知らないはずの秘密
「知らないんでしょ?本当にいいの?」
「はい...」
ちょっとだけ口がすぼまる。
「でも、彼女に聞いてからのほうがいいんじゃ...」
「それでも!」
僕は病院では出してはいけないくらいの声を出してしまった。それに自分でも動揺してしまう。でも、
「知りたいんです。」
「...彼女の通院履歴を見たんだ。」
お医者さんはそっと、そう言った。またもや嫌な予感が流れ、僕の体中から汗が噴き出していることが分かる。でもその嫌な予感は的中してしまう。
「彼女はステージ4の末期癌だ。」
「がん...」
それは僕ですらも知っていた、ステージ4...つまり
「治らないんですか?」
その瞬間縁起でもないことを聞いてしまったことに気づいた。
「治らないとは言い切れない、それを治すのが僕たちの使命だから。」
「じゃあ先生が、」
「私が治そうと思って治せるほどあまい病状ではないんだ...」
そういうと、少し黙ってしまった。この先生は見るからに若い、医学部を出ていると考えたらもしかしたら新米なのかもしれない。
「でも、」
「私には何もできなかった。それにする資格も必要もなかった。だから、」
そういうと少し深呼吸をのせてお医者さんは言った。
「ただ、頑張れとだけ伝えた。でも、」
すると僕に改めて視線を向けなおす。
「正直に言うと、彼女はたぶん長くはない、余命宣告も...たぶん本人は告げられていると思う。」
そんなことを言っていいのだろうか、お医者さんなるものが。それともそこまで言わせるほどに杠さんの病気はひどいのだろうか。
「...ここまで話してしまうとは、彼女に申し訳ない、」
そう言うとお医者さんはぼそりとつぶやいた。
「すまない、急にこんなことを言うなんて、忘れてくれ。」
「いえ、教えてくれてうれしいです。ありがとうございます。そして忘れられそうにないので...」
そう僕は言って、震える汗を抑えながら逆に今度は僕がお医者さんに視線を向けなおしながら言った。
「今日教えてくださったことは必ず先生との秘密にします。」
その次の日に、僕は退院をしたとほぼ同時に、彼女からLINEを受け取った。
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