【セカイ系SF百合短編小説】リコリスの迷図 ―世界の裂け目で咲く言葉―(約7,400字)

藍埜佑(あいのたすく)

【セカイ系SF百合短編小説】リコリスの迷図 ―世界の裂け目で咲く言葉―(約7,400字)

●プロローグ:世界の終わりの噂


 世界が終わる――そんな噂が流れ始めたのは、春の終わりだった。


 誰が最初に言い出したのかは分からない。でも、それは確かな事実として、私たちの日常に忍び寄っていた。テレビでも新聞でも、専門家たちが口々に「前例のない現象」や「科学では説明のつかない異常」について語っていた。


 けれど、私たち高校生にとって、世界の終わりなんて遠い話だった。それは映画やアニメの中の出来事で、現実なんかじゃない。そう思っていた。


「ねえ、紗彩さあや


 耳元で聞こえた声に、私は教科書から目を上げた。放課後の教室で、斜めに差し込む夕陽が机の上で踊っている。声の主は、私の隣の席の憐華れんか――篠宮しのみや憐華だった。


「また屋上、行かない?」


 憐華は、いつものように柔らかな笑みを浮かべている。その表情には、どこか秘密を抱えているような影が見えた。


「今日も?」


「うん。今日は、ちょっと見せたいものがあるの」


 憐華の言葉には、いつもと違う響きがあった。それは私たちの日常に、小さな亀裂が入るような予感だった。


 私は少し考えてから頷いた。


「分かった。荷物、まとめるね」


 教室の窓から見える空は、どこまでも青く澄んでいた。世界が終わるなんて、誰が信じるだろう? そんな完璧な青空の下で。


 でも、その時の私には分からなかった。あの日の選択が、私たちの世界をどう変えていくことになるのか。


●第1章:青い球体が照らす秘密


 古びた給水塔の陰で、私たちはいつものように腰を下ろしていた。


 屋上の手すりの向こうには、街が広がっている。遠くには新しく建った高層ビル群が立ち並び、その合間を縫うように古い住宅街が続いている。この景色は、去年から変わっていないはずなのに、どこか違って見えた。


「紗彩、これ」


 憐華が差し出したのは、小さな球体だった。透明な青色をした、ガラスのような物体。でも、手に取ってみると、ガラスよりも柔らかな感触がある。


「これ、何?」


「分からない。でも、見て」


 憐華が球体に触れると、中から淡い光が広がった。まるで生き物のように、球体が脈動している。


「すごい……」


 思わず声が漏れる。でも、次の瞬間、私は首を傾げた。


「でも、これって……どうして?」


「三日前に見つけたの。公園の池のそばで」


 憐華は静かに語り始めた。彼女の声には、いつもの落ち着きがあった。けれど、その奥に何か切迫したものが潜んでいるのが分かった。


「最初は普通の飾りかなって思ったんだけど、家に持って帰ってから気づいたの。この球体、時々勝手に光るの。それも、決まった時間じゃなくて……何か特別なことが起きそうな時に」


「特別なこと?」


「うん。例えば……」


 憐華の言葉が途切れた瞬間、校内放送が鳴り響いた。


『緊急放送です。只今、気象庁から注意報が発令されました……』


 突然の放送に驚いて立ち上がろうとした私を、憐華が手首を掴んで引き止めた。


「見てて」


 彼女が持つ球体が、まるで放送に反応するように明るく光を放っている。


『……異常な大気現象の可能性があるため、速やかに校舎内に避難してください』


 放送が終わると同時に、遠くの空が不気味な色に染まり始めた。薄紫色の雲が渦を巻くように集まってきている。


「憐華、早く中に……」


「大丈夫。ここにいれば安全だから」


 憐華の声は、不思議なほど落ち着いていた。


 その時、私の胸元で何かが温かくなる。制服の下に隠れていた銀のペンダント――一週間前に学校の帰り道で見つけた、不思議な形をしたものだった。


 ペンダントが、憐華の持つ球体と呼応するように、かすかな光を放ち始めた。


「あっ……紗彩も、持ってたんだ」


 憐華の目が大きく開かれる。


「これ? ただの……」


 言葉を最後まで紡げないうちに、激しい風が吹き始めた。しかし不思議なことに、その風は私たちのいる場所だけを避けているように見えた。まるで、見えない壁に守られているかのように。


 空の異変は、数分で収まった。それは予報された異常気象というよりも、何か別のものの予兆のように思えた。


「ねえ、紗彩」


 風が完全に止んでから、憐華が静かに話し始めた。


「私ね、この球体が何なのか、うっすらと分かってきた気がする。でも、それを言葉にすると……何かが壊れちゃいそうで」


 憐華の表情には、今まで見たことのない真剣さが浮かんでいた。


「壊れる? 何が?」


「それが……まだ分からない。でも、紗彩のそのペンダントと、私のこの球体。きっと、この二つには何か関係があるの」


 憐華の言葉に、私は無意識のうちにペンダントを握りしめていた。確かに、このペンダントには何か特別なものを感じる。拾った時から、そう思っていた。


「放課後、もう一つ見せたいものがあるの」


 憐華は立ち上がると、私に手を差し伸べた。


「一緒に来てくれる?」


 その問いかけには、何かを決意したような強さが感じられた。


 私は迷わず、その手を取った。


 この時まで、私たちの日常は確かにそこにあった。でも、これから何が起きるのか、誰にも分からない。ただ、憐華の手が確かな温もりを持っているという事実だけが、私の中で輝いていた。


●第2章:歪んだ放課後の科学室で


 夕暮れ時、私たちは人気のない旧校舎に足を踏み入れた。


 三年前に新校舎が建ってから、この建物は倉庫として使われているらしい。埃っぽい空気が漂う廊下を、憐華が先導するように歩いていく。


「この先……」


 二階の古い科学室の前で、憐華が立ち止まった。扉には「立入禁止」の札が掛けられている。


「大丈夫?」


「うん。誰も来ないから」


 憐華は当然のように鍵を取り出すと、音を立てないように慎重にドアを開けた。


 薄暗い室内に足を踏み入れると、かすかに金属の匂いが鼻をつく。黒板はうっすらと埃をかぶり、実験台の上には白いシーツが被せられている。


「こっち」


 憐華は奥の物置のような空間へと進んでいく。そこで彼女が一枚のシーツを取り除くと、その下から奇妙な装置が姿を現した。


「これは……」


 言葉を失う。それは、学校にあるはずのない代物だった。


 錆びついた金属フレームに、透明なガラス管が複雑に絡み合っている。無数の配線が床を這い、どこかへと伸びていく。そして装置の中心には、憐華が持っている青い球体とよく似た、やや大きめの球体が据え付けられていた。


「これが、私が見せたかったもの」


 憐華は装置の前に座り込むと、愛おしそうにガラス管に触れた。


「何のための装置なの?」


「それが……言葉で説明するのは難しいんだ」


 憐華は少し考え込むように黙り込んだ。


「言葉にすると、形が崩れてしまうものってあるでしょ?」


「うん」


「これも、そういうもの。でも、これが必要なの。世界を……私たちの世界を守るために」


 憐華の声には、どこか切なさが混じっていた。


「私たちの世界を守る?」


「そう。だって、気づいてるでしょ? 少しずつ、でも確実に、世界が壊れていくの」


 憐華の言葉に、私は息を呑んだ。確かに、最近は妙な出来事が増えている。今日の異常気象もそうだし、街のあちこちで起きる原因不明の事故も、どこか不自然だった。


「この装置は、そういった歪みを……」


 憐華の言葉が途切れた瞬間、装置が突然明滅し始めた。中心の球体が不規則な光を放ち、ガラス管の中を青い光が走る。


「あ……」


 私の胸元のペンダントも、それに呼応するように温かみを帯びてきた。


「やっぱり」


 憐華が小さくつぶやく。


「紗彩のそのペンダント、ただのアクセサリーじゃないでしょ?」


「うん。私も、そう思ってた」


 拾った時から、何か特別なものを感じていた。だから手放せなかった。それが今、憐華の装置に反応している。


「実は、あのペンダント……」


 憐華が何か重要なことを言いかけた瞬間、激しい振動が建物を襲った。


 窓の外では、さっきよりも濃い紫色の雲が渦を巻いている。今度は、屋上とは比べものにならないほどの規模だった。


「まずい、予想より早い……!」


 憐華が慌てて装置のスイッチを入れる。するとガラス管の中を流れる青い光が強さを増し、空気が振動するような音が響き始めた。


「紗彩、こっち!」


 憐華が私の手を掴む。その手が、小刻みに震えているのが分かった。


「怖がらないで。この装置は、世界を少しだけ巻き戻すだけだから」


「巻き戻す?」


「そう。壊れてしまったものを、元に戻すための装置。……私たちの未来も、ね」


 憐華の瞳には、決意と不安が混じり合っていた。


 その時、装置が大きな音を立てて唸り始めた。中心の球体が眩い光を放ち、その光が部屋中に満ちていく。


 そして――世界が、歪み始めた。


●第3章:溶けだす世界の境界線


 最初に気づいたのは、色彩の変化だった。


 窓から差し込む夕陽が、まるで水彩画の具が滲むように、ゆっくりと空間に溶け出していく。壁も床も天井も、その境界線が曖昧になっていった。


「憐華……これ、大丈夫?」


「うん。予定通り……のはず」


 憐華の声も、どこか遠くから聞こえてくるように感じられた。


 装置は相変わらず唸りを上げ、中心の球体から放たれる光が部屋中を満たしている。私の胸元のペンダントも、その光に呼応するように輝きを増していった。


 そして、現実が溶け出すような感覚。


 それは恐ろしいはずなのに、不思議と心は落ち着いていた。むしろ、今まで見ていた世界の方が不自然だったような気さえしてくる。


「見えてきた?」


 憐華の問いかけに、私は目を凝らした。


 そこには――今まで見えていなかった世界が広がっていた。


 教室の風景の向こう側に、もう一つの風景が重なっている。そこでは、私たちがいつも過ごしている日常が、少しずつ形を変えながら流れていた。


「これが……本当の世界?」


「違う。これは、可能性の痕跡」


 憐華の声が、不思議な響きを帯びて耳に届く。


「私たちが選んでこなかった未来も、どこかには存在してる。その跡が、今見えているの」


 装置から放たれる光の中で、様々な風景が重なり合っていく。教室で笑い合う私たち、図書館で本を読む憐華、校庭で走る生徒たち――でもそのどれもが、少しずつ現実とは異なっている。


「でも、どうして……」


 私の問いかけは、突然の衝撃で遮られた。


 建物全体が大きく揺れ、窓ガラスが軋むような音を立てる。外では、紫色の渦が更に激しさを増していた。


「やっぱり、まだ足りない……!」


 憐華が歯を食いしばるように呟く。


「紗彩、そのペンダントを装置に近づけて!」


 迷う暇もなく、私はペンダントを握りしめたまま装置に手を伸ばした。


 すると、予想もしていなかった光景が目の前に広がった。


 そこには、まだ見ぬ未来が映し出されている。世界の終わりの後に広がる景色。そして、その中で光り輝く何か――私たちの知らない可能性。


「これが、私たちの行き着く先?」


「いいえ」


 憐華が静かに首を振る。


「これは、私たちが作り出す未来。だから……」


 彼女の言葉が途切れた瞬間、装置が急激な光を放った。まるで、私たちの意思に反応するかのように。


 そして世界は、更なる変容を始めた。


●第4章:記憶の中で踊る言葉たち


 気がつくと、私たちは見知らぬ場所に立っていた。


 いや、正確には見知らぬ場所ではない。学校の廊下――でも、どこか違う。壁も床も天井も、すべてが半透明になったように見える。その向こう側には、無数の光の筋が走っている。


「これは……記憶」


 憐華が呟く。その声には、どこか懐かしさが混じっていた。


「私たちの記憶が、この空間に溶け出してるの」


 歩き出すと、足元から波紋が広がる。その波紋が壁を伝わり、様々な光景を呼び起こしていく。


 入学式の日の緊張した表情。図書館で初めて言葉を交わした瞬間。放課後の教室で交わした何気ない会話。屋上での約束。


 すべての記憶が、まるで水の中を漂うように、ゆっくりと流れていく。


「ねえ、紗彩」


 憐華が立ち止まり、私の方を向いた。


「どうして、私たちはこんなに近くにいるのに、大事なことが言えなかったんだろう」


 その問いかけに、私は返答に窮した。確かに、私たちはいつも一緒にいた。でも、本当に大切なことは、いつも言葉にできないまま。


 それは、ただの気恥ずかしさだったのか。それとも――


「言葉にすると、何かが壊れる気がしたから」


 私の答えに、憐華が小さく頷く。


「そう。私もそう思ってた。でも、それが間違いだったの」


 憐華は自分の持つ青い球体を見つめながら続けた。


「言葉にしないことで、私たちは大切なものを見失いそうになってた。この世界の危機も、きっとそれが原因」


「どういうこと?」


「世界は、言葉で紡がれている」


 憐華の声が、不思議な響きを帯びる。


「人々の想いや感情、記憶や約束。すべては言葉という形を得て、初めて確かなものになる。でも最近、人々は大切な言葉を忘れかけている。だから世界は、少しずつ形を失っていってるの」


 その言葉が、深く胸に染み込んでくる。


 確かに、私たちは多くのものを言葉にせずに済ませてきた。便利なメッセージアプリで、絵文字一つで気持ちを表現したつもり。大切な想いも、「分かってくれるはず」で済ませてきた。


 そうやって、本当は言葉にすべきものを、どんどん置き去りにしてきた。


「でも、まだ間に合う」


 憐華が私の手を取る。


「私たちには、それを取り戻す力があるの。この球体と、紗彩のそのペンダント。それに……」


 言葉の続きを待つ間もなく、空間が大きく揺れ動いた。記憶の光景が歪み、まるでガラスが砕けるような音が響く。


「また始まった……!」


 憐華が叫ぶ。


 私たちの周りの空間が、まるで鏡が割れるように、ひび割れていく。その隙間からは、漆黒の闇が覗いていた。


「紗彩、こっち!」


 憐華が私の手を引く。二人で走り出す。


 廊下は際限なく続いているように見えた。でも、後ろからはひび割れが迫ってくる。このまま走り続けても、逃げ切れる保証はない。


「ねえ、憐華!」


 走りながら、私は叫んだ。


「私ね、ずっと言えなかったことがあるの!」


「え?」


「憐華と一緒にいると、世界が違って見える。憐華が隣にいるだけで、私の世界は特別な色を持つの。それが嬉しくて、でも怖くて……だから言えなかった!」


 その言葉を口にした瞬間、私のペンダントが強い光を放った。その光は、まるで言葉に形を与えるように、空間に広がっていく。


「紗彩……」


 憐華の目に、涙が光っていた。


「私も、ずっと言えなかった。紗彩といると、私は本当の私でいられる。それが怖かった。だって、本当の気持ちを言葉にしたら、この関係が変わってしまうんじゃないかって……」


 憐華の球体も、それに呼応するように輝きを増す。


 二つの光が交わったとき、不思議なことが起きた。


 私たちの周りの空間が、ゆっくりと形を変え始めたのだ。ひび割れていた部分が修復され、新しい光景が浮かび上がってくる。


 それは――私たちの知らない未来の風景だった。


●第5章:心が紡ぐ光の言葉


 光に包まれた空間の中で、私たちは立ち尽くしていた。


 周囲には、無数の言葉が光となって漂っている。今まで誰かが紡いできた言葉、これから生まれようとしている言葉。それらが幻想的な光景を作り出していた。


「これが、本当の世界の姿?」


 私の問いかけに、憐華はゆっくりと首を振った。


「違う。これは、言葉が形を作る場所」


 彼女は自分の持つ球体を見つめながら続ける。


「私ね、最近やっと分かってきたの。この球体の本当の意味を」


 憐華の表情には、懐かしさと決意が混ざっていた。


「これは、失われた言葉を集める装置。世界中の誰かが、言葉にできずにいた想いが、ここに集まってくる」


 その説明に、私は息を呑んだ。


 確かに、球体の中では常に何かが渦を巻いていた。それは、まるで誰かの想いのように見える。


「じゃあ、私のペンダントは?」


「それは……」


 憐華が言葉を探すように間を置く。


「言葉を形にする力を持ってるの。だからこそ、二つが一緒になった時、特別な変化が起きる」


 そう言いながら、憐華は球体を私の方へ差し出した。


「試してみる?」


 私は少し躊躇したが、ペンダントを握りしめたまま、おそるおそる手を伸ばす。


 球体とペンダントが触れ合った瞬間、眩い光が走った。その光は、まるで私たちの心の中まで照らすかのように、強く、温かい。


 そして、不思議なことが起きた。


 私の心の中で、今まで言葉にできなかった想いが、自然と形を持ち始めたのだ。


「憐華」


 私は、初めて自分の気持ちを、はっきりと言葉にすることができた。


「あなたは、私の世界の中心なの」


 その言葉は、まるで光のように空間に広がっていく。


「紗彩……」


 憐華の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。


「私も、ずっと言いたかった。紗彩がいるから、私は今の私でいられる。紗彩がいない世界なんて、考えられない」


 二人の言葉が交わるたび、空間に新しい光が生まれる。それは、今まで見たことのない色彩を帯びていた。


 その時、遠くで何かが大きく軋むような音が響いた。


「来たわ」


 憐華が呟く。


「世界の歪みが、限界に近づいてる。このままじゃ、本当に終わってしまう」


「どうすれば?」


「もう、答えは出てる」


 憐華は、私の手をしっかりと握った。


「私たちの言葉で、世界を紡ぎ直すの」


 その瞬間、球体とペンダントが強く反応し、私たちは新しい光景の中へと導かれていった。


●エピローグ:私たちの新しい世界


 世界は終わらなかった。


 でも、確かに何かが変わった。


 あの日から、街には不思議な出来事が増えた。突然の光の雨が降ったかと思えば、誰かの想いが空に文字として浮かび上がることもある。


 けれど、それは恐ろしいことではなかった。


 むしろ、世界は以前よりも鮮やかになった気がする。人々の言葉が、より深い意味を持つようになった。


「ねえ、紗彩」


 いつものように、屋上で憐華と過ごしている。


「この世界は、まだ完璧じゃない」


 彼女は、青い球体を手のひらで転がしながら言う。球体の中では、今も誰かの言葉が光となって踊っている。


「でも、それでいいの」


 私は頷いた。


 完璧な世界なんて、きっとつまらない。大切なのは、少しずつでも、自分たちの言葉で世界を紡いでいくこと。


 私の胸元で、ペンダントが優しく脈動する。それは、まるで世界の鼓動のよう。


「これからもきっと、言えない言葉はたくさんある」


 憐華が続ける。


「でも、もう怖くない。だって……」


「言葉にできなくても、伝えようとする気持ちが大切なんだもんね」


 私が言葉を継ぐと、憐華が柔らかく微笑んだ。


 私たちの周りで、世界は新しい物語を紡ぎ始めている。


(了)

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