第19話 狩り
ルールグアの森に着いた。
僕は既に武蔵とロウィンを召喚していた。
勿論ロウィンの手にはレッドシザーが握られている。
受付のお姉さんとの約束通り今日は表層の入口付近だけを探索する。
今回の目的は貨幣変換オフの仕様を試すこと。だが基本的にはオン状態で討伐をする予定だ。
理由は討伐対象以外の魔獣をそれで倒してしまうと森に持ち帰れない魔獣が積み上がることになるからである。
死体を持ち帰る準備もしていないし、穴を掘ってそれらをいちいち片付けてはいられない。冒険者のススメではどちらかを推奨していた。
そのどちらもできないので討伐対象である
対象が現れた時に倒さないように牽制しながら順番に貨幣変換をオフにしようと思っている。
森での本格的な探索は二回目。
「今回も怪我無しで帰るぞ」
「モォー」
「グシィィ」
僕が目標を口にすると武蔵とロウィンが返事をした。
じゃあ行こうか。
「よし、森に入るよ。そうだな・・・今日はロウィンが僕を守って武蔵が前に出てみよう、この前とは逆だね」
「モォー」と鳴きながら武蔵が前に出た。
「手加減はいらないよ。あと追いかける必要もない。襲ってきた魔獣に即時対応してね。でも
「モォー」
「グシィ」
僕の指示をオモチャ達が理解してくれようだ。
戦いの途中で武蔵に一度戻って来てもらって貨幣変換をオフにするよりロウィンに触れて貨幣変換をオフにしてそのまま交代した方がスムーズに行くと思った。
ガサガサ。
ザザッ。
バギィ。
武蔵やロウィンが生えている木や落ちている枝を全く気にせず進むので、静かな森で僕の周りだけが騒がしかった。
「ちょっと静かに進めない?」
「モォー?」
「グシィィ?」
「無理ならいいや」
音を鳴らした方が魔獣も寄ってくるかもしれないしね。
森の中は歩きにくかった。
僕は大自然に囲まれた場所で育ったわけではないので、舗装されていない根が出たり穴が空いてたりする森はどうやったって街道と同じようには進めない。
「あっ」
僕は土から出っぱった太い根に足を引っ掛けて転んだ。
「グシィィ」
それを見ていたロウィンが直ぐに助け起こしてくれて、それから木の根にレッドシザーを突き立て切り裂いた。
「今のは僕が悪いからやめてあげて」
「グシィ?」
ロウィンがその木まで切り倒そうとしたので急いで止めた。
そうやって異音を立てながら森を歩いていると一匹の魔獣が前から現れた。
「兎だね」
耳が異様に長い兎でその耳を手足のように器用に使い予測出来ない動きをすると書かれていた。今も耳を木に引っ掛けて幹の途中に脚をかけてこちらを窺っている。
毛の色は薄い桃色。
この毛は普通の毛ではなく硬くしたり柔らかくしたりが自由にできるらしい。
この特殊な獣毛と長い耳を攻撃に使うときに毛を鋸状にして戦うことから耳切兎という名前が付けられたわけである。
推奨ランクは五級。
一人なら真っ先に逃げるべき魔獣だった。
「ロウィン、守りはお願いね」
「グシィィ」
僕はロウィンの背に隠れながら前を見る。
「武蔵、襲ってきたらやっちゃっていいからね」
そして武蔵に激励を送った。
僕の声に反応したのか
動きがかなり速い。しかも耳を使っての移動術は地面だけを足場にするのではなく周りの立ち木まで使うので動きが三次元的なものになった。
僕は遠くから見ているからなんとか動きが追えるが、武蔵と同じ位置にいたなら視界から外れる一瞬は消えているように見えたかもしれない。
「モォー」
武蔵は一鳴きした後、動かなくなった。
無闇に追いかけたりせずに反撃に備えているのだろうか?
その長い耳で攻撃される瞬間に武蔵は動いた。両足を後方に蹴り出して
「一撃か・・・武蔵はやっぱり強いな」
「モォー」
「百点満点だよ」
武蔵はゆっくりとした歩みでこちらに近づいてきたので僕は誉める。
「お金を拾うから待ってて」
武蔵もロウィンもやっぱり頼りになるな。と思いながら僕は落ちている貨幣を拾っていった。
探索中、その後も僕は何度も魔獣と遭遇することになる。
「また
「モォー」
これで三匹目だ。
毎回いつもこんな感じで終わっている。
全て違う個体なのはわかっているが僕視点から見ると学習していないように見えた。
でもお金を捨てておくなんて勿体無いことは出来ないし・・・。
僕は貧乏性が
「もう
「モォー」
「グシィィ」
「ありがとう」
慰めてくれているのか、お疲れ様と言っているのかわからないが、そのようなことを言っているのだと判断して僕は先に進む。
「次こそは
そう願いながら森の探索に戻った。
次の更新予定
オモチャに囲まれて僕は何とか生きてます 十倉九一 @tokura91
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