カースト革命の序章
「おはようございます!」
キラキラとお星さまのように眩い歯を出しながら挨拶をする天方。
同僚や上司は人でも変わったのかと、確認の意味も込めて二度見三度見するが、そこにいるのは疑いようもない天方風馬。あの社内ニートで出来損ないのノロマ。
氷雨も夢幻も林間も、全員目を見開いている。
特に林間は怪訝そうな顔で天方の笑顔を睨むが、天方は気にもとめずに席につく。
ポニーテールの女社員が雑用を押し付けようと書類を持って天方に近づくのだが、天方の満天の笑みにはね返されてしまい、持っていた書類を渡すことなく「すいません……」と小声で去っていった。
書類を抱えた女社員が躓いて転ぶと、書類はパラパラと宙を舞いながらその場に散る。
しかしバラバラになった書類は、不思議な事に一つの点を中心として渦を描きながら重なって女社員の手元に戻ってきた。
女社員は「?」という顔をしていたが、一方、天方はさも当然とドヤ顔で立っていた。
「大丈夫ですか?」
「はい――。でもどうして……」
「魔法ですよ」
「魔法……?」
魔法――そう聞いてすぐに納得出来る人は多くないだろう。
現に、天方以外は誰も納得していないし、聞き間違いだと疑っている人がほとんどだ。
「さぁさぁ! 今日も頑張って働きましょう!」
天方は幹部クラスの重役のように偉そうに手を叩く。
何だ何だと辺りは騒然としており、状況をうまく飲み込めていない。
しかし、その中で林間だけは通常通り平然としたキツイ態度で天方に話しかける。
「天方君。おふざけはそのくらいにして」
「別にふざけてないですよ。普通です普通。……ていうか今までがキモいくらい異常だっただけですよ」
「……キモい?」
腕を組んで話す天方に対して、依然として堂々と見下す林間は目を細めて鋭く天方を睨む。
「キモいのは天方君の方よ。いくら元気ぶったとしても所詮――」
「所詮は社内ニート。とでも言いたげな顔ですね」
天方はゆっくりと人差し指と中指を林間の顎に出す。
林間は右手で素早く天方の手を振り払うが、天方は特に驚いた様子もなく、それどころか何処か余裕で、反抗期を慰めているような顔だ。
「確かに昨日までの自分は底辺社員でした。何をやっても駄目。というかそもそもやろうともしない。こんなクズを今までお世話してくれてありがとうございました――」
「ありがとうございました……?」
「今、この瞬間。自分は社内カースト最下位から――」
天方は払われた左手を右手で丸め込んで、そして両手を空に向かって上げる。
「新世界カーストの王になります!!!!!!」
天方の叫びと共に、両手を中心として、眩い光が部屋を、会社を、神奈川を、関東を、日本を、そして、地球を全て覆い尽くす。
「俺がぁぁ! 新世界のぉぉぉぉ! 最強のぉぉぉぉぉぉ! 生物だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
光は全てを包み込み、しばらくして宇宙に向けて爆発するように発散した。
そして、林間や氷雨が腕を下ろして恐る恐る目を開ける。
彼らの目の前に広がっていたのは紛うことなき天方そのものではあったのだが、唯一違う点が一つ。それは――。
「天方君……、それ……」
「おい、その尻尾は……」
天方の尻から赤褐色の尻尾が四本生えていた。
人々は爆弾を求めている @kikuzirooo
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