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声の主は30代前半…20代後半か?自分より少し若い女性が心配そうにこちらの様子を伺っていた。


「やぁ…いや……はは…、大丈夫です。すみません。」


「ジョンおじさんの怒鳴り声がしたものですから…こちらこそすみません、悪い人ではないんですが町の人間以外には厳しくて。」


気の抜けた笑いで取り繕うマイケルへ申し訳無さそうに頭を下げる。顔を上げるタイミングでブロンズのボブヘアを軽くかき上げる女性へ、マイケルはゆるく顔を左右に振って見せた。


「あなたのせいじゃない。こちらの聞き方が悪かったんだろう。きっと、多分…。こちらこそ失礼した。彼は親切かい?」


「いいえ、ジョンおじさんは私の近所に住んでいる人です。見ての通り小さな町ですから…血縁者でなくとも家族みたいなものです。」


「あぁ、なるほど。私はマイケルと言います。スタープラス社という出版社で記者をしているものです。」


気を取り直して女性へ自己紹介をするも、記者と聞いて彼女の瞳がほんの僅かに歪む。

警戒されている。

突然押しかけることも多い仕事柄、このような反応はよくあることだ。入れ替わり立ち替わり同じような質問をされ続け、ジョンおじさんみたくマグマの噴火のごとく怒る人間も中にはいる。

もっとも、彼の場合は過剰とも言える反応だったが…


「怪しい人間じゃないのでどうか警戒しないで。私の自宅へこの切り抜き記事が送られて来たんだ。」


雲行きの怪しさを打ち消そうとマイケルは切り抜きを女性へ差し出す。警戒しないでと乞うマイケルになんだか心を見透かされた気分の女性は戸惑いつつも、覗きこむように記事へ向き合い始める。


「時期は不明だがスミスという記者がこの町を訪れて禁忌について調べているはずだ。そしてこの切り抜きを自分へ託した…でも私はスミスという人間も知らない。そもそもこの切り抜きがどこの出版社から発行されたかも不明。だから来たんです、この町に。」


邪魔にならないよう、出来るだけ短く、落ち着いたトーンで説明する。彼女が記事をある程度読み終わるまでしばらくの間、マイケルは無言で待った。


「事情は分かりました。町の禁忌について知りたいと仰る記者の方がごく稀に訪れるのですが、からかうというか…馬鹿にしているというか、そんな人が多くて。」


重苦しい空気を破った女性の声には、どこか申し訳なさが含まれていた。目が合い、先ほどまでの警戒心が消えていることに気付く。


「記者の中には失礼な人間も多い。事実をありのまま伝えず、売り上げのため誇張して書く人間もだ。あなたの口ぶりやさっきのおじさんの反応からしても、多分そういう奴がこれまで多かったんだろうと何となく感じていたよ。」


口元にほんのり笑みを浮かべ、これまで嫌な思いをしてきたであろう女性へ理解を示しつつも、マイケルは胸の内で萎んでいた期待感が再び膨らんでいくのを感じた。


(やはりこの町には何かある)


禁忌というワードに飛び付かない記者はいない。もちろん自分だって例に漏れずそうなのだから。


「禁忌といいますか…町が大切にしている場所はあります。良かったら見ていかれますか?今日がちょうど水の祈りの日でみんなそこへ集まっているので。」


「ええ、ぜひ。部外者の自分が行って迷惑にならないのなら。」


マイケルに誘いを断る理由はなかった。二つ返事で伝えると女性はふふっとはにかみ「大丈夫ですよ。」と返してくれた。


この町に来て初めて穏やかな心地になる。

彼女が纏う優しげなオーラのせいでもあるだろう。自然と頬がゆるみ、にこりと女性へ笑って見せる。


「こんな見てくれだが記者として真っ当な仕事をして飯を食ってきた。決して君たちの文化や大切にしていることを軽んじることはしない。誓うよ。改めまして、マイケルです。よろしく。」


言いながら手を軽く広げる。腕まくりをしたブルーのミリタリーシャツとカーキ色のパンツはマイケルのトレードマークだが、どちらも少しくたびれている。


髪は少しウェーブがかったショートカット。額が見えるセンター分けのおかげで多少の清潔感を演出できているのがせめてもの救いかもしれない。

マイケルのワイルドさを引き立てる無造作ヘアといえば聞こえは良いが、実際には手ぐしで適当に整えた程度だ。


「あなたの目を見れば分かるわ。そんなことしないって……。エリーよ、よろしくマイケル。」


無害であることを示すような仕草で話すマイケルにエリーは笑みを浮かべたまま片手を差し出し、2人は握手を交わす。


「フォールズタウンへようこそ。さあ、行きましょう。」


手を放し、エリーの案内の元町の奥へ歩き始めた。

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マイケル 宝ゆい @kokoyuui

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