ヒーロー

バァァァァン

そんな金属音というよりも、大太鼓のようなそんな迫力のある音が脳の中で反芻する。あぁ僕は死ぬのだろうか。そんな縁起でもないことが今自分の目の前まで迫っていることを感じた。

「聞こえてますか?」

そんな声を耳元に受けて僕はちょっとだけ目を開け、まぶしい光に目を順応させる。

「ぁぁ」

声にならなかったそんなうめきで僕は反応した。

「僕は大丈夫ですか?」

どうやらびっくりしたから声を出せなかっただけみたいだった。

「喋れています、大丈夫ですからね。」

そう言われると僕の耳に次はガラガラという音が流れる。どうやらここは事故直後の現場で救急車に乗せられている最中なんだろう。そんなことを言っても僕の左半身は少し傷んでいるし、右もよく動くわけではない。もしかしたら感覚があまりない右のほうがひどいのかもしれないな、などと思っていた。

「あれ、杠さんは?」

「女性の方ですか?それなら先に行かれているのであなたも精一杯頑張ってください。」

そんなことを言われながら僕はじわじわと戻ってくる右側の痛みに耐えながら病院に運ばれた。救急車に乗ったことは初めてだった。そうして気づいたら病院に着いていた。

「彼女をかばってだなんてかっこいいね。大丈夫、致命傷も後遺症もない。」

その言葉はお医者さんから告げられたものだった。

「いえ、彼女ってわけじゃ。」

「あれ?そうなの、兄妹きょうだいではないでしょ?」

「...それで杠さんは大丈夫だったんですか?」

「あ~、彼女さんは無事だよ、擦り傷だけで後遺症もない。」

「彼女じゃないです、」

「ごめんて、またいじって」

そう笑ってまたその男は言う。

「まぁそれは良いんだけどさ」

カルテを見ながら急にお医者さんの声色は変わる。

「野村さんは後頭部と右半身の打撲と右手の擦り傷による出血、そして右肩の骨折です、幸い後遺症に残るものもないし、この写真を見る限り、1週間の入院と通院で1か月もあれば十分完治すると思います。」

そう言ってレントゲンらしき写真をパソコンに映し出す。

「まだ痛むと思うし、不便なこともあると思うけど、すぐ治して部活に戻れるよう頑張ろう。」

そう微笑むお医者さんはすごく頼りになった。そうしてその先生との1週間の入院生活が始まった。割と自由はあったので読書などいつもあまりできていなかったことをしてゆっくりと過ごした。

「ついに明日で退院だね。」

「ありがとうございました!」

「といっても、まだギプスとかいろいろ通院してもらう必要があるのでちゃんと治すためにも、休養はしっかりとってね。」

そう言ってお医者さんは踵を返そうとして、ふと頭を上げた。

「そういえば、杠さんとはもう連絡はとれたかい?」

「はい、次の日にお見舞いに来てくれました。すごく謝られてしまって何も言えなかったんですけど...」

「ま、スーパーヒーローだもんね。」

「そんな大層なものじゃないです...たまたま僕が壁になっただけなんで。」

嘘だった、来ていると分かった瞬間に杠さんを守ることしか考えていなかった。そんな記憶がかすかながらにもあった。

「そうなのか、でも彼女の病気については知っているのだろう?あれはすごい大変なものだ...」

「え?」

本当に素っ頓狂な声が僕の口からこぼれた。

「知らなかったの?...じゃあ言わなかったほうが」

「いえ、」

何故かわからない、わからないのだがそれは絶対に知らなきゃいけない、そんな気がした。急すぎて頭は追いついてはいなかったが、瞬時に身体が少しだけ震える。嫌な予感というものだろうか、わからないけど寝そべっている、右足の震えが止まらなかった。

「すいません、」

そうして一瞬にしてたかぶってしまったその心臓を、呼吸を通してなんとか落ち着かせようとしながら僕はゆっくりと聞いた。

「教えてくれませんか、杠さんの...その病気を」

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