応だ。
オウテは舌を出しながらこちらを睨む。
「なんなんだお前は? 俺を楽しませる事が出来る何かがあるのか?」
一同は余りの狂気に固まってしまった。
「こんな状況人生で中々経験出来ないからな。二回ダブって一念発起したら
キンキロ達の動きがこちらへ向かう。
そうだ、こい!
しかしオウテが信じられないスピードで近づいた。
「お前と俺は歳近いな。本来ならどうでもいい情報だが精神的にお互いガキなのは分かるだろ?」
こんな所で怯む訳にはいかない。
「ヒリヒリするんだ。病院通いでろくな青春送れなかった俺みたいな奴にはな!」
「なら、もっと面白くしてやろう……な、何?」
キンキロ達がオウテを
「何? てめえらどういうつもりだ!」
今度はユキオが
「良い演技だ」
キンキロは生気によって移り変わる。
例え作られた狂気による幸福でもキンキロ達にとっては最高のえさ。
そして二回目にユキオに肩を触られた時に渡された物があった。
『別の影が俺に取り付いている。いざとなったらキンキロを利用しろ』
とメモも渡されていた。
オウテは悔しく唸る。
「いくらキンキロでも簡単にこんな生気で満足する訳がねえ! ユキオ〜〜てめえが何か策を!」
ユキオは
「あんたが気に入らないだけだ。同じ契約者として」
まだまだ十八歳。
「何だ!力が
そして
「孤独なのは俺だけだと思い込んでいた。そう思い込むことで自分自身にふたを閉じて強くなったと思いこんでいた。けど
力強くなったユキオの言葉に皆、気を引き
「クソッ! まとわりつくな雑魚ども!」
オウテは
「青春カンドー物か。いいよなあああいう雰囲気。だが続きはあの世でやってこい!」
オウテが首を狩るが如く飛び込んでくる。
「システム・・・・・・リキヨリ」
「俺が渡した」
その力は
二人と一つの影の動きは、興奮するオウテの攻撃を通さない。
だが次の狙いは
「オレェェ?」
変な声で叫ぶ
すると肩に渡された石によって大きな光がオウテを包む。
「な、この力は!? ユキオ……てめ……」
オウテは光の中へ封印されていった。
こうして
エピローグへと続く
[
オウテとの戦いの後にゲートが開いた。
ゲートと呼んだ方がいいのかは分からないがその方が説明はしやすい。
本来ならとっくに開いていたゲート。
キンキロ達の侵入に驚いた
ユキオは俺達を迎えてくれた。
「
「女の子好きなんじゃないの?」
「変な意味じゃない。だけど、久しぶりに学生時代に戻れた気がする」
あの戦いの後にこんなやり取りが出来るのもユキオの強さなんだろう。カッコイイな。
そう思っていたらユキオがゲートに入る俺達へ
「誰にでも出来る事はある。
「って俺だけ苗字呼びですか!? ユキオさ〜〜ん!」
すると夕暮れの部室へと戻った。
夢ではない。
証拠に
そして俺にはメモと石が残されていた。
━━三日後━━━
俺はAOC部の部員になった。
卒業するまでに他の部活は入ることが出来なかったからここが人生初の部活。
他の部員はまだ来ない。
忘れていたけど
ラム君は相変わらず実験に夢中だったが今年こそ単位を取って大学生になる事を目指している。
勉強で遅れた部分は
「全く先輩達は事情に逃げすぎ! 運動も勉強も俺が教えますから一緒に卒業だ!」
〇二年生まれ、〇三年生まれ、〇四年生まれ。
一つの学年にこれだけの濃いメンツが揃う部活や 学校もそうそうない。
ここまでちゃんと勉強しておいてよかった。
別に出来なかった者を
むしろみんな出来ることで……身体一つで生きている事を忘れていた。
ユキオ。
別の世界で戦うユキオを俺達は遠くで応援している。
「じゃ、行きますか!」
鱗曇に引き寄せられ―ダブっても恥じゃない― 釣ール @pixixy1O
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