退院

真っ白な壁に背を向けた。入院期間に使っていたものを入れるリュックも結局母親が交換に来てくれていたおかげですごく軽かった。それでも少し感じる重みは小さい数冊の文庫本だろう。それでも昨日は本当に寝付けなかった。

「あんなこと知っちゃったらなぁ、」

ぽつりと僕はそう呟く。杠さんが隠していたであろう病気を知ってしまった後悔を今更感じてしまっていた僕もとりあえず今日で入院生活は終わりだ。

「よいっと、」

左のほうの手でリュックを机の上にのせる。そのとき、ちょうど扉を叩く音が鳴った。

コンコン

「入っていいかな?」

「どうぞ!」

優しい男の人の声だった、お医者さんだ。

「調子はどうだい?野村くん」

「元気です、右肩もだいぶ楽になりましたし、」

そう言ってがちがちに固定された右肩をお医者さんに見せた。

「それならよかったけど、まだ感知してるわけでは全然ないので定期的な通院と安静はよろしくお願いしますね。」

そういうと、お医者さんは少しスマホのほうに目を向けたのち僕のほうにまた向き直った。

「お母さんが来てくださってるよ、荷物はそれだけで大丈夫かい?」

「大丈夫です!1週間お世話になりました。」

そう伝え、看護師さんと下に降りていき、そのあと、1回のロビーに手またお礼を言い、車に乗り込んだ。

「大丈夫だった?」

「大丈夫だったよ」

等という親子の会話をしながらふとスマホを取ると、LINEの通知が数件来ていることに通知で気づいた。1件はまさしのもので、また他のものも岡部を含めた中学からの友達のものでもあったのだが、その間くらいに一際気になるLINEがあった。杠さんからのものだった。一旦ほかの人たちに返し終わった後、改めて彼女の画面を開いた。

『今日で退院おめでとう!助けてくれて本当に感謝しています』

なぜかすごく達成感のようなものさえ感じた。お医者さんからの言葉ももちろんあったのだが、何よりこの身で守ったという実感が、後から湧いてくるにつれて、僕はまだガキなんだということを感じつつもっヒーローのような英雄のような気でいられたからだった。

「どうしたの、そんなスマホばっかり気にして。」

そんなことを言いながら後ろの僕を車内ミラーで覗きながら母親はそう言った。

「何でもないよ」

と僕は言ってまた彼女との会話画面に戻った。

『いえいえ、本当に無事でよかったよ、また明日学校でね。』

そう言ってスマホをまたポケットにしまって、僕は家に向かう景色を窓を介して眺めることにした。木々は、もう夏に差し掛かっているよと言わんばかりに緑色をしていて、次のテストのことを考えてしまい、ほんの少しだけ憂鬱になったのだった。

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鱗粉がついた夜 殻斗あや @Aya_wears_a_hat

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