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古びた町並みのフォールズタウン。言葉を選ばないのなら廃れている。
町の雰囲気はほのぼのというよりかはどこか陰鬱で、たとえば今日が晴天であったとしても古い家々が時の流れを拒絶しているような印象は拭えないだろう。
肩を寄せ合うように建てられた家の外壁は経年劣化を感じさせるし、石畳の道はところどころひび割れている。
せめてもの救いは赤瓦で統一された屋根たちだ。すす汚れたり色あせたりしてもなお、フォールズタウンの物々しい印象を少し和らげてくれる。
あまり良い印象を抱かないのは、昼間だというのに窓のカーテンがぴったり閉じられた家が多いためだろう。
カーテンが開いている家も少しはあるが、どの家も中途半端な開けられているだけだ。町全体があまりにもシンと静まり返っているせいか、妙な緊張感を覚える。
まるでカーテンのすき間から住人が品定めのように自分を見ているような気持ちにさせるのだ。
実際のところは、足を止めて窓を見上げても視線の先には誰もいない。結局のところ、視線は気のせいだと自分に言い聞かせた。
胸が高鳴る。期待とほんの少しの恐れが入り混じっている。
気持ちを切り替えるためにフッと短く息を吐き、町の奥へと歩き出したその時。突然、パンパンと強めに肩を叩かれた。
気配もなく起きた出来事に驚きビクリと体を揺らし思わず振り向くと、そこにはゴツゴツとした中年の男が立っていた。
「おいおい、そんなに驚くなよ!こっちがビックリしたじゃないか!」
「え?あ、あぁ、すみません。突然のことで。」
よくよく考えなくともマイケルは自分に何の非もないことに気付いたが、男の体格の良さに見合った声量でワハハと笑われながら言われると思わず反射的に謝ってしまう。
突然の出来事に動揺するマイケルに対して、男はまるで何事もなかったかのように笑みを浮かべながら続ける。
「いやぁ、それにしても久しぶりだなぁ!何年ぶりか分からない…あー…名前はなんだったか…」
「マイケルです。あの実は私、スタープラス社という出版社で記者をしていまして…」
「マイケルだって!?お前そんな名前だったか!?」
マイケルの自己紹介の言葉を塞ぎながら、やけに馴れ馴れしい男は浮かべたニタニタとした笑みを絶やさない。その笑みは虚ろな瞳もあって不気味さを覚えるもので、男の勢いに飲まれっぱなしのマイケルはたじろいだ。
「そんな名前も何も…あ、あの!この記事を見たことありませんか!?スミスという記者が取材のためここを訪れたと思うのですが。」
男に負けじと持参した切り抜きを急いで取り出して男に見せる。興味を示した男は「んぅう?」と唸りながら無精髭を蓄えた下あごを軽く突き出して、マイケルが広げた記事を覗き込む。
「この記事を書いたスミスによればフォールズタウンにはこの町を守護する神様がいて、タブーと呼ばれる行為を避ける限りは町を守り続けてくれる。しかしひとたび禁忌を犯せば町は一晩もたずに滅びるという…」
この記事を読み切るには数分を要するが、男は顔をくしゃくしゃに歪ませて切り抜きとの距離を詰める。老眼なのだろうか。
マイケルが静かなトーンでこの記事に書かれた内容を簡潔に説明すると、男は理解したのか切り抜きからそっと顔を離す。
「この切り抜きが私の元へ送られて来たんです。でもこの記事を掲載した出版社が特定できなかった。スミスという人間も知らない…だからここへ来たんです。」
「ふんっ……目的は理解はした。だがなマイケルとやら。お前が期待するようなものはない。帰りな。」
先ほどまでのニヤけた顔も馴れ馴れしさも影をひそめ、心底嫌そうな顔をしながらマイケルを突き放す。
まるでマイケルが男の怒りを買ったかのような反応だ。
男はまるで興味を失ったかのように2歩、3歩と後退し、その場を去ろうとする。
「ちょっと…待ってください!」
マイケルは慌てて手を伸ばし男の腕を掴んで引き止めようとする。すると立ち止まると同時に思いきり、強く勢いよく振り解かれ、マイケルへ怒りを露わにする。
「だから!お前に!なんの!用も!ない!帰れ!俺は失望してる!お前に!心から!」
いまにも火が出そうなほど顔を真っ赤にしながら怒鳴る。短く区切りながら発する声は静かな町中に響き渡るほどで、ブルブルと怒りに体を震わせながらマイケルの胸ぐらを掴む。
至近距離に迫った男からは殺気とも受け取れる感情が読み取れる。血走った目は怒りに染まり、乾燥しきった唇からは今にも血が滲みそうだ。爆発した感情のまま、フーフーと荒い息が漏れていた。
「この町から!いま!すぐに!出ていけ!出ていけ!…出ていけぇっ!!」
意味が分からなかった。
恐怖なのか動揺なのか、マイケルは声が出なかった。
突き飛ばすように胸ぐらを掴んだ手が離れ、よろける。転びはしなかったものの突然の出来事にマイケルは面食らい、呆然と立ち尽くしたまま大股でズンズンと去っていく男の背中を見送ることしかできなかった。
息を少し吐く。少し喉が震えた。
「禁忌があるって言ってるようなものじゃないか…」
小さな独り言に答えるものはいない。それでも声に出したかったのだ。
今度は長く長く息を吐く。やっぱり喉が震えたが、さっきほどではなかった。
恐らくスミスが送ってきた記事の内容は本物。だとすれば彼も自分と同じように町の人間から毛嫌いされ、追い出されたのかもしれない。
何か事情があって真相を追えなくなったのだろう。あれだけの剣幕で迫られたことを思えば、命に関わる危険があったのかもしれない。
だから真相を自分に託した。でも何故、面識のない自分に?
「はぁ………」
両膝に手をついて前屈みになる。町に到着してまだ一時間も経ってないというのに、ひどく疲れた。
だから、誰かが歩いてくる音がしても反応できず、ようやく体を起こしたときに「大丈夫ですか?」という女性の声が聞こえた。
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