第9話 夜明け、そして外の世界へ
「外に出る」
そう決めたとは言え、まだ外は暗い。一応怠惰の権能を使えば暗闇でも充分に視界を確保できる……所謂ゲームで言う暗視効果を得ることが出来るのだけれども、まだまだスキルのレベルが低いからかあんまりまともに視界の確保が出来ない。
だからこそ明るくなるまで待ちたい訳だけれども……
……色々とスキルを試したりするくらいしか時間を潰せる方法が無い。
朝まで寝ると言うのも有りと言えばありなのだけれども、どうやら怠惰の付与による身体の超再生には眠気すら回復させる効果があったらしく、全く眠くない。
だからこそ色々試してみるわけだが、何故だか爪牙技や氷ブレス、鱗強化とかを使ってみると怠惰の霧とか嫉妬の雷が発生するのだ。
俺が権能を使っていないにも関わらず勝手に発動していないのを見るに、これが【大罪ノ幼龍】とか【大罪の征服者】の鑑定結果にあった「制御がおぼつかい」とか「完全な支配は出来ていない」と言う奴なのだろうか。
まぁ、勝手に発動しているとはいっても多分あんま問題にはならないとは思う。効果的には追加効果付与的な感じだし、攻撃力が低くなったりするわけじゃ無いっぽい。
むしろ毎回操作しなくていいと思うと楽だと思う。
そんな感じで各種スキルを試してみたわけだが、ここで一つちょっと思ったことがある。
それは──
俺って、飛べるのか?
幼龍とは言え、龍である事には変わりないし、翼もある。飛べても不思議ではないと思うのだけれどもどうだろうか。
スキル欄には一切飛べそうな感じのスキルが無いわけだけれども、試してみるだけ試した方が良い気がする。
空を飛べたら一気に行動範囲が広がるしね。それにやっぱりドラゴンは空を飛んでこそと言う気持ちもある。この世界に生まれた時に見たあの白銀の龍の悠々と飛ぶ姿は忘れたくても忘れられない……俺もあんな飛び方をしてみたい。
だからこそ飛びたいのだけれども、どうすればいいんだろうか。
とりあえず翼をパタパタと動かして羽ばたいてみる。
……うーん、微風が起きるだけだなこれ。
一切身体が浮かび上がる気配が無い。現状この重力に勝てる気がしないまである。
てことで次は羽ばたきながらちょっとジャンプしてみる。ちょっとでも高度があれば滞空──まではいかなくとも滑空はできるかもしれない。
そう思っての行動なのだけれども……まぁ、結果をいうなら滞空も滑空も出来ずにポスっと着地した。
なんとなく最初に羽ばたいてみて分かったけれども、どうやら現状飛ぶことは無理らしい。
確かに大罪を操れるようになったとはいえ、いまだ俺は幼龍なのだ……大目で見れば生まれたばかりとも言える。
そりゃ飛べなくても仕方がないだろう……鳥だって最初から飛べるわけじゃないしね。せめて滑空とか出来ればよかったけれども、それすらも次の進化までお預けって感じかな。
そんなこんなしているうちにいつの間にか辺りが明るくなり始めた。まだまだ夜明けって感じで薄暗いけれども、そこは怠惰の権能で暗視効果を付与すればなんとかなるだろう。
夜明けが結構早めに来たって事は進化の時に結構寝ていたんだろうな……もしあの時に外敵が来てたらもう死んでいたかもしれない。そう思うとすこし寒気がした……今後も進化は出来るだけ安全な場所でするとしよう。
辺りを見渡してみるけれども、相変わらず生物が一匹も居ない。こうも生物が居ないと凄い不気味だ……嵐の前の静けさじゃ無ければいいんだけど。
ゆっくりと巣の外へと足を踏み出す。
初めての異世界の草の感触は……特に前世と変わらない。魔力を帯びててめっちゃ硬いとか猛毒を保有してるわけじゃなくて一安心。
これから先はこの龍の巣に頼ることも無くなるだろう。つまり完全自立だ。
……頑張って生き残って強くなるぞっ!
決意を新たに歩き進め、森へと入っていく。
──こうして大罪の龍が世界に解き放たれたのだった。
育児放棄された転生幼龍はいずれ神に近き龍と化す【改訂版】 冰鴉/ヒョウカ @kan_a_alto
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