マイケル
宝ゆい
1
マイケルは古びた町の入り口に立っていた。初めて訪れた町だと言うのに天気が薄曇りなせいか、町から歓迎されていないような気持ちにさせられる。
この町は「フォールズタウン」という。
観光名所になりそうな美しい滝の一つや二つありそうな名前をしているが、地図を見る限りそんな場所はありそうにもない。
マイケルは広げた地図を2回3回と折りたたみズボンの尻ポケットへしまうと、今度は背中にのせていたショルダーバッグのベルト部分を引き、バッグを胸元まで移動させてゴソゴソと中身を漁った。
厚みのない小ぶりなバッグから目当ての品を見つけることは簡単で、数秒ほどで探していた二つ折りの紙を取り出す。
雑誌の切り抜きらしきソレには、読者の興味と関心を引くような目立つ書体で「禁忌の町フォールズタウン」と記されている。
記者であるマイケルが列車を乗り継ぎ何日もかけて遥々フォールズタウンにやって来たのは、この記事にどうしようもないほど好奇心をくすぐられたからである。
記者という仕事柄、世界各地を飛び回るマイケルはそれなりに地名に詳しいつもりだったのだが、このフォールズタウンという町の名前すら知らなかった。
地図の端、西の外れにひっそり佇むフォールズタウン。
隣町には過去に仕事で行った記憶がある。隣町といっても辺境の地であるから1000キロメートル近く離れているのだが…
記者仲間や旅好きの友人、マイケルの上司に聞いてもフォールズタウンの名前を知るものは少なかった。知っていたとしても「西の外れにそんな名前の町があったなぁ」程度の認識だった。
インターネットでフォールズタウンと検索しても、ありふれた町並みの写真がヒットするだけ。そしてこの記事を書いた「スミス」という人物。マイケルはこの記者に問いただしたいことがあるのだ。
マイケルがフォールズタウンに向けて出発する10日ほど前。
仕事を終えたマイケルはいつものようにポストへ無造作に突っ込まれたチラシの束をわし掴み、引っ張り出していた。
マンションに住むマイケルのポストにはデリバリーやスーパーの特売情報といったさまざまなチラシが日々たくさん入っている。
家に入りテーブルへチラシの束を置いたつもりが思いのほか端っこだったせいで、パサパサと何枚か床へ落ちていく。
ああ、もう。
声に出さないものの、顔や態度でムッとした気持ちを滲ませながら屈んでチラシを拾う。そこでようやく一通の封筒が紛れていることに気づいた。
真っ白な封筒には送り主の情報などは一切なく、表に「スミスからマイケルへ。心を込めて」とだけ記されている。
たった一行のメッセージ。
マイケルにはスミスという名前の友人も知り合いもいない。
イタズラの可能性もある謎めいた手紙は、マイケルの興味を十分に引く内容で、同封されていたフォールズタウンの記事はマイケルの心を一瞬で捉えた。
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